第5話 甘い果物を見つけました

「はぁ、はぁ、はぁ」


 今までで一番走ったような気がします。ゴブリンの根城からどうやって走ってきたのかよく覚えていませんが、気付けば小川のそばにいました。


 これで逃げ切れたんでしょうか?


 それともあの凄惨な同士討ちを生き残ったゴブリンがあたしを捕まえにやってくるんでしょうか?


 ゴブリンがやってくるところを想像するとあの恐怖が蘇り、背筋に悪寒が走ります。


 今回はとんでもない幸運のおかげでどうにかなりましたが、次は絶対ないだろうと断言できます。


 これは、やっぱりもっと逃げておいた方が良いですよね?


 うん。そうしよう。そうしましょう。


 あ、でもその前に水を。


 そのまま川の水面みなもに口をつけてごくごくと飲みます。


 うん。美味しい! 冷たくて澄んでいて、すごくおいしいです。


 ゴブリンに飲まされたあの毒の水、捕まっていた時は気づきませんでしたけど今にして思えば変な味がしていましたね。


 これから先もこんな美味しい水を飲みたいですし、って、そうだ! あたし、【収納】なんていうスキルを貰っていたんでした。


 あれ? でも水って入るんでしょうか。


 うーん?


 ・


 ・


 ・


 試しにやってみましょう。


「収納!」


 あたしが入れようと思った分だけまとめて小川の水が一瞬で無くなりました。もちろん、上流から流れてきた水ですぐに小川は元通りになりましたけどね。


 これって、収納の中に水が入っているんですよね? じゃあ、取り出すとどうなるんでしょうか?


「えっと、取り出し?」


 そう呟いて収納から水を取り出そうとすると中に入っていた水が周りにき散らされ、あたしの周りが水浸しになってしまいました。


 どうやら中に入っている水をまとめて全部出してしまったみたいです。


 そこであたしは気付きました。


「あたしの着替え!」


 そうなんです。実は、孤児院を出発する時にあたしの服とかを少し持ち出していたんです。だって、最初はオーナー様の迎えが来る前に孤児院から逃げ出すつもりだったんですから。


 あたしは慌てて着替えの服を一つ取り出します。


「あれ? 乾いている? 何でですか?」


 収納の中でびしょ濡れになっていると思ったあたしの服は全く濡れていません。


 ええと、これはどういう事なんでしょう?


 うーん?


 はい。あたしに分かるわけありませんね。とりあえず、水を収納に入れても濡れないみたいです。


 よくわかりませんけど、すごい!


 というわけで、遠慮なく水を収納して出発することにします。


 ゴブリンが追いかけてきたらイヤですからね。


 それではまた!


****


 どうもこんにちは。ローザです。


 あれからもう五日も慣れない森の中を歩きました。ちょっとした丘を越えたのでさすがにもうあのゴブリンのテリトリーは抜けたんじゃないかと思います。


 ここまでの道中は野イチゴなんかを食べて何とか飢えを凌いでいました。


 そしてあたしは今、オレンジ色の甘い果物のなっている木を見つけたんです。【鑑定】スキルによると、ビワっていう名前の食べられる果物らしいですよ?


 と、いうわけで登って採ってこようと思います。


 え? 登れるわけないですか?


 いえいえ。そんなに大きな木じゃないですし、低いところで二股に分かれているから登りやすいですよ?


 それに孤児院の木はこのビワの木よりも登りにくかったですし。


 ほら、孤児院って基本的に遊ぶものが無いじゃないですか。だから女の子だって木登りはするんです。


 それに、いじめっ子の二人から逃げて木の上で見つからないようにしていたっていうのもありますからね。


 と、まあそんなわけですので、行ってきます。


 あたしは二股になっているところに手をかけるとよいしょと体を持ち上げ、そしてすいすいと登っていくとすぐに実のなっている場所まで登ってきました。


 そして黄色っぽいオレンジ色の実をもぐと口にパクリと含みます。


「あ、あま~いっ!」


 思わず声が出てしまいました。孤児院では果物なんて食べたことなかったんですけど、果物ってこんなに甘かったんですね。


 これまでに食べた野イチゴも甘酸っぱくてびっくりしましたけど、それとは比べ物にならないほど美味しいです。こんなに美味しいものが食べられるなら森で暮らすのも悪くないかもしれません。


 ただ、あたしはまだ火をおこせていないんですよね。孤児院ではみんな着火の魔道具を使ってたので、魔道具無しでどうやって火を熾せばいいのか分からないんです。火さえあればキノコが食べられますので食生活もかなり安定すると思うんですよね。


 あーあ。あたしに火属性魔法の適性があればいいんですけどね。


 あたしはそんなことを考えつながらもビワをもう一つ口に運びます。


「んー、甘い~」


 あまりのおいしさに二個目だというのについ声が出てしまいます。


 そしてこの甘くて幸せな感覚の中ふと閃きました。


 もしかしたら自分を鑑定すれば適性が分かるかもしれない、と。


 あたしはドキドキしながら自分に鑑定を使ってみました。


 するとその結果はあたしの予想を遥かに越えたものだったのでした。

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