第一章第8話 グータラ・ライフ

クリスさんの血をもらって元気になった私は、キノコ子爵邸からあの豪華ホテルに戻った。ちなみに、シュヴァルツ討伐報酬は金貨 3,000 枚。一気に大金持ちになった。


この世界の通貨は金貨、銀貨、小銀貨、銅貨、小銅貨が流通している。価値はこんな感じだ。


小銅貨5枚で銅貨1枚で大体 100 円くらい。


銅貨10枚で小銀貨1枚。小銀貨5枚で銀貨1枚。


最後に銀貨10枚で金貨1枚。これで大体5万円くらいの価値だ。


つまり、私はシュヴァルツ討伐の報酬だけで 1 億 5 千万円相当の資産を手に入れたことになる。


これ、もう働かなくていいんじゃないかな?


と、いうわけで、ザラビアの町での私のグータラ・ライフ、じゃなかったスローライフが始まった。朝はゆっくり起きて、朝食バイキング。昼間は町をお散歩して適当にレストランでランチ。午後は港や公園で日向ぼっこをしながらお昼寝タイム。その後おやつを食べてまたお散歩して。そして夜はホテルで豪華ディナーを食べたらお風呂に入ってマッサージをしてもらって就寝。


いやあ、スローライフを満喫させてもらっています。


ん?それはスローライフとは言わない?


いやいや、異論は認めません。私がスローライフと言ったらスローライフなのです。


クリスさんが常に監視している以外は。


「クリスさん、町の中ですしずっと私にくっついていなくても大丈夫なんじゃないですか?」

「そうは参りません。フィーネ様はご自身の美貌をご自覚ください。フィーネ様は目立ちすぎるのです。それほどの美貌をお持ちの女性は町の中であったとしても、いついかなるトラブルに巻き込まれるか分かりません。不埒な輩というのはどこにでもいるのです」

「はあ、そうですか」


確かに攫われて奴隷にされたりとか、路地裏に連れ込まれて危ない目に合うとか、そういった展開は遠慮しておきたい。


そして、だ。


「それに、フィーネ様を王都にお連れし、陛下と猊下にお会い頂くまでは私はお側を離れません」

「いや、ですから私は吸血鬼なんでそういうのはダメですって」

「はいはい。その設定はわかりましたから。血を飲みたいときはいつでも仰ってください。差し上げますから。で、ですね。フィーネ様――」


と、毎度毎度こんな感じである。クリスさんは何が何でも王様と教皇様とやらに会わせ、私を聖女にしたいらしい。吸血鬼の聖女って何の冗談だろうか、とは思うものの、この脳筋くっころお姉さんを説得するには至っていない。


ちなみに、一度吸血鬼であることを信じてもらうために【蝙蝠化】のスキルを使ってみたのだが 10 秒すらもたずに力尽きて元の姿に戻ってしまった。そして、それを見たクリスさんに、


「蝙蝠に変身する魔法が使えるのはすごいと思いますが、どんなに力のない吸血鬼でも一晩中蝙蝠になっていられるものです。それに、吸血鬼の蝙蝠は闇に紛れるために体の色は黒に近い紺色をしています。ですが、フィーネ様の蝙蝠は白銀色なのでばっちり目立っています。それに、形も丸みを帯びていてとっても可愛らしいですし、その優し気な目も特徴が残っています。これではまるで正体を隠せていませんのでやり直しです」


と一蹴されてしまった。ぐぬぬ。


ちなみに霧になるのは 3 秒、影に潜るのは 5 秒でギブアップだったとさ。ぐふっ。


さらに言うと身体能力は鍛えているクリスさんのほうが圧倒的に上で、しかも私はこの辺りの地理がまったく分からない。なので逃げ出してもあっという間に捕まるし、うまく町から出られても振出しに戻って野垂れ死ぬだけだ。


と、まあこんなわけなので、私が今取れる選択肢としては二つある。ひとつは、このままザラビアでまったり過ごしながらログアウトできるようになるのを待つ、そしてもうひとつは王都に行ってイベントを進めて職業を得る、だ。


で、私はとりあえず前者を選んでいる、というわけだ。


だって、ログアウトしてから Wiki で調べてからのほうが何かと効率良さそうじゃない?


と、いうわけで今日も今日とてスローライフを満喫している。


さて、今日のランチは何にしようかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る