第六章第14話 緊急事態

2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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今日は 10 月 6 日。午前 10 時の鐘が鳴る頃、私たちはついに王都へと到着した。私たちを乗せた馬車は町中にも関わらずかなりのスピードで飛ばしてお城へと向かう。既に交通規制が敷かれているようで、そのスピードを緩めることなくお城へと到着した。


「さ、フィーネ様」

「ありがとうございます」


私は再びクリスさんのエスコートで馬車を降り、そして案内の兵士の後に続いてお城の一室へと通された。


「聖女フィーネ・アルジェンタータ様、聖騎士クリスティーナ様、従者のシズク・ミエシロ様、ルミア様、ご到着!」


そうして通された場所は謁見の間ではなく少し広めの会議室だった。


そこには国王陛下、教皇様、そして六人の騎士、それにシャルとユーグの姿があった。


「陛下、教皇様、大変ご無沙汰しております。フィーネ・アルジェンタータです」


私は三人を後ろに従えて淑女の礼をとる。


「うむ。長旅、ご苦労であったな。白銀の里に無事に辿り着きエルフと知己を得たと聞いたぞ。フィーネ嬢、どうやら随分と良い経験をしてきたようだな。見違えたぞ」


王様が満足そうにそう声をかけてくる。


私は礼を解くとそれに応える。


「ありがとうございます。全ては我が騎士クリスティーナ、そしてこちらに控えております旅の仲間たちのおかげです。陛下、教皇様、皆さま、ご紹介します。こちらの黒髪の剣士がシズク・ミエシロ。ゴールデンサン巫国の出で私の二人目の騎士です。そしてこちらの緑の髪のエルフはルミアです」


私がそう紹介するとシズクさんは騎士の礼を、ルーちゃんは淑女の礼を取る。


「左様か。シズク嬢、ルミア嬢、我が国はそなたたちを歓迎しよう。そして聖騎士クリスティーナ、そなたもよくぞフィーネ嬢を守り抜き無事に帰還してくれた。心より嬉しく思うぞ」


王様のその言葉に三人は礼をもって答えた。


「陛下、四人ともお疲れです。レッドスカイ帝国から休みなしに駆けてきたと聞いておりますよ。そろそろ椅子に座らせてあげてはいかがですかな?」

「おお、教皇殿。それもそうですな。さ、着席するがよい」


そうして私たちは促されて大きな円卓を囲むように席に着いた。そして王様がすぐに話を始める。


「さて、急に呼びたててすまなかったな、フィーネ嬢。こちらから順に近衛騎士団長、第一から第五騎士団長だ。シャルロット嬢と聖騎士ユーグについては面識があるはずだな」

「はい」


私の返事を聞いてすぐに王様は話を続ける。


「さて、ここまで急いでフィーネ嬢、そしてシャルロット嬢を呼んだのには二つの理由がある。一つは知っているとは思うが、魔王警報が準警報へと引き上げられた。その影響により各地で魔物暴走スタンピードが相次いでおる」

「はい」


それは道中でも噂で聞いた話だ。カルヴァラでもデマではあったが巻き込まれているし、チィーティエンではかなりの数のゴブリンたちを撃退した。


「そしてもう一つは、我が国に南の大陸のブラックレインボー帝国が侵略戦争をしかけてきた」


なるほど? 戦争? こんな時期に? っていうか、南の大陸?


「なっ! お待ちください、陛下。世界聖女保護協定では国家間の戦争への聖女の投入は禁じられているはずです! そんな戦争に聖女であるフィーネ様を巻き込むなど許されません!」


クリスさんが私が疑問の声を上げる前に慌てたように声を上げる。


「うむ。聖騎士クリスティーナ、そなたの言う通りだ。通常であれば禁止されている。だが、通常の事態ではないのだ。どのような方法を使ったのかは分からぬが、ブラックレインボーの連中は魔物を使役しているのだ。さらにはアンデッドをも使役しているとの報告がある。魔物、そしてアンデッドと一体であるならばそれは魔の者だ。そして魔の者であるならば世界聖女保護協定で定められている聖女の出動要件を満たすのだ」

「なっ! 魔物? それにアンデッドまで!?」


これにはクリスさんも驚いている。


南の大陸とやらにはずいぶんとヤバい国があるらしい。


「はい。そしてアンデッドを使役しそれを戦争に利用しているとなると、道を踏み外した死霊術士ネクロマンサーもいることでしょう。そうなると我々神殿としても黙っているわけにはいかないのです」


教皇様が付け足すようにこの場にいる理由を説明する。


「なるほど。もう少し詳しく教えて頂けますか?」

「うむ。およそ二週間ほど前になるが我が国の南、ロンべリア半島の漁村グルダがブラックレインボー帝国の強襲部隊によって襲撃され、占領された。そしてそこには魔物とアンデッドが含まれていたということが直接の理由だ。そして経緯だが、これはフィーネ嬢たち以外には既に知っている内容だな。許せ」


すると他の参加者は神妙に頷いた。


「うむ。ことの始まりはフィーネ嬢がこの王都を旅立ってから大体半年ほどたった頃だ。突如、ブラックレインボー帝国からの交易船が来なくなってな。それで、経済に影響が出始めたのだ。同じく交易のあるイエロープラネット首長国連邦にも確認をしたが、やはり音信不通となっているそうだ」


ええと、イエロープラネットって、確かノヴァールブールからレッドスカイ帝国側の大陸を南に行った場所だったかな?


「もともと、ブラックレインボー帝国は以前から貧困に喘いでおり状況が良くないことは知っていた。そしてフィーネ嬢が旅立った年の夏ごろからはさらに苛烈な圧政を敷くようになっていてな。そのうえ無理な軍拡を進めていたことも分かっていた」


なるほど。土地が痩せていて肥沃な土地を狙った的な話なのかな?


「そうしてあの帝国が鎖国をして以来、あちらでは異変が続いていたそうだ。特に若者が次々と城に連れていかれては戻ってこないのだという。そしてそれと呼応するかのように強力な魔物や見たこともない魔物が次々と出現するようになったのだそうだ。そして鉱山の開発や軍需産業は大いに振興しているが農地はほとんど守られず、老人を中心に餓死者が多く出ているのだそうだ」


うん? じゃあ土地を狙ったという話ではなく世界征服の野望に憑りつかれた的な話?


「そして我が国の密偵から連絡が最後に入ったのは半年前でな。『ブラックレインボー帝国は魔物と通じているかもしれない』と殴り書きされた手紙が送られてきたのが最後で、それ以降連絡がない。そして二週間前、我が国は何の予告もなく突然攻撃を受けた、ということだ」


なるほど、魔王警報が鳴り響く中、どうやったのかは分からないが魔物を味方につけたブラックレインボー帝国とやらが調子に乗って侵略戦争を始めた、ということかな?


「ありがとうございます。大まかな状況は理解しました。それで、今の戦況はどうなっているんですか?」


私の質問に対して返ってきた答えは想像していたよりも遥かに悪いものだった。

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