第六章第16話 転職

会議の後、私たちは教皇様と一緒に神殿へとやってきた。親方との約束でもあった魔法薬師に転職するためだ。


「さて、改めましてフィーネ嬢、王都までよくぞ戻ってきましたね。おかえりなさい。顔つきにも、それにその瞳にも随分と力があります。とても、とても頼もしくなられましたね。これもきっと神のお導きの賜物でしょう」

「はい、神のお導きに感謝します」


そう言って私は小さく礼を取る。


「さて、転職したいということでしたね?」

「はい。かねてより目標としてた魔法薬師への転職の条件を整えましたのでまずは副職業をそちらに変更したいと思います」

「そうでしたか。わかりました。これほどの短期間で魔法薬師への条件を整えるとは、よく努力されましたね。神もきっと魔法薬師の職をお授け下さることでしょう」


教皇様の顔のしわが少し増えたような気もするが、変わらない笑顔でそう言ってくれた。


「ありがとうございます。それともう一つ、やっとレベル 20 に到達しましたので治癒師からの転職をしたく思います」


そう、少し前にレベル 20 となったので別の職業へと転職しようと思っていたのだ。


「おお、それはおめでとうございます。やはり神のお与えになった試練を乗り越えて来たのですね。職は上位職でよろしいですね?」


教皇様はまたも優しい笑顔でそう言ってくるが、私は首を横に振る。


そう、治癒師の上位職は司祭なのだが、私は水属性魔術師にしようと思っているのだ。


司祭の適合スキルである【聖属性魔法】と【回復魔法】はどちらも既に MAX なので私はこの職業になる意味はない。司祭になれば【身体強化】という自分の MP を消費してステータスを一時的に増加させるスキルを覚えることができるのだが、今のところ必要性を感じない。


だって、私はパーティーの回復役なので前に出ることはないうえに、結界と防壁で全てを防げるのだ。基本的に動かない私が【身体強化】を覚えてもあまり意味がないと思う。


それに私は剣術について一切才能が無いことが分かったし、そもそも回復役が前線に出て行って攻撃するというのはパーティーとしてそもそもまずいので前衛職は無しだ。


すると、残る選択肢は弓士、属性魔術師、斥候だ。だが、弓士はルーちゃんがいるし斥候も森ならルーちゃんがいるし、罠のあるような場所には行く予定もないし、どこかに潜入捜査するような予定もない。


そして風属性魔法はルーちゃんがいるので残るは火土水のどれかの属性魔術師た。その中でも水属性魔法ならば旅をするうえで大事な飲料水の確保にもつながる。


「私は水属性魔術師に転職しようと思っています。多くの場合において清潔な水というのはとても大切なものですし、特に砂漠などでは一滴の水が命を分けることすらありますから」


すると私の返事に驚いたような表情をしていた教皇様はますます笑みを深めるとこう言った。


「そうでしたか。フィーネ嬢、貴女はわたしたちの想像を遥かに超えたところから人々を救おうと考えているのですね。セスルームニルが、クリスティーナが貴女を選んだ理由がよく分かります」


え? あ、いや、別にそういうわけでは……


「さ、お疲れでしょうから転職の儀は手早く済ませてしまいましょう」

「は、はい」


そうして私たちは神殿奥の小部屋に通された。以前と変わらず奥の祭壇にはたくさんの彫像が並べられており、中央の一番大きいのが就職の神様ことハゲたおっさんが鎮座している。前も思ったことだが、周りの彫像が美男美女のばかりなのでこのおっさんはやはり異様に浮いている。


「天にまします我らの神よ。


願わくば、御名みなの尊まれんことを、御国みくにの来たらんことを。


御旨みむねの天に行わるる如く、地にも行われんことを。


みましの従順なる僕、フィーネ・アルジェンタータの罪を許し、水属性魔術師、魔法薬師の生業を与え給え」


教皇様が流れるような口調で祝詞を述べる。そして次の言葉を続ける。


「彼の者に」


すると次の瞬間、二年前のあの日よりも更にキレを増した動きで教皇様がブーンのポーズを取る。


「神のご加護のあらんことを」


そしてキレはそのまま、より洗練されたフォームでジャンピング土下座を行う。


私は一瞬その華麗な動きに見惚れてしまったが、私は慌ててブーンからの土下座を行う。


やはり教皇様のブーンからのジャンピング土下座はいつ見ても芸術の域に達している。以前王都を旅立つ時に 10 点満点をつけた気がするが、今回のものはそれを越えていたように思う。


老いてなお盛んどころか、更に進化を遂げるとはさすがは教皇様だ。この向上心は私も見習わなければならないだろう。


まあ、ブーンからのジャンピング土下座を練習する気はないけどね。


「さ、お立ちなさい。これでフィーネ嬢の職業は水属性魔術師と魔法薬師となったはずです」

「ありがとうございます」


私は教皇様に言われて立ち上がるとステータスを確認する。


────

名前:フィーネ・アルジェンタータ

種族:吸血鬼(笑)

性別:女性

職業:司祭、魔法薬師

────


「はい?」


自分のステータスを確認して私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「どうなさいました?」

「あの……魔法薬師にはなれたんですが……司祭になってます」

「おお、なんと! どうやら神は貴女が水属性魔術師として生きることをお赦しにならなかったようです」

「ええぇ」


ちゃんと教皇様も水属性魔術師と言って祈ってくれたし、教皇様がわざと変なことをしたんじゃないのは分かるけど、なんだか騙されたような気分だ。


「フィーネ様、残念ですが神は聖女であるフィーネ様が司祭になられることをお望みなのです。仕方がありません」

「フィーネ嬢、申し訳ありませんが、こればかりは神の決めることですのでわたし達ではどうしようもないのです。すぐに再転職することを神はお認めになりませんので当面の間は司祭として研鑽を積んで頂く他ありません」


ぐぬぬ、あのハゲたおっさんめ。これは職務怠慢じゃないのか?


「フィーネ嬢、水属性魔術師になれませんでしたので、そちらの分のお布施は結構です」

「あ、はい」


私は大人しく総資産の 1 %にあたる金貨 20 枚を支払ったのだった。


────

名前:フィーネ・アルジェンタータ

種族:吸血鬼(笑)

性別:女性

職業:司祭、魔法薬師

レベル:20

HP:470

MP:405

STR:485

INT:385

AGI:365

DEX:425

VIT:445

MND:405

LUC:405


Exp:699,144 → 699,958

SP:80


ユニークスキル(13):

吸血:1

霧化:1

蝙蝠化:1

影操術:1

眷属支配:1

血操術:1

魅了:1

雷撃:2

成長限界突破

次元収納:3

精霊召喚 (リーチェ)

容姿端麗

幸運


スキル(23):

言語能力:10

魔力操作:1

闇属性魔法:1

聖属性魔法:10

回復魔法:10

火属性魔法:1

水属性魔法:1

風属性魔法:1

土属性魔法:1

状態異常耐性:10

火属性耐性:1

水属性耐性:1

風属性耐性:1

土属性耐性:1

闇属性耐性:10

聖属性吸収

呪い耐性:10

日照吸収

魅了耐性:10

調合:3

薬草鑑定:3

付与:3

付与鑑定:2 → 3

薬効付与:1 New!

────

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