第107話 —―式のための準備2

――カチ。


「知らん!勝手に来るやつの相手などできるか!」

「はい。こちら、これは、悪い!事前に連絡をくれたのに――最後の最後で自分に負けた。と言いたかったんでしょう。はい。言いながらあの人パニックでしたね。今ならもしかしたら――会って話せる。ちゃんと会って娘をお願いしたい!というオーラがあふれ出てましたねー。聞いていた私は楽しかったですよ」


――カチ。


海夜母は慣れた手つきで機械操作をしながら動画撮影を続けている。


「海夜。今すぐそんなやつとは別れて帰ってこい。1人暮らしさせた私のミスだ。すぐに分かれて帰ってこい!わかった!今すぐだ!」

「もう本当に何をこの人は言っているんでしょうね。これなんてホントわかりやすい。今すぐ結婚しろ。1人暮らしはやっぱり何かと危険だから二階堂さんに守ってもらいなさい。わかったか?今すぐ頼むんだ。ですかねー。聞いていて――電話をする前に話していたことと違うことを言うから――もうこっちは笑いをこらえるのが大変で大変で。ホントこのおじいちゃん。おかしくなっちゃったのかしらね――あら、失礼。聞こえてないわよね?あっ――そのうちこれ流しちゃうかー。ピー音にしておこうかしら?」


楽しそうに海夜母は話しながら――続けていく。


「あっ、そうそう。この後はねー。娘に電話切られちゃって――大泣きだったんですよ?言いたかった事言えなかった―!ってもうそれはそれは。大変です。ガキですよ。ホント。多分これを見ている頃も――大泣きですかね?あなた」


海夜母はそう言いながら――明後日の方向を見た。

まるでこの動画を使う時その方向に該当する人物がいると思っているような感じで――。


「そうそう、この後はね――あの人が大泣きしちゃって再度会話が出来なくなったから――私が代わりに海夜と二階堂さんと話したのよねー。もうこの時のご機嫌斜め海夜はかわいくてかわいくて、実際に見て見たかったわー。絶対二階堂さんに甘えていたわね。この時私が二階堂さんに代わってって海夜にお願いしたら。すぐに二階堂さんが反応した。ということは――2人はくっついて電話をしていた可能性があるわよねー。あとで皆さん聞いちゃいましょうねー。で――この後は何話したんだったかしら?自分のところは録音してなかったからねーわかんないわ」


海夜母はそう言いながら――カメラに向かって笑った。

それから――ちょっと考えるポーズをして――。


「そうそう、この後2人に早くやっちゃいなさいよーって言ったんだったわね。でも海夜も二階堂さん――だから――いつ見れるかしらね。今撮っている動画が早く見れたら――だけど何年も先になるかもしれないわねー。あっでも――この動画がすぐに公開されていたら――それは私がこれを撮っている時に――ってこともあるから――皆さん。この動画が終わったら根掘り葉掘り聞いちゃいましょう。動画の公開が――遅かったら――それはそれで何してるんだよ。的な事をこの後2人に言ってあげてください。私はせっかく背中を押しまくったんですからね。本当は――私が二階堂さんを奪ってみたらすぐに海夜は反応する。ということもしかけたんですが――二階堂さんが真面目ですからね。この撮影の少し前に言っているんですが――間違いは起こらないかなーと、私は思いつつ撮ってます。未来でどうなっているかですがね。あらーもしかしたらー違う場面でこれが使われちゃうことがあるのかしら?ねえ海夜?」


不敵な笑みを浮かべる海夜母。

するとそこでカメラを止めた。


多分これで――この動画を公開した時。その場の雰囲気が面白いことになっているだろうと思いつつの終了だった。


そしてそれから海夜母は慣れた手つきで、楽しく――編集作業を開始したのだった。


完成した動画は――それはそれ――うん。手の込んだものになっていた。

どうして海夜母がこんなことをできるのかは――知らなくていい事である。うん。


――


ちなみに海夜母が今録音したものは――式当日までの秘密にしようとしていた。


なのでこれを海夜の母以外が知ることになるのは――先。かなり先となる――いや、そこまで先の事ではないかもしれないけど――先の事である。


海夜母は――薄暗い部屋でニコニコと完成した動画を保存して――コピー。そう、こういうのは複数で保存しておかないと――何があるかわからないのでね。

もしかしたら――があるので。念には念。ということで海夜母はしっかり保存もして――本日の作業を終了したのだった。


なお――式当日。会場では――大騒ぎになったのは――先の話。

でもとっても楽しいことに――式はなりましたとさ。

大騒ぎしている――ウエディングドレス姿の――ですよ。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る