第一章第9話 強制連行

2022/05/30 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

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さて、今日も今日とてスローライフ、と思っていたら満面の笑みを浮かべたクリスさんが手紙をもってやってきた。そして開口一番、絶望的な事実を突きつけてきた。


「フィーネ様。我が国の国王陛下より招待状が届いております。迎えの馬車をご用意いたしましたのでご支度ください」

「えーと、今日はお昼寝をするので来年じゃあダメでしょうか?」

「ダメに決まっております。一体いつまでこんな自堕落な生活を続けられるおつもりですか。陛下も猊下も首を長くしてお待ちなのですよ?」

「そんなぁ」


こうして哀れな私はやたらと豪華な馬車に押し込められ、王都へと連行されることとなったのだった。


****


「Ah かわいそうな吸血鬼が~♪ 売られてゆく~♪」


私は悲しい曲を歌って精一杯の抗議の意思を表す。


「フィーネ様、なんて歌をお歌いになっておられるのですか」

「ううっ。私はきっと王都に着いたら磔にされて殺されるに違いない。聖職者たちに聖水で動きを封じられて」

「聖水を飲料水と間違えて飲んだお方が一体何を仰いますか」

「ううっ」

「しかも、美味しいし元気が出るからもっと飲みたいと仰っていたのはどこのどなたでしたっけ?」

「ぎくっ」


それもこれも全部ノリでやっためちゃくちゃな設定のせいだ。【聖属性吸収】のおかげで聖水が大好物になってしまった。飲むとすごく美味しいと感じるし、それに元気が出てくるのだ。


その代わり、吸血鬼としての能力がめちゃくちゃしょぼいけどね!


「我が国としても、フィーネ様をこのままにしておくわけにはいかないのです。一度ご挨拶頂くだけで構いません。それに、フィーネ様の嫌がることは私が必ずお止めいたします。私の騎士としての誇りに賭けて、そして我が聖剣セスルームニルに誓ってフィーネ様は私がお守りいたします」


うーん、このくっころお姉さん、悪い人じゃあないんだけど、真面目過ぎるんだよなぁ。


「クリスさん、私は吸血鬼なんですよ? 聖騎士が吸血鬼にそんな宣誓をしちゃあダメですよ」


私がそう言うと、クリスさんはまたか、という表情をする。


「わかりました。また血をお飲みになりたいのですね。少々お待ちください」


そう言って自分の手首をあっさりと切ってカップに血を注いでいく。


あれ?この話を振るとそういう意味に取られるようになった?


私は急いでクリスさんを回復させて謝る。


「ごめんなさい。そういうつもりではありませんでした。でも、ありがとうございます」


生き血はスタッフが美味しくいただきました。


****


「陛下。フィーネ・アルジェンタータ様をお連れいたしました」


私はクリスさんの真似をして王様の前で跪く。哀れな私はついに王様の前に引っ立てられてしまったのだ。


──── あああ、これでイベントが進んでしまう(泣)


「うむ、我が騎士クリスティーナよ。大儀であった。面を上げよ。さて、フィーネ嬢。此度は吸血鬼シュヴァルツの討伐にお力添えいただき感謝する」

「過分なお言葉、恐縮です」

「フィーネ嬢、そなたはまだ職を得ていないにもかかわらず浄化魔法でシュヴァルツを浄化、さらには重傷を負った騎士たちを治癒魔法を使って救ったと聞いておるが、それは真か?」

「はい」


私が答えると謁見の間にどよめきが走る。


「なるほど。そなたはよほど正義と慈愛の神に愛されているのじゃな。ぜひ職業を得る前に教皇殿の話を聞いてやってほしい」

「はい」


やばいやばい。どんどん外堀が埋まっていく。これはやっぱり強制イベントっぽいよな。


「うむ。マッシルーム子爵より討伐の報酬は既に渡したとは聞いておるが、余からも何か褒美を取らせてやろう。何か望みはあれば遠慮なく言うとよい」

「ありがとうございます。ですが、既に頂いておりますゆえ――」

「ふむ。なるほどな。その年齢にもかかわらず自らを律して欲を張らぬその姿勢。まさしく聖女と呼ぶに相応しいな」


おい、ちょっと待て。どうしてそうなるかな?


報酬の二重どりとか、金の斧と銀の斧両方寄越せと言うようなものだろ。普通、ここで素直にお金下さいとかいったら怒られるんじゃないのか?


ああ、なんてこった。やっぱり強制イベントだと職業も強制なのか?


「ああ、心配することはない。もちろん聖女とは自ら望んでなれるものではなく研鑽の末に神に選ばれるものだ。だが、フィーネ嬢であれば心配あるまい。まずは職業を得て研鑽に励むとよい。余からは得た職業に合った祝いの品を贈ってやろう。楽しみに待っているがよい」

「あ、ありがとうございます」


──── ああ、もう、ダメぽ

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