第五章第43話 戦後処理
私たちがゴブリンの王(自称)を倒した後、南にいたゴブリン軍団を含めて全てのゴブリン達は統制を失い烏合の衆と化した。自称だと思っていたが一応本当にゴブリンの王だったらしい。
だが、どう考えても今まで戦ってきた強敵たちと比べると弱かった気がするので、私はこれからもゴブリンの王(自称)と呼ぶことにしようと思う。
さて、私たちは日が暮れた後も私の明かりを頼りにそのままゴブリンたちを掃討し続けた。そして目につくゴブリンを全て倒した私たちは、記念品、じゃなかった証拠品としてゴブリンの王(自称)やゴブリンロード、ホブゴブリンなどの上位種の魔石を回収した。クラウブレッツで見たゴブリンの魔石は小さない石ころ程度の大きさだったが、ホブゴブリンやゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジの魔石は私の
そして犠牲になったクリスさんの遊撃隊の皆さんの弔いをした私たちはチィーティエンの町へと帰還した。結局、北西の森に向かったクリスさんの部隊の 50 人のうち生きて帰れたのは僅かに 14 人だった。
チィーティエンの街へと戻った時には既に深夜だったが、私たちの姿を見ると見張りの兵士たちは開門してくれた。どうやら随分と心配されていたようだ。
私たちはそのまま部屋を借りている太守のお屋敷へと戻ると、イーフゥアさんが心配そうに出迎えてくれた。将軍を結界に閉じ込めて出ていったと聞いて随分と心配をかけてしまったようだ。
ちなみに、将軍は結局私の結界を破ることができずに 30 分ほど閉じ込められたままだったらしい。これまで散々暴言を吐かれてきたのでちょっとスカッとしたのはここだけの秘密だ。
私たちはそのまま部屋へと戻ると、そのまま泥のように眠りに就いたのだった。
****
そして翌朝、朝食を食べた後に会議と相成った。
「おい、聖女! 貴様よくも俺を閉じ込めてくれたな! おかげで俺の出撃が遅れたではないか!」
私の結界に閉じ込められて出撃できなかった事を将軍は随分と恨んでいるらしい。私の呼び方がお前から貴様になった。どっちの呼び方も敬意の欠片も感じないが、これまでの観察の結果、将軍は下に見ているか敵とみなしている相手の事を貴様呼ばわりしているように見える。
ちなみに、南側にもゴブリンロードが 2 匹おり、そのうちの一匹は将軍が午前中に討伐し、もう一匹は私の結界に閉じ込められている間に発見され、そして現場の兵士たちが協力して倒したそうだ。一方、北西側には数えただけでも 9 匹のゴブリンロードがいた。
将軍の頭の中では南側 2 匹、北側 1 匹の合計 3 匹となっているようだが現実は全く異なる。
「将軍の戦術眼が悪いからそういうことになるのです。あれだけ私たちに偉そうなことを言い続けてきたのですから自業自得です。少しは反省してはいかがですか?」
「何だと!?」
「北西の森で戦った私の騎士クリスティーナ、ルミア、そして勇敢に戦った 50 名の戦士たちがいなければチィーティエンの町は落ちていたでしょう」
「たかがゴブリンロード一匹で何を言っている! 南にゴブリンのほとんどがおり、それをきっちりと叩き潰した。貴様の雑魚従者にも手柄を立てさせてやるために俺たちの邪魔にならない場所に行かせてやった。それをさも大きな戦果を上げたかのように言うとは! それでも聖女か!」
激怒した将軍はそう怒鳴り散らすと机に拳を思い切り叩きつけた。ダンと激しい音と共にその机は真っ二つに割れてしまった。
太守や他の軍幹部の皆さんは将軍の剣幕に顔面蒼白だ。
「はぁ。将軍、イライラしていては将軍の健康にも周りの人たちの健康にも悪いですよ。牛乳や小魚を食べることをおススメしますよ」
「ええい! 誰のせいだと思っている!」
私が
うん、そろそろ憂さ晴らしは終わりにして話を進めるか。
「さて、将軍は完全に間違っていますし、その証拠もあります。今回、ゴブリンたちに将軍は完全に裏をかかれてしまいました」
私は席から立ち上がると部屋の皆さんに視線を回しながらそう宣言した。
「何だと!」
「まず、今回のゴブリンの
「なっ! あの災厄級の魔物と呼ばれるゴブリンキングですとっ!」
私の発言に驚いて立ち上がったのはチィーティエン太守のイァン・ルゥーさんだ。
「ふん。何を言い出すかと思えば。貴様の従者の雑魚どもにゴブリンキングを倒せるわけがない。ゴブリンキングがいたのなら俺がいなければ全滅しているはずだ。それに北西の遊撃隊につけたのは全員経験が一年以下の新兵どもだ。14 人も生き残るはずがない」
将軍のこの言葉にまた呆れてしまう。
「将軍、私は証拠があると言いました。それに、経験の浅い新兵ばかりを私の騎士につけるなんて、随分な嫌がらせをしてくれたという事ですね。全く」
私は大きくため息をつくと再び言葉を続ける。
「さて、話は逸れましたがこれが証拠です」
私は収納からゴブリンの王(自称)の魔石とゴブリンロードの魔石を取り出すと机の上に並べる。
「この大きな魔石がゴブリンキングの体内から採れた魔石で、こちらがゴブリンロードの魔石です。すべて私が浄化しておきましたので危険はありません」
「なっ、それは本当にゴブリンキングの魔石なのですか?」
「はい。昨日倒した十メートルはあろうかという巨大なゴブリンの体内から取り出されたものです。ご覧になりますか?」
「よろしいのですか?」
そうして魔石を太守に手渡す。すると太守はジロジロと見回し、そして私にお礼を言いながら返してきた。
「ゴブリンロードは南側でも倒されているそうですし、ホブゴブリンなどの上位種や通常のゴブリンも倒されていることでしょう。それと見比べて頂ければこちらの魔石がゴブリンキングのものであると分かるでしょう」
「ふん。元々持っていた魔石を出しているだけではないのか?」
なおも将軍は私の言っていることを信じようとしない。
「それは私に対する侮辱と受け取ってよろしいですね? そして、北西の森でゴブリンたちを相手に必死で戦った勇敢な戦士たちに対する侮辱でもありますね。そんなに信用できないなら北西の森を調べてはいかがですか?」
「ぐっ」
将軍は言葉に詰まる。
「クリスさん、北西の森で戦ったゴブリンたちの数はどのくらいでしたか?」
「はい。ゴブリンキングの言葉を借りるなら、万を超える、です。実際戦った感じからしても万に近い数を倒しているのではないかと思います」
将軍は表情を固めている。
「つまりそういう事です。数千という情報を鵜呑みにし、南側からやってくるゴブリンが陽動とも気付かずに戦力を南に集中させた。その結果、まんまと将軍はゴブリンに出し抜かれたのです。もし私の騎士クリスティーナとルミア、そして勇敢な戦士たちがあそこで食い止めていなければ、南に出現した二匹目のゴブリンロードに将軍が釣りだされたところを北から襲撃を受け、このチィーティエンは惨劇の舞台となっていたでしょう」
「ぐっ」
「そして、将軍の命令で本来一つのチームとして動いていた私たちはバラバラされました。もしあと少しでも私たちが加勢に行くのが遅れていたら、私は大切な仲間を二人失うところでした」
「……」
「将軍、私はあなたを旅の仲間として迎え入れることはできません。将軍は確かに個人の武力としては高みにいるのでしょう。ですが、あなたのように自分勝手で他人を顧みず他者を見下す、そんな人と旅をしたいとは思いません。もし聖剣に選ばれたとしても、私はあなたを拒絶します」
「……そう、か……」
将軍はそれだけ言うと、そのまま俯いて黙ってしまった。
「さて、将軍からの意見もなさそうですし、私は言いたいことは言いました。太守からは何かございますか?」
「い、いえ、聖女様。この度はご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。そして、このチィーティエンをお救い頂きありがとうございました。あ、ですがお礼が……」
「お気になさらず。これだけ畑が踏み荒らされたうえに死者も出てしまっていては大変でしょう。今回はサービスにしておきますよ」
そう言って私はニッコリと営業スマイルを浮かべる。
すると太守は感動して涙を流して私にお礼を言ってきたのだった。
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