第2話 回答
「……嫌ですけど」
当然の回答だと思う。『Love & Face』と『顔愛会』の討論会といえば毎回ネットで炎上して、(主に『顔愛会』側の)討論者が軽い鬱になるのがおなじみだ。そこに好き好んで出る人間なんて僅かだろう。
「な、なぜだい!?」
矢場は小粒な瞳を精一杯広げる。その隣の樺地は笑いを堪えて、薄い頭を上下させている。
「いや、こういうのも何なんですけど、あの討論会、誰も出たくないと思いますよ」
「ぐっ、それは……わかる。私だってもう出たくない……」
「えっ、」
矢場は「もう」と言った。そういえばこの顔にはどこか見覚えがある。確か……
「あ!『ブサイクの妬み乙』の人!」
「やめろ!」
矢場は泣きそうな顔で俯く。そう、確かこの男は第一回討論会でネット民に煽られ大激怒したのだ。
樺地はニヤニヤした感じで説明する。
「いやぁ、本当ならこの人が次の討論会も出ないといけないんだけどね、トラウマになっちゃって。それで誰か代理を立てたいんだ」
「代理って、何で俺が……」
俯いた矢場がぐっと顔を上げこちらを向く。
「よく聞いてくれた!君は選ばれた人間なんだ!」
「……は?」
「数年前から使われている、人の顔を採点するAI『イケメソ君』で全人類を計算したところ……何と君が世界でいっちばん!ブサイクなんだ!」
俺は驚きと呆れと色んな感情が入り乱れる。
矢場の話はさらに熱を帯びる。
「しかも!君は非整形、無職、童貞の役満男!負の大三元!君はこの時代において一番の弱者なんだ!」
なんて失礼な話だろうか。人の家に上がり込んで人のことを不細工だの、負の大三元だの……。
「……で、それがなぜ俺を代理にする理由になるんですか。議論なんてできませんよ」
「まあ、同情票だね、簡単に言うと。君の発言は裏でこっちが指示するから、大丈夫。この人、頭だけは回るんだ」
樺地の顎がくいっと矢場を指す。矢場は照れ臭そうに笑った。
「ああそうですか……でも、やりませんよ」
ばっさり言ってやった。すると、矢場は財布から一つ、小切手を差し出した。
「金なら、出す」
小切手を見る。そこには一、十、百、千、万、十万、百万……
「やります!」
やはり弱者のために立ちあがろう。
それが社会のためになるのなら!
これで、俺はこの奇妙な二人と壮絶な戦いをすることになった。俺はまだ知らない。この道がどれほど辛く厳しいものか……。
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