第五章第44話 二度目の謁見
「ホワイトムーン王国より聖女フィーネ・アルジェンタータ様、聖騎士クリスティーナ様、他 2 名、ご参内!」
私たちはチィーティエンから帝都へ戻り、再び宮殿の第一正殿へとやってきた。相変わらずの朱色に金にとその色遣いが目に痛い。
私は淑女の礼を取り、三人が私の後ろに控える形で礼を取っている。そして再びあの謎の唱和が行われた。
「「「「「「「皇帝陛下万歳、聖女様万歳、万歳、万々歳!」」」」」」」
私は謎の唱和が終わった時点ですぐに礼を解く。
「うむ、面を上げよ」
「皇帝陛下は礼を解いてよいと仰っています」
またも謎の通訳が入っているが、そもそも許しを得る前に礼を解いている。これは私からの抗議の意味も込めている。
「して、聖女殿よ。首尾はどうであった?」
「皇帝陛下は――」
「はい、死なない獣は拠点と思しき場所を発見し、制圧しました」
私は隙あらばマウントを取ってこようとする謎通訳の人の言葉を無視して言葉を被せるように返答する。今回は二度目なのでそれほどざわついてはいないが、それでも周りの文官たちはざわついている。
いい加減に慣れればいいのに、とは思う。
「ルゥー・フェィ将軍より報告が上がるかとは思いますが、何らかの実験を行っていた施設のようです。私がチィーティエンにて剣と矢に祝福を授けましたのでそれらを用いれば死なない獣を倒すことが可能となります。また、再生中の死なない獣に浄化魔法を打ち込むことでも倒せることが判明しました」
「左様か。大儀であった。褒美を遣わそう。何か希望はあるか?」
「いえ。こちらが請求書となります。ホワイトムーン王国の神殿の指定した定価となりますので、死なない獣討伐のご依頼につきましてはこちらの金額をお支払いください」
「ふ、ふむ。左様か。きっちりしておるのだな」
「それと陛下、私たちはチィーティエンでゴブリンキングに率いられた
私がその件を切り出すと、皇帝は目を細めて私を見てきた。そして少し剣呑な雰囲気を纏わせる。
「聖女殿はそれについても報酬を請求するのか?」
「本来であればそうです。ただ、城壁の内部にこそ侵入されなかったとはいえあれほどに畑が荒らされ、そしてあれだけの死者が出てしまってはチィーティエンの復興は簡単ではないでしょう。ですので、金銭的な見返りではなく、人探しのご協力をお願いしたいのです」
「ふむ、人探しだと?」
「はい。実は私の連れているこちらのエルフ、ルミアと申すのですがその妹を探しております。探している妹の名はレイア、年はルミアの一つ下で髪の色、目の色ともにルミアと同じでございます。彼女は隷属の呪印によって無理矢理奴隷とされている可能性が非常に高く、私としては何としてでも解放し親元へと返してやりたいのです」
「……なるほど。よかろう。もしそのような者が見つかった場合は我が国で保護することを約束しよう」
「感謝します」
私は小さく礼を取る。
「して、同行の件はどうだ? 彼は武という意味では最強だと思うが……」
「将軍の同行についてはお断りいたします」
「ほう。それは何故だ?」
「人柄が私たちとは相容れません。たとえ将軍が聖剣に選ばれたとしてもお断りいたします」
「ふむ。そこまでか。あやつの武は使いようだとは思うのだがな。まあ良い。では別の者が聖剣に選ばれれば文句あるまいな? ここに七星宝龍剣を持てい!」
「えっ?」
すると鞘に納められた一振りの剣がお盆に乗せられて運ばれてきた。
なんと、そういうことか! 嵌められた!
「それが我が国に伝わる聖剣、七星宝龍剣だ。手に取ってみるがよい」
「はい」
私はおずおずとその剣を手に取ると、ゆっくりと剣を鞘から抜いた。
そうして現れた刀身は美しい金色で、剣の腹には銀色の七つの星が並んであしらわれている。この剣は僅かに反りのある片刃の剣で、波紋がまるで龍のようにうねっている。
剣はまるで羽のように軽く、それを握る私の右手には聖なる力がこんこんと流れ込んできてとても心地が良い。クリスさんのセなんとかやシズクさんのキリナギを持った時と同じような感じだ。
やはり聖剣と呼ばれるだけあってこの剣も持ち主を選ぶ剣なのだろうか?
周りの文官たちが大きくざわついている。おお、あの剣をその手に持つとは、などという独り言も聞こえてくるのできっとそういう事なのだろう。
「よし、候補の者をここへ」
皇帝が命令するとこの部屋にぞろぞろと屈強な男たちが入室してきた。あれだけ私に拒否されたというのに将軍もその中にしれっと混ざっている。
よし、ここはひとつ。
──── ちょっと、聖剣さん。私これ以上騎士を増やす気はないので誰も選ばないでください
手に伝わってくる聖なる力がピタリと止まる。
うん、やはりこの剣はキリナギと同じで意思を持っているようだ。
──── い・い・で・す・ね?
聖属性の魔力を剣を握っている右手に集め、そしてすぐに霧散させる。
すると私の右手に断続的に私に聖なる力が流されてきた。
うん、どうやら分かってくれたようだ。やっぱり話し合いって大事だよね。
私は剣を鞘に納めるとお盆に乗せて持ってきた人に返す。
こうして、七星宝龍剣の主を決める儀式が始まったのだった。
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