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「なっ、ななな何を言ってるのづきちゃん!? そ、そそそそんなハレンチなことっ! あ、あわわわ……」
玲希は露骨に頬を真っ赤に染め、顔を両手で隠しながらパニックに陥っている。頭の上でこれ以上ないほどピンッと真っ直ぐに立っているアホ毛が彼女の精神状態を表現している。
茉莉は自分の発言を少しだけ後悔した。絢愛と沙樹だけならともかく、杏咲や玲希がいるこの場で言うことではなかったかもしれない。
「安心してくださいタマちゃん先輩。あたし、『気持ちよかった』とは言いましたけど、何をしたかは言ってませんよ?」
「あっ……そうか」
天然の玲希は茉莉の咄嗟の言い訳にキョトンとしながらも人差し指を口元に当てながら頷いた。
「あーっ! もしかしてたまきん、えっちなこと妄想してるでしょー?」
「し、してないよーっ! あやめちゃんとかづきちゃんとかの日頃の行いのせいで、そういう風に勘違いされるんでしょーっ!?」
「えーっ!? それは心外! 私たち、えっちな子たちだと思われてたんだってー? 酷いよねづきちゃん?」
「そうですよもーっ! 酷いですタマちゃん先輩!」
「えっ、いや……あの……ごめんなしゃい……」
絢愛のフォローも入り、ここぞとばかりに茉莉が絢愛と結託して玲希を責めると、あまり押しの強くない玲希は散々慌てふためいた挙句、わかりやすく落ち込んだ。そんな様子も可愛らしいのが玲希のずるいところだ。
絢愛などは玲希のことを「いい子すぎて将来悪い男に騙されないか心配」だと評価する。が、少なくとも星花女子学園中等部生徒会において彼女の存在は間違いなくマスコットだった。
先輩後輩に関わらず、皆が玲希を弄って遊び、反応を楽しんで可愛がる。本人もその立ち位置をよしてしているようだが、その純粋な反応はいつまで経っても変わらなかった。
その時、茉莉のスカートのポケットの中で何かが震えた。
茉莉は絢愛が玲希を未だにからかっているのをチラッと横目で確かめると、ポケットの中から黒く味気のないスマートフォンを取り出して通知を確認する。
そしてすぐにその通知の多さに目を見張った。通知はほとんど同じ人物──『れいゆ』という相手からのものだった。メッセージを読んでみると「いま何してる?」とか「会いたいな」とか……そのような文言が一方的に10ほど連なっている。
(いや、遠距離恋愛かよっ!)
思わず心の中でツッコんだ茉莉。
メッセージの送信時間は、授業前や昼休み、中には授業中に送信されたものもあり、茉莉は少しだけ呆れてしまった。
最新のメッセージは数分前、「もう生徒会終わった? 早く寮に戻ってきて!」と、泣き顔の顔文字までついている。時計を確認すると、朝に寮を出る時に羚衣優に伝えておいた帰寮予定時間を数分過ぎていた。
「あっちゃー、確かにそういうのうるさそうなタイプだとは思ったけど……」
小声で呟くと、茉莉はもう一度絢愛を窺う。絢愛、沙樹、玲希の三年生三人組はまだしばらくイチャイチャをやめようとしない。
ひとまず返事をしないといけない。どう返事をしたものかと悩んでいると、羚衣優の他にも『あずあず』からも通知が届いていることに気づいた。杏咲だ。
『あの、もしよければ後で神乃先輩とどんなことしたのか詳しく教えて?』
絢愛たちとは反対側に視線を送ると、当の杏咲は素知らぬ顔で窓の外を眺めている。
(あずにゃんって意外とむっつりなところあるよね……)
『あずにゃんも悪よのぉ』
『教えてー?』
返事を送ると神速で返事が返ってくる。あまりの速さに茉莉は思わず吹き出しそうになった。
『知ってどうするの? ……あずにゃんの』
そう送り、
『純粋に気になるというか。神乃先輩がどんな人なのか』
『素直に「そういうことに興味があるの」って言えないのかなー?』
ニヤニヤしながら『ひさかべちゃん』スタンプの『よしよし♪』でトドメをさすと、杏咲は真っ赤になって何も送ってこなくなってしまった。好奇心旺盛な年頃といえどもまだ中学二年生になったばかり。茉莉などの、そういうことに耐性のある一部の生徒を除いて、まだまだウブな生徒は多いものだ。
「まあとりあえず、づきちゃんが羚衣優ちゃんとよろしくヤッてくれてるならそれにこしたことはないわ」
おかしなところにアクセントをつけながら話を戻した絢愛にツッコむ者はいない。そんなことをすれば玲希の二の舞になることは目に見えていた。玲希本人ですら、絢愛たちにさんざん遊ばれた直後なので不思議に思っていても口には出さない。
茉莉はここぞとばかりに声を上げた。
「あの、あたしそろそろ……」
「……?」
首を傾げた絢愛は何かに気づいたようで、一瞬扉の方に視線を送った。釣られて茉莉が扉を見ると、扉の上部に取り付けられた窓の外にチラッと見慣れた金髪が覗いたのを目撃してしまった。
(……まさか、まさかとは思うけど……あれは先輩だよね?)
絢愛に視線を戻すと、彼女はニヤッと笑いながら扉を両手で示してわざとらしい仕草でお辞儀をしてみせた。
「──いってらっしゃいませ。お嬢様がお待ちですよ?」
「すみませんありがとうございます失礼しますっ!」
茉莉はスマートフォンをスカートのポケットに押し込むと、スクールバッグを掴んで扉に駆け寄る。そして杏咲と玲希の不思議そうな視線に見送られながら生徒会室を後にしたのだった。
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