クソったれイケメンパラダイス
五味千里
プロローグ
22世紀、整形技術の高度な発展と人間の性的欲望の暴走によって世界は一変した!
それまで細々と運動を続けていた世界的ルッキズム団体『Love & Face』が各国で政治活動を開始し、約20年の間に、名こそ違えどルッキズム政党が次々と有力野党へ成り代わったのだ。
当時、『Love & Face』の理念は『整形する権利』の獲得であり、国が負担する福祉領域に『整形』を取り入れることだった。
そして2112年、西欧のとある国にて初めて『整形する権利』が受け入れられる。
当国の第一野党である民主容貌党の総裁ビナン=ビジョーは以下のように語った。
「人は、その先天的外見で差別します。これは人間の持つ本能的な作用であり、抗いきれぬものです。そして、これまで我々人類はその本能に従い、あらゆる外見的差別を行ってきました。雇用、教育、恋愛、あらゆる場面で身体的魅力のある者は優遇され、そうでない者は虐げられてきました」
(一部割愛)
「ここにおいて、『整形する権利』による人類の外見的差別からの解放を宣言します。多くの人々が整形し、自らを美しく彩ることによって、この世から『醜さ』という概念が一掃され、人々は真の意味での雇用、教育、恋愛を勝ち取るのです!」
2112年8月におけるこの演説は、多くの市民の拍手喝采によって賞賛された。その反応を見た他国与党も、世論獲得のために『整形する権利』を我先にと取り入れ、2112年はルッキズム元年として歴史に刻まれる。
しかし、『Love & Face』の目的はその先にあった!
『Love & Face』は2114年、新たな団体理念を発表。それは、『美しさを正義に』という婉曲的に非整形・非美男美女への差別を示唆するものだった。
これは『Love & Face』の巧みな戦略であった。元来のルッキズム思想を緩めた形として『整形する権利』を掲げ、市民からの賛同を得た後、元の容姿至上主義へとシフトしたのだ。
そしてこの戦略はこれ以上ない成果をあげた。人々は『整形する権利』を行使しない者への差別を始め、多くのルッキズム運動が生まれた。
この時の代表的ルッキズム運動は2117年に日本秋葉原を取り囲む形で行われた『美しき街をキャンペーン』だろう。
当運動は、『Love Beautiful, Hate Ugly』を声高々に叫び、秋葉原を包囲するが、運動開始の一時間後、ついに乱闘騒ぎとなり、その結果死者が一人出てしまう。
この事件は、過激なルッキズム運動への反抗を生んだ。アンチルッキズム団体『自分の顔を愛する会(直訳まま)』は、一連の運動に対し、反対声明を三日に一度のペースで公表し、話題を呼んだ。
そして、ルッキズムとアンチルッキズムその二つの勢力が拡大を尽くそうとした頃、日本の
本討論は、テレビだけでなくネットでも公開され、その視聴率はテレビだけでも45%を記録した。ネット視聴者も含めると約八割の日本国民がこの討論を視聴したのである。
さて、結果としてこの討論は、『Love & Face』の圧勝に終わった。というのも、議論自体に優越はほぼなかったが、『顔愛会』の代表である矢場花王が討論中、「ブサイクの妬み乙」というネットコメントに対し憤慨。錯乱した矢場を抑えるために約30分も時間を有したのだった。
その後、ルッキズムの繁栄、アンチルッキズムの衰退は早かった。『Love & Face』の支配は日本で盤石のものとなり、『顔愛会』は事実上解体となった。
しかし、『顔愛会』は滅んでいなかった!2122年、『顔愛会』は次の一手による逆転を狙っていたのである……。
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