第一章第10話 職業選択の自由
「フィーネ様。それではこれより神殿に向かいます。これでようやく職業を得ることができますね」
「ああ、うん、ソウデスネー」
「なんでそこで棒読みになるのですか。フィーネ様はどんな職業を授かるのか、楽しみではないのですか?」
「うん?」
「えっ?」
クリスさんが何か驚いたような表情をしている。
「えーと、職業は王様に強制されるのでは?」
「フィーネ様。国王陛下にそのような権限はございません。最初の職業は、その人に最も適した職業を神様がお選びになり、お授けくださるのです」
「え、選べないんですか?」
「はい。なんでも、昔人々が職業を自由に選べたころは死者が絶えなかったそうです。自分にあっていない職業を選んで失敗して、命を落としてしまう者が多かったのだそうです。そしてその状況を嘆き悲しんだ神様の一柱が就職を司る神様となり、はじめての職業として最適なものを選んでお与えになるようになった、と伝えられています」
「そ、そうだったんですね……」
どうしよう。そもそも吸血鬼に最適な職業って何だ?
「ええと、どんな職業があるのですか?」
「最初に就ける職業は、戦士、格闘家、治癒師、四属性のうちいずれかの属性魔術師、弓士、斥候の 6 種類ですね。戦士だと剣や槍で戦う感じのパワータイプ、格闘家は拳で戦うスピードタイプの前衛職です。治癒師は治癒魔法で怪我を治したりします。属性魔術師は、火土水風いずれかの属性魔法を使う魔術師ですね。弓士は弓矢で遠くの敵を攻撃します。斥候は、裏方さんですね。敵の気配を探ったり、罠を見つけたり、あとは潜入調査をしたりします」
うーん、最初に押し付けられそうになった設定に【身体強化】と【体術】がついていたな。それならスピードタイプの格闘家か、いや、魔力を伸ばす意味で属性魔術師も良さそうかな?
「ですが、きっとフィーネ様は治癒師の職を授かると思いますよ。あれほどの治癒魔法が使えるのですからね。すぐに王国で一番の治癒師になれますよ!」
すごくいい笑顔でクリスさんがそう言ってくる。
あー、うん。わかる。わかるよその気持ち。悪気が一切ないのも分かる。
でも、吸血鬼だしなぁ。【回復魔法】も【聖属性魔法】も初期ボーナスで割り振っただけで、そもそも吸血鬼だと今後成長しないらしいからレベルをMAXに上げたんであって、向いているとは思えないんだよなぁ。
そもそも、だ。傷を治した相手の血を吸いたがる治癒師って、どうよ?
そうこうしているうちに私たちを乗せたやたら豪華な馬車は神殿に到着し、神殿の中へと案内される。
神殿の扉を通り、私が最初に見たのは巨大な神様とされているものの像だった。
その姿は、なんとあのキャラメイクの時に私を魔王にしようとしていた、あの運営のハゲたおっさんそっくりだった。
「げっ」
思わず変な声が出てしまう。クリスさんが怪訝そうな目でこちらを見ているので、何でもない、と首を横に振り、案内の人の後をついていく。
おい、あの運営。一体何考えてんだ?
「おや? フィーネ様は就職の神のお姿を見るのははじめてですかな? 就職を司る神様は他の神々とは違い、我々に親しみやすいお姿をされていると言われております。言い伝えによると、見た目に拘らず職能を極めることの大切さを身をもって我々にお教えになるため、あえて見目麗しいお姿を捨て、あのような平凡な容姿となられたそうですよ」
「へ、へえ、そうなんですね」
あのおっさん、自分をゲームの中に登場させるためにわざわざおかしな設定をねじ込んだだろう? 職権乱用じゃないのか?
「さて、教皇猊下がお待ちです」
そうして私たちは小さな小部屋に通された。そこにはいかにも教皇、といった感じの老人が私たちを待っていた。
「おお、よくぞ参られましたな。わたしが今代の教皇を務めておりますフォティス18世です。フィーネ嬢、そして聖騎士クリスティーナ。さ、そのようにかしこまらず、おかけになってください」
「ありがとうございます」
教皇様は王様と違って威圧してくるタイプではないらしい。非常に優しい言葉と口調で語りかけてくるが、その声は力強く強い意思を感じさせるものだった。
「どうぞ」
私たちは案内の人の淹れてくれた紅茶をすすりながら話を始める。
「それでは、フィーネ様。神より職業を頂戴する前に、少しだけフィーネ嬢の事を教えていただけますか? というのも、そちらのクリスティーナより、フィーネ嬢には何やら就きたい職があると伺っておりまして。ですので、少しでもお望みの職に近い職を得られるようにわたしも神に祈りを捧げたく思います」
あれ? もしかしてこの教皇様は良い人?
「ありがとうございます! 実は、私は吸血鬼でして――」
「フィーネ様っ! 教皇猊下の前でまでその設定はやめてください!」
クリスさんに怒られてしまった。どうしても吸血鬼であることを信じてもらえない。まったく、この脳筋くっころお姉さんはどうすれば信じてくれるのだろうか?
「はっはっはっ。まあ、良いではないですか。フィーネ嬢にも思うところがあるのでしょう。わたしに全てお話しください」
おおおお、この教皇様やっぱり良い人だ。めっちゃ話を聞いてくれる!
やはり聖職者というのは人格者でもあるようだ。どこかの脳筋くっころお姉さんも見習ってほしいものだ。
「ありがとうございます。今まで誰も信じてくれなくて……」
「そうでしたか。それは大変でしたな。ではわたしが貴女のお話を全て聞き届けましょう。さ、話してみてください」
「はい! 実は私、【聖属性魔法】と【回復魔法】が使えて、日光浴が大好きな吸血鬼なんです」
「ほうほう。それは興味深いですな」
「げ、猊下! それは彼女の設定で!」
「クリスティーナ。良いのですよ。最後まで話を聞きましょう。さ、続けてください」
「はい! 私が生まれたのはクリスと会う前の日のことで、シュヴァルツの本拠のある森の中にある町の廃墟で生まれたのです」
「ほうほう。そのような場所でお生まれになるとは。それは大変でしたな。して、ご両親はどちらに?」
「この世界には、両親はいません」
「そうですか。ご両親はいらっしゃらないのですな。それはそれは、大変なご苦労なさいましたな」
「いえ、そんなことは。そう、それでですね。今は【回復魔法】と【聖属性魔法】しか使えるスキルはないんですが、いずれは吸血鬼としての力を取り戻して、一人でも生きていけるようになりたいのです。なので、そのために最適な職業を得たいと思っているのです」
「ほぉ。そのお年で、この先の人生をしっかりと考えておられる。貴女はしっかりしたお方ですな。きっと、遠いところで見守ってくださっているご両親もさぞお喜びでしょうな」
「はい。ありがとうございます!」
「さて、事情はよくわかりました。そういうことであれば、最初の職業については神に委ねるのがよろしいでしょうな。神は、貴女が神を信じる善良なる心を持ち、神に祈りを捧げる限り、迷える貴女を常にお導き下さいます」
「はあ」
「さて、それでは、わたしは貴女の就職の儀の準備をしてまいります。それまではこの部屋でお待ちください」
そう言って教皇様は立ち上がると、私たちを残して部屋を出ていった。
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