第六章第15話 それぞれの任務

2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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「南部を管轄する第四騎士団が防衛に当たったが、ことごとく敗れてしまったのだ。おい、第四騎士団長」

「はっ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様、第四騎士団長を務めておりますマチアス・ド・オラルデーニと申します。僭越ながら、私よりご説明申し上げます」

「はい。よろしくお願いします」


マチアスさんは立ち上がると説明を始める。


「まず、敵は小さな漁港であったグルダを強襲し、一夜のうちに占領しました。地方の小さな漁港であるにもかかわらず港の水深が深かったため、大型船を利用した兵の大量輸送の拠点として狙われたようです。そして、グルダの港は魔物とアンデッドたちの力によって瞬く間に軍港と化しました。そして昼は魔物とそれを指揮する敵軍の兵士、夜は魔物とアンデッドの混成部隊により守られており、何度か奪還作戦を行いましたが、特に実体を持たぬゴーストどもには我々では手も足も出ませんでした」

「なるほど。それで対アンデッドと言えば聖職者、ということで教皇様と私たちが呼ばれたという事ですか」

「ははっ! ご明察でございます」


なるほど。それなら私が行ってアンデッドだけまとめて浄化してくれば話は早いかもしれない。


そう思っていると、シャルが口を開いた。


「ではそのアンデッドたちを浄化する役目、このシャルロット・ドゥ・ガティルエが引き受けますわ」


え? 大丈夫? 確かシャルの【聖属性魔法】ってたしか洗浄魔法が使えないレベルなんじゃなかったっけ?


「あの、アンデッドの数はどのくらいいるのですか? 数によっては私が行った方が良いと思うんですけど……」

「そうですね。一番厄介なゴーストタイプが 100 匹ほどと見られております。ゾンビやスケルトンは無数におるそうですが、こちらは剣に聖水をかけることで対処可能であります」


なるほど。そんな手があったのか。それは目から鱗というやつだ。想像だにしなかった。


ん? あれ? どっかで聞いたことあるかも?


まあ、いいや。思い出せないのだからきっと初耳なんだろう。


「その程度でしたら、このわたくしに力をもってすればどうという事はありませんわ。フィーネ、わたくしだって以前よりも【聖属性魔法】のスキルレベルは上がっているんですのよ? すぐにでもあなたのスキルレベルにも追いついて差し上げますわ」

「そうですか。ふふ。そうですよね」


昔と変わらないシャルの様子に何だか安心して思わず少し笑みがこぼれてしまった。追いつくにはあのハゲたおっさんのところに行ってチートしないと無理だとは思うけれど、次の聖女はシャルなんだから是非頑張って欲しい。


「もう、何を笑っているんですの? 相変わらずですわね。それに、南部にはわたくしの騎士の実家の所領もございましてよ。それだけでもわたくしが行く理由としては十分ではなくて?」

「シャル……」


そう、シャルはツンツンしていて高慢なお嬢様っぽい言動をするのだが、根はとにかく優しいのだ。


「フィーネ嬢、我が主は以前と比べ物にならないほどのご成長をなさった。貴女の【聖属性魔法】が規格外であることは承知しているが、アンデッド相手であれば我が主も得意とするところであり、以前のような事態にはならないはずだ。それに、ここに教皇猊下がいらっしゃるということは神殿からも聖職者を派遣頂けるはずだ。であれば、尚の事問題ないだろう。猊下、そうですよね?」

「はい。その通りです、聖騎士ユーグ。王都の神殿と、グルダに近いクリエッリの分殿からも司祭を派遣いたします」


なるほど。それなら大丈夫なのかもしれないが、私のイメージは人形にされた二人組だからなぁ。


やはり何となく心配ではある。


「ちょっと、フィーネ? あなた何か失礼なことを考えているんではなくて?」

「え? あはは、ちょっと人形の件を思い出していました」

「そ、それはお忘れないと言ったでしょう!?」

「ふふ。相変わらずシャルが元気そうで安心しました」

「……べ、別に……そんな……」


シャルがそのあと消え入るような小さな声で「わたくしだって」と言ったのを私の耳は聞き逃さなかった。


うん、やはり過保護にするのも良くない事なのだろう。


「わかりました。それじゃあシャル、よろしくお願いしますね」

「ふ、ふん。このわたくしが出るのです。大船に乗ったつもりでいるとよろしいですわ」

「はい。安心して吉報を待っていますね」


私がそう言うとシャルは顔を真っ赤にしながら可愛らしく胸を張っている。


「それで、私は何をすればいいんですか?」

「うむ。北西にあるコレディア地方の大森林で不自然に魔物が増えており、12 月には魔物暴走スタンピードになると予想されておる。そこで森林都市アイロールに行き、この魔物暴走への対応に協力してほしい」

「わかりました。それではホテルと移動手段については王国でご負担いただけますね?」

「うむ。当然だ」

「それと、私たちはレッドスカイ帝国の帝都イェンアンからほぼノンストップでここまで旅をしてきました。明日と明後日の二日間、ここ王都で休息してからの対応でもよろしいでしょうか?」

「うむ。構わぬ」

「ありがとうございます」

「それでは仔細についてはそこの第二騎士団長と相談するがよい」

「はじめまして、聖女フィーネ・アルジェンタータ様。クレマン・ドゥ・ガティルエと申します」

「ガティルエ?」

「はい。そちらのシャルロットの叔父にあたります」

「そうでしたか。よろしくお願いします」


そして私は陛下のほうへと向き直るとニッコリ営業スマイルを浮かべる。


「それでは陛下、クレマン団長と協力して魔物暴走から人々を守るお手伝いをさせていただきますね」

「うむ、よろしく頼むぞ」


陛下は鷹揚に頷く。


「はい。あ、報酬は後日精算でお願いしますね」

「うむ……うむ?」

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