第五章第21話 変わり果てた村(前編)
歩くこと五日、死なない獣の襲撃に遭いつつも平時と変わらないペースで歩くことができた私たちは予定通りフゥーイエ村へと到着した。
しかし、私たちの目に飛び込んできた風景は、以前お世話になったフゥーイエ村とは全く異なるものだった。
建物はボロボロに破壊されて廃墟となり、人っ子一人歩いていない。
ところどころに何かが散らばっており、そこをハエがブンブンと飛び回っているのが不快さをかき立てる。
あまりの惨状に目を覆いたくなってしまうほどだ。
「そんな……」
「ふん。グズグズしていたせいだな。この腐り方だと襲撃があったのは二日前だろう。生き残りがいれば襲撃の主がわかるかもしれん。探すぞ」
将軍はそれだけ言うと平然とした様子で村の中を歩いていった。そして破壊された建物に生存者がいないかを見て回っている。
そうか。私のせいか。将軍の言っていた通りにあのまま山狩りに行けばこの村は助かったかもしれないのか。
私は何ともやるせない気持ちになる。
治療して助かったと喜んでいた人たちとその家族の人たち、村長さん、ツィンシャまでの道案内をしてくれたルゥー・ヂゥさんといった関わりのあった人たちの顔を思い浮かべると涙が滲んでしまう。
「フィーネ様……私はフィーネ様の判断は正しかったと思います」
「そうでござるよ。いくら将軍でも寝ている間は一人で殲滅できていなかったでござる。それにもし将軍の言う通りにしていたとして、拙者たちがいない間にチィーティエンが襲われてもっと多くの被害が出ていたかもしれないでござるよ」
「クリスさん、シズクさん……」
二人はそう言って慰めてくれるが気分は晴れない。
「姉さま、ここの人たちは仕方なかったんですよ。この村は姉さまの差し伸べた救いの手を振り払ったんですから、自業自得です」
「ルーちゃん……」
それでも、何とかできたかもしれないじゃないか。
そんな私たちの様子を見ていたリーチェがフードの中から出てくると、私の頭をいい子いい子と撫でてくれた。
「リーチェまで……そうですね。くよくよしていても仕方ありませんね。私たちも生き残りがいないか探してみましょう」
「はい」
私たちは気を取り直して村の捜索を行う。やはりどこも酷い状態で、とても生き残りがいるようには思えない。
もし仮にいたとしてもどこかに逃げているのではないだろうか?
誰一人として見つけられない絶望的な捜索を続け、私たちは村長さんの家だった場所へとやってきた。
村長さんの家は他の木造の家と違って石造りなため部分的には原型を留めている。それでも壁に大穴が空いていたりと激しく破壊されている。
この村に一体何があったのだろうか?
「人の気配はありませんね」
クリスさんを先頭に半壊した建物の中へと足を踏み入れる。
「誰もいなそうでござるな。あ、いや? この声は?」
「えっ? あたしは何も聞こえませんでしたよ?」
「む? 空耳でござったか?」
「空耳ですか……もしかしたら化けて出てしまっているのかも知れませんね。あとできちんと送ってあげましょう」
「ひっ」
あ、しまった。クリスさんが化けて出るで反応してしまった。
「クリスさん、私がいますし、それに私が浄化魔法を付与した剣をお借りしているんですから、今のクリスさんなら大丈夫ですよ」
「! そうでした! 私としたことが!」
流石にそろそろ慣れて欲しいな、などと考えていると私にも誰かの声が聞こえてきた。
「これは……子供の声?」
「えっ?」
「ちょっと静かにしてもらえますか?」
そうして静かになったところで、私はどんな小さな音も聞き漏らなさないように聴覚に全神経を集中する。
「……ぐすっ」
やっぱり!
これは子供の泣き声だ。生存者がいる!
「こっちから声がしますね」
私は声のしたほうへ、建物の奥へと歩いていく。するとそこには破壊された瓦礫が積み重なっていた。
「この瓦礫の下っぽいですね」
「かすかに声が聞こえるでござるな」
どうやらシズクさんにも聞こえているようだ。
「では瓦礫をどかしてしまいしょう」
「拙者も手伝うでござるよ」
「あ、待ってください。私がやります」
クリスさんとシズクさんが作業に掛かろうとするが時間の無駄なので止める。
「え? フィーネ殿?」
「フィーネ様、力仕事でしたら私たちが」
「いえ、力仕事じゃありませんから。というか、クリスさんは前にその現場にいたじゃないですか。はい、収納」
私は瓦礫を自分の収納に入れるとそのまま建物の外へ投棄する。
「は、はは。拙者の主もでたらめだったでござる」
唖然とした表情でそういうシズクさんに私は毅然と抗議する。
「ちょっと。将軍と一緒にしないでください。これはスキルなんですから」
「はは、そうでござるな」
白銀の里で地下に閉じ込められた時よりも瓦礫の量はかなり少ないため、一度で邪魔な瓦礫を全てどけることができた。
そしてその瓦礫の下からは板張りの床が現れた。だが、その一ヵ所に鉄になっている部分がある。
「あれは?」
「隠し部屋の入り口、でしょうか?」
私たちはその鉄になっている部分に近づくとそこを軽くノックしてみる。
ゴンゴンと重そうな音がするが、少し響いているような感じがあるのでどうやら裏側に何かあるような気がする。
だが、開けるための取っ手などがない。一体どうやって開くのだろうか?
「フィーネ様、お下がりください。私が斬ります」
「え? ああ、はい。お願いします」
「はい」
クリスさんが聖剣を抜き、そして狙いすました四連撃で鉄板を四角形に切り抜いた。
すると切り抜かれた鉄板がゴトンゴトンと大きな音を立てて中へと落ちていった。
私が中を覗くとそこは竪穴になっており、梯子が掛けられているが、ほぼ完全な真っ暗闇だ。周りが明るいせいで暗闇を見通すのは少し大変ではあるが、じっくり見れば問題ない。
どうやら穴の深さは 2 ~ 3 メートル程のようだ。
「誰かいますか?」
私は呼びかけてみると、小さく「ひっ」と引きつった様な子供の声が聞こえる。
「子供が中にいますね。行ってみましょう」
「お待ちください。フィーネ様。私が先に行きます」
「え、でも、クリスさんはこれだけ暗いと何も見えないんじゃ……」
「う、ですが安全を確認せずにフィーネ様を先に行かせるなどできません」
「うーん、子供の声がするので大丈夫だと思いますけど……」
「では拙者が先に行くでござるよ。拙者も夜目はかなり利くようになったでござるからな」
そう言うとシズクさんがするりと降りていき、そして着地すると OK サインを出してきた。
「じゃあ、クリスさんとルーちゃんはここで見張りと兵士の皆さんが来た時に状況を伝えてあげてください」
「「はい」」
私はそう言い残すと梯子を降りて穴のそこへと到着した。そこにはシズクさんと小さな木の扉があった。
「フィーネ殿、開けるでござるよ」
そう言ってシズクさんは扉を引いて開ける。すると、そこにはおよそ 2 メートル四方程の小さな地下室で、そこには小さな女の子と男の子、そして血まみれで倒れているルゥー・ヂゥさんの姿があった。
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