吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第1話 デビュー
「ふうん?」
次に目が覚めると俺は廃墟にいた。これは建物レベルではなく町レベルの廃墟だ。
まわりを見渡してみるが、あっちもそっちもこっちもどっちも、見渡す限り廃墟だ。
とりあえず、ステータスを見てみよう。って、どうやるんだ?
ていうか、なんでチュートリアルがないんだ?
そもそも、アニュオンって、始まりの町を選べるんじゃなかったっけか? 廃墟スタートとか聞いてないぞ? 職業魔王もちゃんと無職にしておいたのに。
で、いろいろと試行錯誤をしてみたが、ステータスを開くことができなかった。大きな声で「ステータス・オープン」とか言ってみたのに。ちょっと恥ずかしいが周りに誰もいなくてよかった。
さて、とりあえず自分の容姿を確認したい。口調とか、キャラ作りには必要だからな。で、廃墟を歩き回っていると都合良く割れた手鏡が落ちていたので、その破片を使って確認してみる。
・
・
・
やばい、ちょっと見とれてしまった。
髪は白銀色のセミロング、目は赤。真っ白な肌にちょっと尖った耳を持つ絶世の美少女だ。目じりが少し垂れ下がっていて何だかとても優しそうな印象を受ける。流石、【容姿端麗】のユニークスキル(これをスキルと言うのかは甚だ疑問だが)をつけただけはある。もし現実世界でこの美少女とすれ違ったなら、十人中九十九人は振り返ること間違いない。年齢は、見たところ中学生くらいだろうか。丁度少女から大人の女性の身体へと成長していく途中といった感じだ。だろう。胸も少し膨らみ始めていて、全体的に女性らしい丸みを帯びつつある。これはきっと将来有望だろう。まあ、そもそもアニュオンの世界で成長するのかは知らないがな。できれば、大きな鏡で全身を見てみたい。
さて、口調はどうしようかな?
この顔でガサツな俺様キャラは幻滅だし、とりあえずは丁寧語を喋るクール系キャラにしておくか。面倒になったらいつも通りフレを切れば問題ないだろう。
さて、目下のところ、町にどうやって移動するかが問題だ。今は、おそらく初期装備と思われるシンプルなワンピースにサンダルという、およそ廃墟には不似合いな格好をしている。このアバターにはとても似合ってはいるが、初期装備ではやはり不安があるので町に行って装備を整えたほうが良いだろう。というわけで、まずはこの廃墟を探検して出口を探してみることにする。
で、探してみることにして歩き回ったのだが、ここ、マジ広いくせに何にもねぇ。
そうこうしているうちに日が傾いてきてしまった。
──── 仕方ない。とりあえず一旦ログアウトして Wiki でも見るか
と、思ったのだが大問題に直面した。そう、ログアウトの方法が分からないのだ。
なにせ、『メニュー・オープン』と言ってもメニューが表示されないのだ。
いやいやいやいや、ちょっと待て、『メニュー・オープン』はどの VRMMO でも共通だろ? このままゲームの中に閉じ込められるとか勘弁だぞ?っていうか、アニュオンにも時間による強制ログアウトついてるよな?
あ、いや、そういうのは大抵町の中にいる時だ。戦闘中に強制ログアウトとか、運営に抗議が殺到する未来しか見えねぇ。
──── まあ、いいか。とりあえず夜を過ごせる場所を見つけよう
アニュオンでは、夜は昼間よりも危険な魔物がうろつくから注意しろってプレイ動画でも言っていた。だが、残念ながらここには屋根が残っている建物はなく、身を隠せるような場所もなかった。ならばおそらく、茂みの中や木のうろなんかに隠れたほうがまだマシだろう。
というわけで、俺は廃墟を後にして森の中へと向かう。
こうして俺のアニュオンデビュー初日は波乱の幕開けとなったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます