第4話 ゴブリンなんて滅べばいいんです

 おはようございます。ローザです。ゴブリンの巣に連れてこられてから四日目の朝です。


 はぁ。


 ただ、四日目といっても、寝て起きたら一日って数えているだけで本当は分からないんですけどね。


 はぁ。それにしてもお腹が空いて仕方ないです。でもあの悪臭の漂う食事らしき怪しいモノは食べる気にはならないので我慢しています。


 ただ水だけは飲まないと死んでしまいますので、本当はイヤなのですが仕方なく出された水を飲んでいます。


 今のところ、お腹を壊さずには済んでいますけど、きっとそのうちあたりますよね。


 はぁ。それにしても、誰か助けに来てくれないですかね?


 あれからナタリヤさんの姿も見ていないですし、見かけるのはこの暗い空間にたまに来るゴブリンだけっていうのはいろいろと辛いんですよね。


 残念ですけど気長に助けを待つしかないですね。はぁ。


****


 緊急事態です。なんと、こんなタイミングで来ちゃいました。そう、女の子のあれです。


 先生があたしはまだしばらく後だって言っていたのに!


 そこでふと気付いて【鑑定】を使ってみます。


────

名前:ゴブリンの毒入り水

説明:未成熟な雌を妊娠可能な状態とするゴブリンの秘毒が混ぜられた水。

────


 やっぱりこれ毒だったんだ! ということはこっちも?


────

名前:ゴブリンの毒入り食事

説明:未成熟な雌を妊娠可能な状態とするゴブリンの秘毒が混ぜられた食事。

────


 やっぱり! なんて奴ら! ゴブリンなんてこの地上からいなくなればいいんだ!


 あたしがそんな怒りに震えていると明かりがこちらに向かってきます。


 うわぁ。ゴブリンたちです。しかも大量にやってきました。なんだか、この前見た時よりもイヤらしい笑みを浮かべているようで、気持ち悪くて、怖くて。


 ああ、もう! 神様なんていないじゃないですか! あたしが何したっていうんですか!


 あたしの視界が涙で滲んで、それに歯がカタカタと音を立てているのが分かります。


 でもそんなあたしの事なんてお構いなしに牢屋の格子を力づくで壊したゴブリンたちがあたしににじり寄ってきます。


「い、いやっ!」


 あたしは後ずさって、後ずさって、そしてついに洞窟の壁まで追い詰められてしまいます。


「ギギャギャ」

「ゲギャッ」

「ギャギャギャ」


 ゴブリンが突如、先ほどまでとは違って怒っているような鳴き声を上げました。顔を上げてみると、何となくゴブリン同士で何か言い争いをしているようにも見えます。


 えっと、何だか、こう、ものすごく険悪なような?


 そう思って呆気あっけに取られていると、いきなりゴブリン同士が殴り合いの喧嘩を始めました。


 あの? これは一体どういう事なんでしょうか?


 あたしが困惑している間にもさらに喧嘩は広がっていきます。最初にあたしに迫ってきたゴブリンだけじゃなくって、その他のあたしを取り囲んでいるやつらまでもが喧嘩を始めました。


 するとそこに二回りぐらい体の大きなゴブリンがやってきました。そして喧嘩しているゴブリンたちを一喝します。


「ギャー! グギャー」


 なんかちょっと立派な棍棒を持っていて、ボスっぽい感じです。あれがゴブリンの親玉でしょうか?


 この親玉ゴブリンの一喝で喧嘩は一気に収まります。それから親玉ゴブリンはあたしの方をじろりと舐めまわすように見ます。


 ううっ。気持ち悪い……。


「ゲギャギャ? ギャギャギャ。ゲギャギャギャ!」


 親玉ゴブリンが何か言ったようです。すると、周りのゴブリンたちが一斉に親玉ゴブリンに向かって何かをギャーギャーと言い始めました。何だか抗議しているようです。


「ギャギャー!」


 親玉ゴブリンは思い切り棍棒を振って一番近くで抗議していたゴブリンに叩きつけました。棍棒は思い切りそのゴブリンの頭に命中してトマトのように頭が潰れました。


 うえっ。ちょっと、これは、気持ち悪いです。


 あの。あたし、孤児院で恵まれてないなんて思ってましたけど、ごめんなさい。どう考えてもここよりはずっと恵まれてました。


「ギャギャギャ!」

「ギャッ! ギャッ!」

「ギャギャー!」


 しかし、そんなあたしを他所にゴブリンの様子はどんどんとおかしくなっていきます。


 親玉ゴブリンが他のゴブリンに一斉に詰め寄られ、そして親玉ゴブリンがまた棍棒を振り回しました。


 その棍棒に何匹かのゴブリンが潰されると、周りのゴブリンたちが何と親玉ゴブリンに反撃を始めました。さらに何故か周りのゴブリン同士でもさらに喧嘩が始まりました。


 しかも手に剣を持ったゴブリンまでいて、何だかもうとんでもない大乱闘へと発展しています。


 えっと、こいつらはあたしを襲いに来たんですよね?


 それなのに、そのあたしを放っておいて一体何やってるんでしょうか?


 どうしたら良いかわからずに格子の外された牢屋の奥でじっと状況を見守っていると、一匹、また一匹とゴブリンが倒れていきます。親玉ゴブリンも短剣を持ったゴブリンに刺されて倒れました。


 もう、誰もあたしのことなんか気にした様子はなく、ゴブリン同士で凄惨な殺し合いが行われています。


 あれ? これって、もしかしてチャンスですかね?


 あたしは足音を立てない様にゆっくりと牢屋を抜け出して、そして転がっていた松明と短剣を拾うとゴブリンたちの入ってきた穴へと足を踏み出しました。


 どうやらこの洞窟、そんなに広い洞窟ではないようです。穴を少し進むと丁字路があり、左は小部屋、右はもう出口です。


 そしてその小部屋の中には、その、ナタリヤさんが倒れていました。もう一目見て死んでいることが分かる状態でした。


 本当はこんなところに残していくのは気が引けるんですが、あたしでは大人のナタリヤさんを運んであげるのはどうやっても不可能です。


 あたしは孤児院で習った作法で天国へ行けるようにお祈りを捧げると、ナタリヤさんを残して出口へと向かいます。


 そして洞窟を抜けて明るい外へと出ると、すぐ目の前にゴブリンがいました。


「あっ!」


 あたしは持っていた松明を思わずゴブリンの顔面に押し付けました。するとじゅっという音と共に肉が焦げる臭いが漂ってきます。


「ギギャッ! ギャギャギャ」

「このっ!」


 こんなところで捕まるわけにはいきません。


 あたしは手にしていた短剣を腰に構えて思い切り体当たりをしました。これは、孤児院の先輩で冒険者になったお姉さんが教えてくれた方法で、あたしみたいに力が無い子供でもこうやって体ごと短剣を突き立てればゴブリンくらいは倒せるのだそうです。


 お姉さんの教えてくれた通り、あたしの短剣はゴブリンのお腹にしっかりと突き刺さりました。ゴブリンのえた臭いとともにあたしの手に生暖かい感触が伝わってきます。


「うんっ、しょっ」


 それから短剣を力を入れて引き抜くと、ゴブリンはそのまま地面にどさりうつ伏せに倒れました。ですが、まだ小さくうめき声を上げています。このまま放っておいて大丈夫でしょうか? いえ、仲間を呼ばれる前に!


「このっ!」


 あたしは短剣をゴブリンの首に突き立て、そして引き抜きぬきました。ものすごい量の血がどくどくと流れ出てきて、うう。気持ち悪い。


 あたしはそのまま血を流すゴブリンを背に目の前に広がる森の中へと駆けだしたのでした。

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