第1話 勧誘

 今日も、クソったれな一日が始まる。適当に起きて、適当に生きるだけ。仕事もなく、外に出ることもない。生きてるか死んでるか分からない日々。

 

「ハジメ、ご飯よ」


 お袋の声。ようやく朝食の時間。リビングに向かい、席に着く。今日も朝食は目玉焼きと白飯。「いただきます」と手を合わせ、かっ食う。


「就活はどうだった?ほら、昨日、出したじゃない、アレ」


「駄目。メールきた」


「難しいものね。大卒でも厳しいのかしら」


「非整形だからね」


 『整形する権利』が認められてから、俺のような非整形の不細工は雇用に窮するようになった。学歴よりも能力よりもまず見た目が重視され、天性の美男美女か、整形済みの美男美女であることがそもそもの前提として採用される。


 「世知辛いわねぇ」とお袋が呆けた声をすると、チャイム音が流れた。


「支援の方かしら」


 お袋は呟く。最近、「支援」という形で役所の人がここに来る。名目としては美しさに関する心的サポートらしいけれど、その実、整形推奨キャンペーンだ。うちは俺もお袋も非整形だから目の敵になっているのかもしれない。

 

「あの……どちら様ですか?」


 対応をしたお袋の声が玄関口から聞こえる。俺は何となく興味があって耳を潜めた。


「私達は、『顔愛会』の人間で、息子のハジメ君に用があって伺いました」


    ◆◇◆◇◆◇◆◇


 二人の男が、俺を訪ねてやってきた。彼らは今、俺の正面でお茶を熱そうに飲んでいる。

 お袋はとりあえず席を外してもらった。何となく嫌な予感がしたからだ。


「ああ、まずは自己紹介から。私は、『自分の顔を愛する会』の現代表、矢場花王やば かおう。こっちは秘書の樺地樹かばじ いつき。よろしく」


 二人の男のうち、角ばった顔の奴が握手を求めた。それに応じると手に変な感触が当たってすぐに手を引いた。


「この人、汗っかきでしょ?緊張しいなんだ」


 禿げた小柄な男が笑いかける。この男が秘書の樺地らしいが、それっぽい雰囲気が一切ない。


「はあ、そうなんですか」


 適当に相槌を打って、彼らの顔を見る。俺も人には言えないが、酷いものだった。

 矢場はホームベースみたいな顔形に、分厚い唇、肌は黒子だらけ、目はつぶらすぎて開いているかもわからない。

 そして樺地は、中途半端に髪の残っている禿頭、汚い歯並び、大きすぎる目。

 どちらも二昔前のしがないサラリーマンみたいだ。


「で、今日は何用ですか」


「ああ!そうだった!実は君に、『顔愛会』としてお願いがあるんだ」


 矢場が急に大声を出したせいで唾が顔に飛ぶ。汚い。

 俺が唾を拭いていると樺地が資料を一つ差し出してきた。


「実はね、君、新井ハジメ君に、次の『Love & Face』との討論会を特別代表として出て欲しいんだ」

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