第五章第22話 変わり果てた村(後編)
「ルゥー・ヂゥさん!?」
私は慌ててルゥー・ヂゥさんのところへと駆け寄る。
「ひっ」
部屋の隅で身を寄せ合っていた子供たちが小さく悲鳴をあげる。
あ、そうか、この子たちは暗くて誰が来たのか見えていないのだろう。
「大丈夫ですよ。私たちは皆さんを助けにきました」
「あ……あの、ときの、おねえ……ちゃん……?」
「ふふ、覚えていてくれたんですね。はい、もう大丈夫ですよ」
私はできるだけ二人を安心させるように優しい声をで語りかける。そしてそっと手を伸ばして二人の頭を優しく撫でてあげる。
「あ、あ、うえぇぇぇぇん」
「うわぁぁぁん」
触れた私の手を伝って子供たちが私に抱きついてきて、そのままわんわんと泣き出した。
「暗い中、怖かったでしょう。その小さな体でよく頑張りましたね。私たちが来たのでもう大丈夫です」
そう言って纏わりついてきた子供たちの背中をポンポンと優しく叩いて落ち着けてあげる。
「シズクさん、この子たちを地上へ連れていって貰えますか?」
「任せるでござる。さ、ここを出るでござるよ」
「あ……」
「大丈夫ですよ。外には兵隊さんも沢山いますし、帝国で一番強いルゥー・フェィ将軍もいます。だから外に出ても大丈夫ですよ。私はルゥー・ヂゥさんを治療しなければいけませんから、あっちのお姉さんと一緒に外で待っていてくれますか」
「……はい」
不安はあるようだが、子供たちは素直にシズクさんの誘導で外へと向かってくれた。
「さて、それじゃあルゥー・ヂゥさんを治すとしますか。解呪、解毒、浄化、治癒!」
何が起きているかわからない時用の欲張りセットでルゥーヂゥさんの治療を行う。解毒にだけ手応えがなかったのでやはりここを襲ったのはあの死なない獣で間違いないだろう。
「う、ここは……?」
「ああ、気が付きましたね、ルゥー・ヂゥさん」
「……あれ? この声……? あの時の……聖職者様? ああ、そっか。俺……死んだのか……」
そう言ってルゥー・ヂゥさんは諦めたような表情を浮かべる。
「はぁ、まだ死んでいないですし、一緒にいた二人の子供たちも無事ですよ」
「えっ!?」
「ですから、私が治療したのでルゥー・ヂゥさんは生きてます。傷も呪いも問題ないはずですけど、どこかに違和感はありますか?」
「え? え? え? いや、えっと、その、あの、違和感?」
ルゥー・ヂゥさんは慌てた様子でキョロキョロと辺りを見回すが、果たしてちゃんと見えているのだろうか?
「どこか痛かったり感覚がおかしかったりするところはありますか?」
「……目が……見えません」
「……それは暗いからですね。はあ、どうやら大丈夫そうですね。それじゃあこの地下室から出ますよ」
「は、はい……」
私はルゥー・ヂゥさんの手を引いて立たせると、そのまま出口へと向かう。そしてそのまま梯子を登らせて地下室から脱出したのだった。
****
その後、私たちは生存者の捜索を打ち切った。残念ながら、フゥーイエ村の生き残りはルゥー・ヂゥさんと二人の子供だけのようだ。
そして私たちは亡くなった村人たちを埋葬し、私は迷ってしまわないように葬送魔法で送ってあげた。
そして野営の準備を整えた私たちはルゥー・ヂゥさんに事情を聞いている。
まず一人目の女の子はルゥー・ヂゥさんの妹でルゥー・チュンリィンちゃん、そしてもう一人の男の子はそのお友達のリィウ・ヂュィンシィーくんというそうだ。
そして、フゥーイエ村がこんなことになった原因はやはりあの死なない獣で、大挙してこの村を襲撃してきたそうだ。
襲撃事件があったその日、チュンリィンちゃんの家、つまり村長さんの家にヂュィンシィーくんが遊びに来ていた。そして、襲撃を受けたちょうどその時は庭で遊んでいたのだそうだ。
そしてたまたま家にいたルゥー・ヂゥさんが二人を守るために、私が浄化魔法を付与した
そして以前の経験から呪いで記憶を失うことを理解していたルゥー・ヂゥさんは、自分が記憶を失い二人を守れなくなる前に秘密の倉庫であるあの地下室に二人を連れて避難したらしい。しかし避難したは良いもののそのままルゥー・ヂゥさんは意識を失い、チュンリィンちゃんとヂュィンシィーくんではあの鉄の蓋を開けて出ることもできずにそのまま閉じこめられてしまったのだそうだ。
実際には鉄の蓋の上には大量の瓦礫が積み重なっていたのでルゥー・ヂゥさんが元気だったとしても出られなかっただろうが、入り口が埋まったのは死なない獣に襲われないという意味ではラッキーだったのかもしれない。
「そうでしたか。やはり死なない獣ですか。やはりあの時ちゃんと調べるように強く言っていればこんなことにはならなかったでしょうに……すみません」
「いえ。調査を拒んだのは父です。村長として誤った判断をした結果です。フィーネ様の責任ではありません」
「……ですが……」
「おい、聖女。そいつの言う通りだ。己の力量もわきまえない雑魚が死んだだけだ。気にするな」
「……将軍、いくらなんでも亡くなった方にそのような言い方はないのではないですか?」
「なんだと?」
将軍が少し怒気を孕ませた目で私を見たが、その私の後ろにいるイーフゥアさんを見てすぐに矛を引っ込めた。
「ふ、ふん。まあ、いい。聖女よ。お前が気にする必要はない。そういうことだ」
「……分かりました。話を先に進めましょう」
ルゥー・ヂゥさんの方を向き直ると、なぜかルゥー・ヂゥさんが腰を抜かしている。
「あれ? どうしました? ルゥー・ヂゥさん?」
ルゥー・ヂゥさんが口をパクパクしている。久しぶりの口パクパクだが、前回はクリスさんだったかな?
「あ、あの、フィーネ様って、その、せ、せ、せせ」
「せせ?」
「聖女様だったんですかっ!?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? ああ、そういうえば確かに言っていなかったかもしれませんね。まあ、でも聖女なんて自分から好き好んで名乗るようなものではないですから」
ルゥー・ヂゥさんは「名乗るものじゃないのか……」などと独り言を呟いている。
別に私は聖女様になりたいわけじゃないし、清廉潔白で慈愛と奉仕の心に満ち溢れた乙女でもなんでもない。
そもそも私は吸血鬼なんだし、シャルという聖女になりたくて努力している人がいるのだから、その彼女がやればいいのだ。
「ふん、その聖女の手を払いのけたのが貴様らなのだ。それで、獣どものアジトはどこだ?」
将軍が傷口に塩を塗ってさらに鞭で打つような暴言を浴びせる。彼のこの暴言癖は本当にどうにかならないものだろうか?
「す、すみません。将軍。ただ、北西の方向から来る、ということしか」
「そうか。ならば北西を中心に山狩りだ。さあ今すぐ出ぱ……いや、明日の朝出発にするか」
将軍が私を見て出発しようと言いかけたが、その後ろに立つイーフゥアさんの顔を見て明日の朝出発を宣言した。
ふふふ、イーフゥアさんの効果はてきめんだ。今のところ作戦は成功なんじゃないかな?
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