第26話 ピュアなルシファーに・・・
奏汰とルキアがエビを堪能している頃――
「奏汰が楽しそうで良かった。あんな騒動があったから、嫌になってたらどうしようって不安だっんだ」
二人から少し離れた場所で、ルシファーはほっとしていた。思わずサタンとベルゼビュートに不安を吐露してしまう。
「でも、あれで一気に気持ちが縮まったんだろ?」
サタンは奏汰に関してはどこまでもピュアな反応なんだなと、ビールをぐびぐび飲みながら、にやにやと笑ってしまう。アロハシャツに短パンのサタンは、完全にリゾート地で休暇を過ごす人だ。
「結果オーライだったけど・・・・・・あの時はどうなるかと」
ルシファー、ベルゼビュートと連絡が取れて良かったよぅと、あの時を振り返って、思わずベルゼビュートのコップにビールを注いじゃう。
「まあ、私も楽しめたから良かったですよ」
パジャマからラフな格好に着替えているベルゼビュート、思い出してくすっと笑うのだから、やっぱりこいつもただ紳士的なだけではない。しっかりエロかった。
「ふん。そういえば、奏汰が暴走した時にベルゼビュートは一緒にあの身体を堪能したんだったな。ちっ、そりゃあ、温泉で絡み合わなくてもいいはずだ」
サタン、俺だけ触れてないじゃんと不満爆発。しかし、すぐに二人から絶対にダメですと阻止される。
「サタン様はルキアで我慢してください。奏汰は俺様の伴侶です」
「そうですよ。執事の腰と尻まで壊しているんですからね。普通の人間である奏汰には触れないでください。それに私は挿入はしてません」
「ぐっ」
そんなに畳み掛けるように言わなくてもいいじゃん。
サタンはますますビールをぐびぐびと飲んでしまう。
「でも、お前が本気で人間に恋するなんてなあ」
しかし、サタンもサタンで思うところがある。
同じくらい自由で奔放な下半身を持つくせに、今や奏汰にぞっこん。もちろん奏汰がつれなくしても他に捌け口を求めることもないなんて、不思議なもんだ。
「ふふっ、そりゃあ運命ですからね。俺様は奏汰を大事にする運命なんです」
「へえ」
「そういう決め手ってあったんですか?」
胸に手を当てて語るルシファーに、そんなに思うってどういう瞬間だろうと、ベルゼビュートも興味津々だ。
「決め手と言われましても・・・・・・出会った瞬間にビビッと電気が走りましたね。うん、あれ、人間がよく言ってるけど、ビックリした。まさにこいつしかいないって思っちゃうんです」
「へえ」
「本当にピュアだ」
意外なほど一直線な思いに、サタンもベルゼビュートもびっくりだ。そして奏汰を見てしまう。
二人から見ても、奏汰は魅力的だ。悪魔にとってこれほど甘美な果実はないというほど、その魅力は凄い。しかし、二人からすると、無視できない存在だが伴侶に求めるほどではない。
「俺にはそこまでは無理だな」
サタン、負けたよとルシファーの思いの前に感服。奏汰に対して許可なく手出しはしないよと、そう約束するしかなかった。
なんだかんだあったものの、概ね楽しい旅行はあっという間に終わった。
「はぁ、二泊三日だったのに、屋敷に戻ると安心するなぁ」
奏汰は我が家に帰ってきたと思うとしみじみ。
「奏汰、そんなふうに言ってくれるなんて、俺様は大感激だぞ!」
「はいはい」
いちいち喜ぶルシファーを適当にあしらい、疲れたなあとソファにどっかり座った。
それにしても、旅行での一番の収穫が人間界に未練がないと判明したことだったなんて。
まあ、ルシファーとしっかり繋がっちゃったってのもあるんだろうけど。
奏汰、その時のことを思い出して顔が赤くなる。
「奏汰様、お疲れですか?」
一人赤くなっている奏汰に、すぐさまコーヒーを淹れてくれたベヘモスが気遣う。
「だ、大丈夫」
ふんわりと香るコーヒーの匂いに落ち着きを取り戻し、奏汰はいそいそと横に座るルシファーを見た。そのルシファーはもうお仕事モードのようで、何やら書類を手にしていた。
「忙しいのか?」
「あっ、ううん。二泊三日の間の報告書が来てるから、一応目を通しておかないとね。何かトラブルがあっても困るし」
「へえ。そういうところ、真面目だよな」
「ふふん。いい暮らしをするためには努力は惜しまないぞ」
「ほう」
その割にはお前、魔界を作る時にベルゼビュートに迷惑を掛けたみたいだけどな。
そう思ったが、仕事を邪魔するほど野暮じゃない。奏汰は大人しくコーヒーを啜る。
珍しく穏やかな昼下がりだ。
横で大人しくルシファーが仕事をしていて、庭から鳥の鳴き声とたまにドラゴンの鳴き声がするものの、とても静かだ。リビングにある柱時計のコチコチと動く音も、何だか心地よい。
「ここ、凄い落ち着く」
「そうか。奏汰がここに馴染んだ証拠だな」
「そうだねえ」
今度はオーバーに言われなかったから、奏汰は素直に頷く。でも、同時に不安が過ぎった。
「なあ。馴染んだってことは、俺、悪魔になるの?」
「えっ?」
「魔界に住んでるのって、悪魔だけだろ。お前の伴侶になったら俺って悪魔になるんじゃなかったっけ?」
きょとんとするルシファーに、お前、最初の頃そう言ってなかったけと奏汰は訊き返す。
「ああ、たぶんなるんじゃないかと思ってたんだけど」
ルシファーはそこで書類から奏汰に目を移し
「なりそうにないよね。あれだけセックスしたのに」
と首を傾げる。
「いやいや」
適当だなと、奏汰もコーヒーカップをテーブルの上に置いて向き合った。
今、二人は気持ちも通じ合っているし、身体も通じ合っている。
でも、悪魔と人間のままなのか。
種族は違うままなのか。
人間から悪魔になったという、ルキアという存在がいるにも関わらず。
「あれ?」
「あれ、じゃねえよ!」
首を傾げるルシファーに、おいおいと奏汰はツッコミ。
かあかあと、外で間抜けにカラスが鳴いているのが、余計にこの空間をどうしようもなくしている。
「その疑問に答えて進ぜよう」
が、その静寂を破り、どご~んという爆発音とともに闖入者が現れたのだった。
どご~んという轟音と煙と共に現れたのは、真っ白な羽を持つイタリア人だった。えっへんと腕を組んで偉そうに仁王立ちだ。
どこかルシファーに似た顔立ちのこちらは、どちら様?
「なっ、あっ」
「貴様、ガブリエル!」
ルシファーの絶叫に、天使の登場と奏汰はビックリだ。
そして、ええっと二人の顔を指差してしまう。
「人の子よ。他者の顔を指差してはダメだと習わなかったか?」
ガブリエル、ダメだろうと不快そう。
あぁ、ルシファーの言った言葉が過る。
中学校の生徒指導の先生。
「今さら何をしに来た! っていうか、堂々と魔界に乗り込んでくるとはどういうことだ?」
ルシファーはルシファーで、ここにガブリエルがいるのが許せないと怒鳴る。
「ふん。人の子が迷い込んでいるとなれば赴くのが我らだ。しかも悪魔の贄になる人間が見つかったとなれば、滅するのが我らの使命」
「めっ、えっ」
これ、俺を殺しに来たってこと!?
奏汰はさらなる予想外の展開に絶句。
「堂々と殺害予告してんじゃねぇ! ベヘモス!!」
ルシファー、そんなことをさせるかと大声でベヘモスを呼ぶ。すると、わらわらと武装した屋敷に仕える人々を従え、ベヘモスがやって来る。
「すでに準備は整っております」
「よし。このバカな天使をぶち殺して、丸焼きにしてやるぜ!」
「いやいや」
丸焼きって。ルシファーの言い分に呆れてしまったが
「おおっ!」
「天使を食うぞ!!」
意外と屋敷の皆さんはノリノリだった。
ああ、天使って食べられるんだ。
奏汰は魔界の新たな一面に遠い目をしてしまう。
「ふん。四大天使の私に逆らうなど笑止!」
ガブリエル、俺の力を見せつけてやるぜと腕を振りかぶったが
「はん。その昔、俺様に負けたくせに」
「あんだとう」
ルシファーの安い挑発に乗ってしまい、攻撃が止まる。と、そこに襲いかかるルシファー配下の皆さま。
「ぎゃあああ。誰だ! 臭いぞうきんを投げつけたのは!? それと羽は毟るな~!」
攻撃されるガブリエル、なんか地味に嫌な攻撃をされると絶叫。
「な、ええっと」
すでにカオスになる空間に、奏汰はどういうこととルシファーを見る。
「俺様の伴侶を贄扱いするなんて許せん! そもそも、贄だったらこうはならん!!」
しかしルシファー、違う点にご立腹中のようで、何だか論点がずれている。
「大丈夫ですか?」
「どこのバカだ? 乗り込んで来たのは?」
そこにやって来たさらなるカオスを呼ぶ人々、サタンとベルゼビュートだ。その手にはそれぞれ剣と大振りの鎌が握られていて、なます斬りにする気満々な感じ。
「ガブリエルだそうです」
「あっ? なんだ、マジでバカか」
奏汰の答えに、ポコポコとルシファーの使用人に殴られる天使を見て呆れるサタンだ。
「おおよそ、奏汰を理由に魔界にガサ入れしようとしたんでしょうね。最近では悪魔は天使を無視して好き勝手に生きてますから」
そしてベルゼビュート、取り敢えず捕獲ですねと鎌をさっさと魔法で仕舞ってしまうのだった。
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