第一章第15話 レベルアップへの道
「クリスさん、そろそろ経験値を貯めてレベルアップを目指したいんですが」
「ああ、フィーネ様もいよいよ聖女への道を歩まれる決心をなさったのですね。道中の護衛はお任せください!」
いや、吸血鬼だから聖女にはならないと思うけどね!
「で、どうすればレベルアップするんでしょう? やはり魔物退治とかですか?」
「いえ、フィーネ様はまだレベル 1 ですので街中での活動のほうがよろしいかと思います」
どうやら街中でもレベルアップする方法があるらしい。アニュオンの初見プレイ動画では真っ先に魔物退治に向かっていたと思うのだけれど。もしかしてこのイベントルートだとそれは推奨されていないのかな?
「どうすればいいいんですか?」
「治癒師ですと、神殿に行って祈りを捧げる、怪我人や病人を探しては治癒して回る、高レベルの治癒師や司祭様の助手として教えを乞う、といった方法があります」
「ええぇ」
とりあえず、神殿に行って腹筋と戦うのは勘弁してほしい。それに他の治癒師や司祭の助手やら弟子やらになっても魔法の種類を覚えられる以外はほとんど得ることがない気がする。主にレベル的な意味で。それなら、図書館なりで魔導書(あるのかは知らないが)でも読んだほうが時間の節約になるだろう。
「その中からだと、治癒して回る、ですかねぇ?」
「なるほど。苦しんでいる人々をお救いになりたいとは。さすが、お優しいフィーネ様らしいですね」
なんだか、勝手に勘違いが進んでいく。
違うから。断じてそんなんじゃないから!
「魔物退治はどのくらいでできるようになるんですか?」
「そうですね。治癒活動だけですと、おそらく 5 ~ 10年ほど活動してステータスが 100 を超えてきたあたりからパーティーを組んで魔物退治に向かう、というのが一般的な流れですね」
「ええぇ」
「お言葉ですが、フィーネ様。魔物どもは我々人間と比べて非常に強いのです。どんなに弱い魔物でも平均ステータスは 100 を超えると言われております」
なげぇよ! そんなにやってられるか。っていうか、死んでもリスポーンするんじゃないの? そんなにデスペナルティ大きいの?
「フィーネ様、そんな顔をなさらないでください。数匹の魔物であれば私も御身をお守りする自信はございます。ですが、数十匹の群れに囲まれた場合、お守りできない可能性がございます。お命は一つしかございません。どうかご無理はなさらないようお願いいたします」
命は一つって、何このエクストリームモード。ハードモードなんてレベルじゃねぇ。
それに、こういうのって普通はレベル 1 でも倒せるような雑魚がわんさか湧いているもんなんじゃないの?
「ですので、もし今から外に出られるというのでしたら、10人以上の護衛を雇い、フィーネ様の周りを固めることとなります。ただ、そうした場合はほとんど経験値が得られないので目的は達成できないでしょう」
「どういうことですか?」
「基本的に、魔物を攻撃した者に経験値が入ります。そもそも、後ろで守られているだけでは経験値が入りません。そんなことでレベルアップできるなら、今頃騎士団も傭兵団もハンターたちも、高レベルの者たちばかりになります」
なるほど。どうやらパワーレベリングはできない仕様のようだ。初心者が上級者に追いつくには必要だと思うけれど。
でもできないなら仕方がない。
「高レベルっていうのはどのくらいなんですか?」
「そうですね。職業にもよりますが数の多い戦士系の職業ですとレベル 20 を超えていれば高レベルと見做されます。これは自由に転職できるようになるのがレベル 20 からということもあります。レベル 15 くらいになればもう一人前、といったところでしょう。治癒師の場合は申し訳ありませんが何とも言えません」
「どうしてですか?」
「治癒師は人数が少ないうえ、前線に出る方も少ないのです。それに魔物討伐隊などに加わったとしても最前線には出ず、周りに護衛をつけて治療を専門に行う、という方ばかりなのです。治癒師の方々はどうしても防御力も HP も低いですし、治癒師が先にやられてしまうとパーティーが崩壊してしまいます。ですので、これは仕方のないことなのです」
なるほど。状況が理解できた。
パワーレベリングができないから治癒師のレベルが上がらずステータスが低いまま、なので前に出せなくてレベルが上がらない。
そうこうしている間に前衛のレベルが上がってきて、相手をする魔物のレベルが上がる。なので、ますます前に出せなくなる。
そして、パーティーとしては治癒師が必要だからある程度使える治癒師がいたら囲い込んで離さないからレベルが固定される、と。
うん、完全に負のスパイラルってやつだね。
あれ? これ無双したい人にとっては不遇職じゃね?
「……ーネ様、フィーネ様、いかがなさいましたか?」
おっと、クリスさんが心配そうに私を見ている。
「いえ、考え事をしていただけです。とりあえず、図書館にでも行って勉強したいなー、なんて」
「なるほど。人々を治療するためには、まずは教皇様のように病についての知識を習得する必要がある、ということですね。さすがです。フィーネ様。私にお任せください。すぐに手配いたしますので、本日はこの部屋でお待ちください」
そう言うとクリスさんは部屋を飛び出していった。
いや、うん。全然違うんだけどね。
私は勘違いしたまま使命に燃えて走っていくクリスさんを憂鬱な気分で見送った。
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