第153話 お別れ

「残念ですけど、これはお別れですね」


俺の部屋にいる海夜が寂しそうにそんなことをつぶやいている。

突然の事に部屋の空気が――って、なんかおかしなことになるといけないので、ちゃんと説明しておかないとだな。


現在海夜の前には足が折れてしまった――机がある。うん。机だ。この机は俺がこの部屋へと引っ越してきた時から活躍していた折り畳みが出来る机だ。でも海夜がここに来るようになりしばらくしてこたつを購入したため。それからは部屋の隅で折りたたまれて出番が減っていた机である。


決して、今俺の部屋で突然の別れ話が始まっているとかいうことではなく。

役目を終えてしまった机を――というところだ。


そうそう折り畳みの机に関してだが。全く使っていなかったということはなく。たまに登場しては居たのだが――まあずっと使っていたものということもあるだろう。ここに来る前から俺が使っていたからな。それを持って来て――だからかなりの年数使っていたためか――先ほど足の一つが根元からぼっきりと――なんというのか。ネジ?ボルト?のところが緩んだのか……うん。確かに揺れるなとは思っていたが。多分それがずっと続き―—ボルトが抜け落ちたというか。ネジが落ちて――留めようとしたが。もう留めれなかったというね。穴が広がったらしい。


「まあ――最近使ってなかったから――というのもあるのかもな。でもこれ安かった割にはずっと使えたしよかったよ」


俺は最後にもう一度机の足の部分が留めれないか確認してみて――うん。無理だ。完全に机の方にあいている穴が大きくなってし待ったらしい。まあこの中にボンドか何を詰めたらまた使えるだろうが――うん。このそこまで多くくない部屋に小さいとは言え机が2つはな。必要ないということで。


「次のごみで処分かな」

「机さんお疲れ様です」

「—―ちなみにだが。とどめを刺したのは海夜ということを伝えておかないとな」

「なっ。なんで、って誰に伝えるんですか」

「——誰に伝えるか……」

「考えてもない余計な事言わないのです。あれは――事故です」

「まあ、海夜に怪我がなかったから良しか。でも――海夜ののしかかりで壊れるとは――」

「なっ。ふ。太ってませんから!」

「誰もそんなことは言ってない」

「言いそうな感じでした」


ちなみに。海夜が太ったということは全くない。うん。少し前も普通に人の足の上に座っていたがいつも通りだったからな。


って、何があったかせっかくだし。机を片付けつつ説明しておこうか。


――――。


折り畳み机がお亡くなりになる数時間前の事。


「先輩。もう少しスペースください」

「無茶を言うな。ってか、何で宿題を俺の部屋でやっているのか」

「1人でやっても楽しくないですからね。」

「いやいや、俺も課題があって今日は大変なんだが――」


俺の部屋に海夜がやって来て何故か宿題などをしていた。うん。何で俺の部屋でやっていたのかだが――まあそれはいい。


とにかく海夜が俺の部屋に来たである。そして俺はというと。提出期限が近づいていた大学の課題をしていた。


俺の部屋にはこたつにも変わる机があるのだが――海夜が来た時点で俺の課題作成によりパソコンや資料が広げられていて8割ほど使用されてたのだが。残り2割のところに海夜が入って来て――って、小さなスペースで2人が作業を――というのはかなり狭く。まあちょっと揉めているところである。


「先輩。紙をちょっと移動させてください」

「海夜がどんどん侵略してくるんだが――」


そんな時俺はふと――。


「あっ。久しぶりにあれを出せばいいのか」


部屋の隅に畳まれていた机に目が留まった。

この現在使っているこたつにもなる机の前にでバリバリでこの部屋にて働いていた机である。あっ、俺の実家の部屋でも使われていたな。不要な時に畳めるし。1人だとちょうどいい大きさだったんだよ。さすがにちょっとガタは来ているが――うん。使えるのでまた置いてあったものに目が留まったのだった。


俺は立ち上がると部屋の隅に畳まれていた机を引っ張ってくる。そして足を立たせる。うん。ちょっと埃が――だがそれは拭けば問題ない。ちょっと足が揺れるが――まあそれは前々からだ。作業が出来ないほどではない。


「先輩何してるんですか?」

「海夜が侵略してきたからな。久しぶりにもう1つの机出そうかと」

「あー、そういえば机ありましたね。忘れてました」

「かわいそうに。誰かがこたつー、とか言うから。出番が無くなってな」

「そんなこと言ってないですよー。って、買ったの先輩ですよ。ある日突然買っていたじゃないですか」

「海夜がぶつぶつ言っていたから」

「なんか違う気がします」

「まあ、でもまだ使えそうだから――よしよし。俺はこっちで作業するよ」


俺はセットした机にパソコンや資料。筆記用具を移動させた。


それからはしばらくは字を書く音と、パソコンを叩く音などが俺の部屋には響いていた。


先に作業を終了したのは海夜だった。ちなみに海夜が片付けだしたころに俺も一応作業はほとんど終わらせていた。パソコンで作る課題の方は終了していたが――まあ海夜も静かに宿題しているしで、俺はそのまま講義のノートをまとめたりしていた。


すると片付けを終えた海夜が俺の方へと移動してきた。


「先輩はどんなことをしているんですか?」


俺の正面へと移動してきてこちらへと身を乗り出してくる海夜。うん。顔が近い。って、これは――妨害が始まるな。そろそろかまってちゃん海夜になるか。でもまあもう俺も終わるから問題ないが――と思いつつ。


「こっちは講義のまとめ。急いでメモしたのとかをちゃんと書いているだけだな」

「先輩が真面目だー」

「何で俺が不真面目設定になってるんだよ」

「違うんですか?」

「おい」

「あっ。先輩パソコンは何が――」


そう言いながら閉じてあったノートパソコンを見ようと海夜がさらに机に身を乗り出してきた時だった。


ゆっくりと机が傾いた。


――ギィ……ギッ。バキ。


「きゃあ」

「うわっ」


突然嫌な音とともに。コントとでも言ったらいいのだろうか?海夜の居た方に机が斜めになった。キーパタン。というとわかりやすいかもしれない。


机の上にあったパソコンから筆記用具などなどすべてが海夜の方に流れていく。


ゴトン――バラバラ……ドン。


バランスを崩した海夜も滑っていくものと同じように床に転がる。


「——び。びっくりした」


起き上がりつつ海夜がつぶやく。


「海夜。大丈夫か?」

「は、はい」


突然の事にキョロキョロとしている海夜。さすがにびっくりしたのか床にぺたんと座り込んだままだ。


俺は海夜の方に回り込む。床にペンなどが滑っていったが。とりあえず海夜の横に行き隣にしゃがむ。


高さはない机だったので、海夜に怪我はなさそうだった。


「これは――何事だ?」


海夜を確認した後。俺は今も斜めになっている机を見る。すると――。


「……ネジ?」


床にそこそこ太めのネジが転がっていた。ってか――バキとか聞こえたよな?と俺は思い出しつつ。机を確認すると――。


「あっ。足が外れた?いや机の足って外れる?」

「どうしたんですか?」

「いや――机の足が畳まれた?」


――コト。


「……取れた」

「取れましたね。あれ?この机の足って――取れました?」


俺が再度机を動かすと、4本ある足のうち1本が床にポロリと落ちた……倒れたのだった。あれ?この机――確かバラバラにはならないはずだったんだがね。


「いや……」

「えっ」

「海夜。壊したな?のしかかりで」

「なっ。えっ!?」


驚く海夜だったが――まあ俺はそこまで驚いてなかった。ボロになっていたし。ちょっと揺れていたからな。ネジが外れるということはあるだろうと思いつつ。驚いている海夜を横に見つつ。

俺は机をひっくり返して――足を再度取り付けようとしたが――。


「あれ?留まらない?」


うん。どうやらネジ穴が大きく広がってしまったらしい。机の足を元留めてあった場所にセットし。落ちていたネジを差し込むと――するりと奥まで入ってしまう。ドライバーとかが必要なはずなのに。何もしなくとも奥まで入ってしまった。

特にネジを回していないため――ネジをつまむと簡単に抜ける。これでは――まあ足が止まらないのでまた机は倒れるだろう。


「あー、これはダメかも」

「えっ?」

「海夜がのしかかりで折ったか」

「なっ――嘘」


まだ海夜はちょっと何が起こったのかわかっていなかったらしく。俺が冗談のつもりで言ったのだが。真に受けたらしく。両手で口を覆い驚いていた。うん。マジでヤバい。という表情を海夜がしていたので、俺はすぐにちゃんと説明したのだった。

まあ突然ガックンとなったらな、驚くよな。うん


…………。


「も。もう。焦りました。私が壊したかと。先輩。意地悪です」

「いやまあ。のしかかりはしただろ?」

「し……して――した……?いやして――」

「はいはい、まあでも、問題ない問題ない。もう古かったしさ。ってか海夜マジで怪我無いな?」

「あっ、はい。大丈夫です」

「捻ったとかもないな?」

「先輩が優しすぎるのが怖いです」

「おい」

「でも、ちょっといきなりだったからびっくりしました」

「まあ急にだったしな」


ちゃんと俺が机に起きたことを説明すると海夜は――まあちょっとは自分が原因と思っているみたいだが。まあ俺の横でいつも通りになったのだった。


――――。


これが少し前の出来事だ。

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