第五章第20話 フゥーイエ村へ
2021/12/12 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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あの作戦会議の後に守備隊の人たちと協議した結果、剣 1,000 本、矢 3,000 本に浄化の魔法を付与することとなった。
私は MP 回復薬でドーピングをし、朝から晩まで休みなく付与をし続けた結果、この作業をなんとか四日間で終わらせることができた。忙しかったせいで生活スタイルがちょっと夜型になってしまったが、これからは強制的に規則正しい生活になるので何とかなるだろう。
「聖女よ、やっと終わったか」
からの、将軍の第一声がこれである。
私も遊んでいたわけではないのだし、もう少し言い方というものがあるのではないだろうか?
いや、だが私ももう 14 才の大人だ。私が前の世界で何歳だったのかはもうよく覚えていないが、ここはいちいち目くじらを立てずに大人として余裕を見せつけてやる場面だろう。
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って、将軍のが遥かに年上じゃないか!
この人どんなに若くたって 20 代後半くらいでしょ?
こんな私みたいな小娘に大人の対応を、なんて思わせて恥ずかしくないのか!?
あ、いや、恥ずかしくないんだろうな。この表情は。
うん、やっぱり私が大人になろう。かなり儲かったしね。
と、いうわけで私は寛大な心でニッコリ営業スマイルを浮かべて対応する。
「はい。お待たせしましたが、ようやく準備が終わりました。あとは将軍の武器にも祝福をさせてください。これで将軍もあの死なない獣を浄化できるようになります」
「そうか。では頼もう」
「あ、ええと、地面に置いていただけませんか? 私だと重くて持てないような気がしますから」
「……む。そうか。聖女というのは弱いのだな」
「え、えぇ。そうなんです」
……頼むから自分にできることは他人でもできると思わないでほしい。
イライラが表に出ていないかが心配だが、これまでに培った私の営業スマイル力があればこの程度、どうという事はないはずだ。
「フィーネ様、お気持ちは分かりますが、どうかお怒りをお鎮めください」
と、思っていたのだがクリスさんに小声でそう
そんな私たちのやり取りをまるで聞いていないかのように将軍は私の目の前に斧槍を置く。
「では」
私は斧槍に手を触れ、浄化魔法を付与する。
「はい。おわりました。う、ん……はい。やっぱり重くて持ち上がりませんでした」
私は斧槍を持ち上げて将軍に返そうとしたが無理だった。きっと受け取っていたら落としていたことだろう。
「ああ、そのようだな。さあ、行くぞ聖女よ……って、その女も来るのか?」
私の後ろに立つイーフゥアさんを見た将軍が露骨に嫌そうな顔をする。
「はい。イーフゥアさんには秘書的な役割を担当してもらっていますから」
「将軍、よろしくお願いします」
イーフゥアさんが将軍に熱い視線を送りながら挨拶をすると将軍は露骨にたじろいだ。
「あ、ああ。貴様も、足手まといにはなるなよ」
「はいっ!」
睨み付けられたというのにイーフゥアさんは相変わらず嬉しそうにしており、それを見た将軍はまたまたたじろいだ。
そう、イーフゥアさんを連れて行くのは見ての通り、対将軍の切り札になるかもしれないからなのだ。
私が付与の仕事をしている時にも再三出撃を急かすためにやってきたのだが、イーフゥアさんはその全てを追い払ってくれた。そして昨日などはイーフゥアさんの姿を見ただけで将軍は諦めて帰っていくようになったのだ。
こうして考えてみると、単に戦うことにしか興味がないだけでそこまで根は悪い人ではないのかもしれない。
ま、私は一緒にいるのはごめんだけどね。
****
チィーティエンの町を出発して私たちは一路、フゥーイエ村を目指して進んでいる。
だが、その、何というか、とっても暇だ。
将軍が一人でずんずんと前を歩いていき、次々と襲ってくる死なない獣を全て一撃のものとに蒸発させていっている。しかも周りの木々までまとめて薙ぎ払っている。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
将軍が槍斧を振るうごとに森を走る細い街道に少し開けた休憩スペースが生まれていく。
「必要もないのに森の木を切るなんて……」
その様子を見たルーちゃんは悲し気にそう呟いた。ルーちゃんの本質は食欲の民だと私は思っているのだが、一応は森の民でもあるらしい。なので、こうやって森の木が斬られることは彼女にとってはきっと辛いことなのだろう。
「リーチェ、ちょっと破壊された森の再生を助けるためにちょっと一緒にいてくれますか?」
私はかわいいリーチェを呼び出してそうお願いする。すると、リーチェはいつものようにニッコリと笑ってサムズアップをしてくれ、そして私のローブのフードの中へと潜り込んできた。
どうやらいつもの場所でお昼寝するつもりらしい。私のフードの中がお気に入りの寝床というあたりもかわいくて仕方ない。
やっぱりリーチェは世界で一番かわいいんじゃないだろうか?
そうこうしていると、将軍から声をかけられた、というか怒鳴られた。
「おい、聖女! 切れ味が落ちきたぞ」
「ああ、はいはい。補充ですね」
私のところにやってきては魔力の補充を要求する。
うん、私はガソリンスタンドか何かかな?
色々と文句を言うのも面倒なのでとりあえずは言われたとおりに魔力の補充をする。
「ふん。しかしさすがは聖女だな。弱くても不思議な術を使う」
褒めているのか
「ううん、しかし暇ですね。やることがありません」
「やはり帝国最強の武と称されるだけのことはあるでござるな。しかし……」
「ああ、強いのは認めるがフィーネ様、いや他人に対する態度が……」
「あんなに森を破壊するのはダメですっ!」
うーん、やっぱり良い印象はないよね。
はぁ。
****
そうして歩いているうちに日が傾いてきたので私たちは野営の準備に入った。
とはいったものの私たちは完全なお客様対応だ。テントの設営から食事の準備まで全てチィーティエン守備隊の皆さんがやってくれた。
「聖女様、明日からは本格的な山道になるそうです。どうかお体をお休めになってくださいい」
「ありがとうございます。イーフゥアさん。でも、イーフゥアさんこそこういった旅には慣れていないでしょから、ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます。聖女様。ですが、将軍が守ってくださいますから安心です」
「……そうですね」
そういえばあの将軍は眠りながら敵を斬るとか言っていたけど、あれは本気だったんだろうか?
気になった私はちょっと夜型になっているのを言い訳に少し夜更かしをしてみた。
そしていつも通り石への付与をしながら過ごしていると、外から音が聞こえてきた。
ブンッ
ドサッ
ブンッ
ドサッ
何やら不穏な様子なのでテントから顔を出して外を覗いてみる。
するとそこには胡坐をかき、目を閉じたまま座る将軍の姿がそこにはあった。
その手にはいつもの斧槍が握られており、近くには将軍を狙う死なないクマの姿がそこには遭った。
「あ、あれは!」
私は慌てて結界でクマを止めようとしたが、クマが将軍の間合いに入った瞬間に真っ二つになりそのまま地面に落ちる。そして付与された浄化魔法が発動したのか、クマは復活することなく灰となって消えたのだった。
「……ほ、本気だったんですね」
「あれは……すさまじいでござるな」
「あ、シズクさん。起きていたんですね」
「何やら不穏な空気を感じて目を覚ましたでござるが……」
「とても人間技とは思えませんね……」
「そうでござるな。ただ、拙者たちも人間ではござらんがな」
シズクさんは少しおどけた様子でそう言った。それを聞いた私はクスリと笑ってしまう。
「ふふ、それもそうですね。じゃあ、あとは皆さんに任せて眠りましょう」
「そうでござるな」
こうして私はテントに戻ると眠りについたのだった。
将軍、実は起きていたとか、そういうわけじゃあないんだよね?
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