第27話 天界乱入!?
一時間後。
「くそぅ。なんでこうなる」
捕縛されたガブリエルは恨めしそうに、ルシファー・奏汰・サタン・ベルゼビュートの顔を見る。羽は毟られたぼさぼさ、髪だってぼさぼさ。服は破けているし、変な臭いはするしで散々である。
が、見られている方は一様に呆れ顔だ。
縛って取り囲んだまではいいが、どうするよという気分でもある。
「間抜けすぎるだろ」
最初に口を開いたルシファー、こいつ二千年前と変わらねえよと吐き捨てる。
それにぐぬぬっとなるガブリエルだが
「奏汰は贄ではないですよ、間違いなく」
ベルゼビュートが留めを刺すように言う。
「に、贄ではないだと」
それに、そんなバカなと驚くガブリエルだ。これはどうやら本気で勘違いしていたらしい。
「お前さあ。悪魔が夢中になるイコールで贄って思ってんだろ?」
そこにサタンがにやりと笑う。その指摘は図星だったようで
「違うのか?」
とガブリエルは訊き返した。
って、何だこの間抜けな感じ。
想像していた天使VS悪魔と違うなあと、奏汰は遠い目をしてしまう。
すると、ベルゼビュートからぽんぽんと肩を叩かれてしまった。普段からこんな感じというわけか。
「悪魔に対しての贄、つまりサバトなんかで使用される贄の場合、俺たちは夢中になるが食ってしまう。つまり大事にはしない」
そんな間抜けな空気が流れる中、魔界の王であるサタンが説明を始める。
ふむ、贄っていうからには、やっぱり食べるんだ。
さっきの天使丸焼き発言といい、悪魔ってやっぱり凶暴な面がある。
「が、奏汰は違うんだ。俺から見ると究極の癒やし、ルシファーから見ると伴侶、ベルゼビュートから見ると」
「愛でる対象でしょうか」
ベルゼビュート、サタンの視線に気づいてそう続ける。
ええっ、ベルゼビュートさん。そんな風に俺を見てたの!?
奏汰は思わず、僅かだけど距離を取ってしまう。
「というわけで、食おうなんて気は一切起きない。むしろ、ここで快適に過ごしてくださいという相手だ」
「な、なんとっ」
そんな人の子がいるのかと、ガブリエルは本気で驚く。
その反応に奏汰は複雑な気分だ。
つまり、天使すら解らない、謎に悪魔に好かれる体質を持ってしまっている。そういうことらしい。
「し、しかし、それはつまり、その人の子は悪魔に魂を売ったと」
だが、四大天使様。そう簡単には諦められないようで食いかかる。
「いや、違うな。そもそも奏汰は科学信奉者だ。神も悪魔も無だよ」
それに対してルシファー、間違っちゃいないけどその言い方はどうよという表現をしてくれる。自分で無って言うか。
「ぐぅ。一体何なんだ。っていうか、魔界に人間がいるなんて許せん。人の子は皆、我ら父たる神の子だぞ。悪魔の傍なんて相応しくない!」
ガブリエル、そんな例外は認められないからなとジタバタ。しかし、縛られているので、ただ子どもが駄々をこねているようにしか見えない。
「と、言われてもねえ」
「たぶん、奏汰はこのまま悪魔にはならないだろうし」
こっちだって今、その問題で悩んでいるんだよ。
奏汰もルシファーも呆れるしかなかった。
「で、結局、俺がなんで悪魔に好かれて、悪魔にならないか。理由は解らないってことだな」
奏汰の確認に
「うん」
ルシファーがあっさりと頷き
「ああ」
「そうですね」
サタンとベルゼビュートも同意した。
「意味が解らん!」
その状況に一番吼えるのはガブリエルだった。
なんで当事者より先に吼える。奏汰は呆れて縛られている天使を見た。
「ともかく、甘美な匂いがするのが奏汰だからなあ。俺様も初めて会ったとき、ああ、猫姿でこっそり見てた時、こんな人間がいるのかと驚いたほどだ」
ルシファーはうんうんと一人納得している。
「いやいや。根本的なところがそんなに適当でいいのかよ。っていうか、よくそれで伴侶だと言い続けたな」
奏汰は俺にも解るように説明してよと頭を抱えてしまう。
お前のせいで人生が大幅に変更されたというのに、結局その理由は解りませんなんて、納得出来るか!
「いや、だから、俺様だって奏汰と気持ちが通じ合えば、奏汰は悪魔になるんだと思ってたんだぞ。でも、その・・・・・・奏汰って堕落とは無縁らしくて、これだけ魔界にいても、そして俺様の傍にいても悪魔になりそうにないんだよねえ」
俺様だって困っているとばかりにルシファーは反論する。
なんだ、この平行線。
「ふむ。つまりあれか。その人間の魂は高潔だというわけだな」
そこに間抜けの烙印を押されていたガブリエルが、そう考えると解ることがあるぞと言い出す。
「本当かよ?」
真っ先に疑うのはサタンだ。この人は心の底からガブリエルをバカだと思っている。
「本当だよ。つまり、奏汰というその人の子は、お前らがかつて持っていたものを持っているんだ。だから甘美な匂いがするし、求めてしまう。つまり、心のバランスを取りたいと願うが故だ」
「ほへっ?」
意外とまともに考えたらしい意見が出て来たが、ルシファーは何を言っているんだという顔。
「ええっと、つまり、皆さんが天使時代に持っていたピュアな部分ってこと?」
一方、何とか理解出来た奏汰だが、訊きつつも恥ずかしいなと思った。
何だよ、ピュアって。俺、別にピュアじゃねえよ。
「そう、そうだ、人の子よ。つまり君は悪魔というより天使に近い。いや、済まなかった。滅するなんてとんでもない考えだった。君は高邁な精神の持ち主だ」
ふむふむと、ボサボサ頭のガブリエルは一人で納得している。
一方、悪魔の皆さんはどう思うと首を傾げ中。
「まあ、確かに奏汰は快楽に流されないし」
「ルシファーをグーで殴るし」
「サタン王を前にしても普通だし」
言い分としてはあってるかなあ。でも、天使寄りってのは認めにくいなあ。
そんな感じに陥っている。
「なるほど。希有な魂がいると、父なる神に報告せねば。じゃあ、俺は帰る!」
こうして散々場を掻き乱したガブリエルは、ぽんっと音を立てて天界に帰ってしまったのだった。
ガブリエル騒動があった翌日。
「な、何これ?」
「神からの贈り物だそうだ」
屋敷に届いたでかい箱に奏汰は呆然。ルシファーは面白くないと腕を組んでいる。
そう、ガブリエルは一人であれこれ納得し、そのまま神に進言してしまったようだ。結果、そんな素晴らしい奴がいるならばと、こうして神様から贈り物が届いたという次第。
しかもそれが馬鹿でかい。庭にどどんと一メートルはある箱が置かれている。その箱は純白で、綺麗な花束で装飾されているという拘りまであった。
「変なの入ってないよね」
「さあな。とはいえ、四大天使が直々に見定めているから、試練の箱ということはないだろう。問題は中身が何かってことだけどな」
二人は箱を前に、開けるか否かで悩んでしまう。しかし、このまま庭のオブジェにするわけにもいくまい。
今も庭を歩いていた七面鳥が、邪魔だよとばかりに箱を突いている。
「あ、開ける前にサタンとベルゼビュートも呼ぼうよ」
奏汰はそれでも戦力がいた方がいいと、そう提案。
「ああ、それもそうだな。って、ベルゼビュートだったら透視が出来るだろう。頼もうぜ」
ルシファーは名案だと、いそいそとリビングに戻った。そこから電話を掛ける。
「そう言えば、そこは魔法じゃないんだよな」
そんなルシファーの後ろ姿を見ながら、意外と魔法って制約があるんだろうなと苦笑してしまう。
そういえば、魔法の制約についても話が途中で終わっていたな。出来ないことの一つが電話か。
考えている間にルシファーは電話を終えて、またいそいそと戻って来た。
「すぐに来てくれるってよ」
「あ、ああ」
しかし、なぜこんな巨大なものが贈られたのだろう。っていか、こんな一メートルはある箱に梱包されるものって何だ。
「解んないよなあ」
「解らんねえ」
奏汰とルシファーは再びそろって首を捻る。と、そこにばさっという羽音が聞こえ、サタンとベルゼビュートが庭に降り立った。二人とも城から飛んできてくれたのだ。
「おおっ、これはまたでかい箱だな」
サタン、見たまんまの感想を口にする。
「神からの贈り物、ですか。まあ、変な物に違いないでしょうが、見てみるしかないですね」
そしてベルゼビュートはいつでも大人の意見だ。
「透視出来るか?」
ルシファー、開ける前に中身が知りたいんだよとベルゼビュートに訊く。
「そうですねえ」
ベルゼビュート、そう言うと箱に近づく。そしてそっと目を閉じて数分。
「これ、結婚祝いの品ですね」
ベルゼビュートはそう断言。
「け、結婚祝い!?」
「ほう。あのくそボケの割りには結婚を認めるのか」
目を剥く奏汰と違い、ルシファーは笑顔ながらも嫌味。
「まあ、ええっと、ウエディングドレスが見えたので」
「いや、男だし」
「そういうところは神の意地だよなあ。断固として男同士の恋愛は認めたくないらしい・・・・・・いや、待てよ。となると・・・・・・奏汰、それに触れてはならん」
「えっ?」
奏汰が手を触れようとするのをルシファーは阻止。
「ベルゼビュート、大丈夫か?」
そしてサタンも険しい顔。
「私は先読みして魔法を使っていましたので。では、焼却してよろしいですね」
「ああ」
「うん」
「ええっ!?」
急展開に驚いている間に、ルシファー、サタン、そしてベルゼビュートまでが炎の魔法を使って、巨大な箱を燃やしてしまったのだった。
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