第160話 傘2
大学からの帰り道。雨が強くなってきたこともあり俺がちょっと急ぎ足で駅へ――と思った直後だった。後ろから声をかけられた気がした俺が振り向くと――この大雨の中。傘も差さずにこちらへと小走りでやって来る海夜が居たのだった。
うん。当たり前だが――ずぶ濡れである。
何をやっているのだろうかである。これ重要な事なので何度でも言おう。何をやっているのだろうか。
「先輩。傘。傘ください。ってか入れてください。冷たいです」
「いやだ?」
「何でですかー。くちゅん!」
俺のところへと駈け込んで来たずぶ濡れさん。最大にくしゃみをしていた。ちなみにちゃんと傘の中には居れているので。うん。ちょっと言ってみたかっただけ。というやつだ。この雨の中傘に入れないということはしなかったのだが――。
「……はぁ……海夜が風邪をひく未来を見た」
目の前へとやって来た海夜。ホントずぶ濡れだった。
「一気に降ってきましたよ。もう。ずぶ濡れです。少しくらい弱くなってくれてもいいのに」
大雨の中俺の目の前まで走って来た海夜。とりあえず俺は傘を海夜の方へと傾けたが……って――時すでに遅しというのだろうか。海夜マジでずぶ濡れである。こやつホント風邪ひくぞなんだが――その前にである。
「海夜。何でこんなことになっているかわからないが――とりあえず上着貸すから。それ着て駅まで行くぞ?まずちょっと傘持て」
「えっ?あっ――はい」
俺は海夜に傘を持ってもらい。来ていたカーディガンを脱いで海夜にかけた。すると俺が何故上着を貸したの海夜は気が付いたらしく――。
「なっ!?見ました。変態ですか」
俺が貸したカーディガンで胸元を隠す海夜だった。うん。まあ――そこまで透けてなかったがな。でも――ね。気がついちゃったのと。これから駅へと行くと少なからず他の人がいるのでね。まあ俺正しい行動をしたかと思う。ちなみに変態呼ばわりは――おかしい気がするが。
「いやさ。当たり前だが。濡れたら透けるだろ?あと……ホント濡れネズミみたいだぞ?さすがに今タオルはないから。屋根があるところまで行くぞ」
「ねず――くちゅん!」
俺が海夜から傘を受け取るとまたすぐに盛大にくしゃみをしている濡れネズミだった。って、さすがにこれだけ濡れると寒いらしく。傘を受け取った時の海夜の手は冷たかった。
「あー、もう。ほら。とりあえず歩く。一緒に風邪なんてひきたくないからな」
それから俺は海夜とともに駅まで急いだのだった。
駅へと駈け込んだ俺達。既に多くの学生は一つ前の電車で帰ったらしく。駅は閑散としていた。ちなみに――今日はちゃんと電車動いている様子だ。よかったよかった。ここの電車ホント雨には弱いからな。
って――海夜に半分傘を貸したからか。俺も身体半分くらいが冷たい。うん。この雨止むどころかさらに強くなってきたからな性格の悪い雨だ。っか、スコールと言ったらいいのか。今駅の外を見ると――霞むくらいの勢いで雨が降っている。俺達の後を歩いていたと思われる学生も――傘をさしていてもかなり濡れたのか。入り口のところで水を払っている。
ってか、これはこのままでは電車が止まる可能性が大変高そうだったので――。
「海夜。とりあえず、電車止まると帰れないから。ホーム行くぞ。もうすぐ電車来るだろうし。もう少し濡れネズミで居ろ」
「濡れネズミの言い方他に無いんですかー」
再度海夜を見ると――うん。濡れネズミだな。
足元に水たまりができるレベルで海夜は濡れてる。制服のスカートからはポタポタ水が滴り落ちている。海夜が軽く絞ると――うん。水がボタボターである。
俺は文句を言っている海夜とともに改札を抜けてホームへと向かう。ちなみにだがかなりの大雨だったが――電車はまだ動いていた。うん、今日はセーフである。ちゃんと定刻通り電車は駅へとやって来た。
「——なんか恥ずかしいです」
駅へとやって来た電車にとりあえず乗り込んだ俺と海夜。なるべく人がいなかった車両のドア付近に現在は立っている。
海夜はハンカチは持っていたらしく。今はカバンから出して顔などを拭いている。
「仕方ない。濡れネズミになった海夜だからな。って、なんで傘差してないんだよ」
「あっ、それがですね。朝傘を持ってきたはずなのに無くなりました」
「……よくいじめられる子だな」
「むー」
ちょっと頬の膨らむ海夜だった。
「か、誰か間違って持って行ったか」
「まあ――なんか今回はその可能性が高い気がします。私普通のビニール傘でしたから。傘立てに差しておいたんですが――はい。壊れた傘だけが残っていました」
「あー、そりゃ傘壊れた奴がラッキーで持って行ったか。今度からはなんか印付けとけよ」
「あっ。そうします。シールとか貼ったら少しは――ですよね」
「ってか。海夜。あの謎なメッセージなんだよ」
そうそう、講義終わりに謎なメッセージあったよな。ということを思い出した俺は海夜に聞いてみた。
「あっ。それはですね。本当は『寒いです。先輩。いつ帰りますか?傘が無くなって困ってるんです』って、打ちたかったんですが。寒いです、って打った瞬間にスマホの充電が――ってなりまして、慌ててそこで送信押したら――そこでスマホがお亡くなりになりました」
そう言いながらカバンの中からスマホを出して真っ暗な画面を見せてきた海夜だった。
って、こやつ、一応カバンの中は雨対策をしていたらしく。すべての物が袋に入っていた。うん。準備はいいやつか。傘は無くなったが。
「——スマホの充電はしておけよ」
「それがですね。ケーブルが悪いのか。最近さしておいても充電されないんですよ。そうですそれを先輩に見てもらいたかったんです」
「いろいろあるな。って、寒いですの前に、迎えに来てくれと書けよ」
「いや、なんか冷たい雨で寒かったじゃないですか。だからその時思ったことをまず書いちゃったんですよ」
「——ってか。今日海夜学校終わるの早くないか?」
「あっ、今日は短縮授業だったので。もう1時間くらい前に終わってますよ?」
「なるほど、だからか。ついに授業サボってメッセージ送って来たかと思ったが」
「違いますよ。とにかく傘がなくて、確か今日の雨は夜に向かって強くなると言っていたので、先輩を見つけないととなりまして」
「ってか。学校で傘貸してもらえないのか?」
「それがですね。今日下校時間になったら早々と昇降口閉められましてね。ってそうですよ。私1時間弱待っていたんですよ?」
「運悪いな。って、文句言われてもな」
「ホントですよ。ちょっとしかない屋根のところで、ちょっと周りでこそこそされて―—」
まあね。海夜が傘も持たずにそんなところで立っていたら……目立つな。うん。その場の光景をしてみた俺だった。
「っかさ。海夜。誰かに傘入れてもらえばよかったんじゃ。駅くらいなら――」
そこまで俺は言って気が付いた。そういえば海夜も――。
「——仲のいい子はいませんでした。なんか怪しい男子しかいませんでしたから」
「一応確認。俺の情報更新のためだが。そもそも海夜に仲のいい子居た?」
「むー」
うん、この反応海夜さん。俺と同じままらしい。でも今の海夜の雰囲気なら絶対話しかけてくれる人は居ると思うんだがね――まあ海夜が悪いか。うん。だな。
「悪い悪い。ってか。よく俺が見えたな。高校の入り口から結構離れてないか?」
「そりゃもう。先輩が帰りそうな時間になったら必死で隙間を見てましたよ。まあ先輩見つけれなかったら。職員室側に回る予定でしたが――確か先輩今日はこの時間くらいに終わるはず。と覚えていたので」
「すげぇね。人の予定覚えているとか」
うん。すごいわ。俺は海夜の日程なんてぼんやりしか覚えてないのでね。今日の短縮授業とかも知らなかったし。
「もしものために覚えてましたから。で、ぼっちで歩いている先輩発見からはダッシュですよ。冷たい中走らせるとか。この先輩はひどいです」
「何で俺怒られてるの?」
「——寒いです」
「はあ……」
それから海夜は駅に着くまで俺にもたれていましたとさ。って――海夜が持たれると自然と俺も濡れるというね。うん。この濡れネズミ。マジでかなり濡れているからな。あっという間に俺も濡れたであった。
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