第106話 —―式のための準備
「コホン――えーえーテストテスト。OKOK?」
海山道家の寝室。
一人の女性が――何かをしている。
まあ女性とは海夜の母親である。
時間は父と娘が面白い電話をしていた日の深夜である。
海夜父は――既に酔いつぶれているため。自室で夢の中である。これは本人が確認済み。朝まで起きることはないだろう。
現在海夜の母は机に向かっている。
机の上には――録音機と。スマホ。
このスマホは海夜の母も物である。
そしてもう一つ録音機には――今日の会話。
父と娘の電話でのやりとりが録音されている。
再生ボタンを押すと――娘の声はほとんど聞こえないが――父の方の声はしっかり録音されている。
聞いているだけで楽しくなるような内容だった。
何をどうしたら――あんなに真逆の事を言えるのだろうか――と海夜母は思いながら――
作業を開始する事にした。
今から海夜母がやろうとしていることは、海夜と父が電話をしていたところの――説明である。みんなに事実が伝わるように、説明をしようとしていた。
ちなみに――現状。海夜母についても……いろいろ説明が必要かもしれないが――
うん。既に海夜母は慣れた手つきで――スマホをスタンドにセット。動画を取る準備を始めた。うん。慣れているというだけの説明を今のところはしておこう。
今からは今日のやり取りを残す。という作業がメインなのでね。
準備ができると海夜母は――作業を始めた。
「やっほーちょっと前のお母さんだよー。海夜?わかるよ?ってわかるよねー。はい。じゃ、今から二階堂さんとー、あの人が初めて話した時の――説明。始めるねー。まずこの場面」
――カチ。
海夜母は話しながら録音機を再生した――すると――。
「……早速だが。二階堂とやらを出せ……」
――カチ。
「はい、ここです。これは――なんか偉そうな感じであの人話してますが――本音は……早く噂の二階堂さんとお話したいから……代わってくれ。代わってくれ海夜。と頭を下げてます。はい。実際頭を下げてましたよ?写真は――隠し撮りしたので――編集の時に多分このあたりに出てきますよー」
そう言いながら画面の方の隅を指差す海夜母。そして机の上に準備してあって紙に――メモをしていた。それから――。
「じゃあどんどん行きましょう!」
ノリノリの感じでまた録音機が動く。
――カチ。
「……聞いておる!無駄な話はいらん……」
「はい、この場面。やっと今までどうやって話したらいいかわからなくて、二階堂さんが家に来るたび。逃げていたあの人が――ついに二階堂さんの声を聞いて――パニックになったところです。そして何を思ったのか。二階堂さんの挨拶を切り。叫んだという場面です。何してるんでしょうねー。ちなみに言った後――あの人はめっちゃオロオロしていました。私にどうしよう――的な目を向けてきましたが。私は笑顔で無視しました。面白くなりそうでしたからね。そして――その後――かわいいかわいい娘。海夜に怒られて――さらにパニックになったことにより――はい続きますよ――」
――カチ。
「……でだ。二階堂だったな。はっきり言っておく。娘に触れるんじゃないぞ……」
「……」
「……突然現れた奴に娘をやるわけがない。わかったか……」
「うーん、途中で二階堂さんの声も入っていると――なんですが――さすがにあの人の声しか入ってなかったので――とりあえず解説しますね」
すると海夜母は紙とペンを持って――。
何かを書きだした。
そして――。
「はい、こちら」
そう言いながらいくつか言葉を書いた紙をカメラの方に向けた。
「娘に触れるんじゃない」
「突然現れた奴に娘をやるわけがない」
この2つが書かれていた。
「はい。説明しますね。まず「娘に触れるんじゃない」これは――娘を頼む。優しくやってくれ。撫でると昔からこの子は喜んだ。とでも言いたかったんですかねー。ちなみに今はしたら――娘にボコボコにされるでしょうが――今は二階堂さんのものですからねーってこの撮影している時からかーてへっ――?あっ次行きますね―—たくさんあるから大変なんですよ――はい「突然現れた奴に娘をやるわけがない」まあこれも一緒ですかね。娘なんかにこんないい人が――とでも思っていたのか。あっ、あの人。二階堂さんついて事前に私にたくさん聞いてきましたからね。多分話している時には――うん。あの人の頭の中には、私が植え付けた二階堂さんの姿が浮かんでいて――うん。何で自分の娘なんかにこんないい人が――すぐにでも娘を渡す。とか思いつつ話していたんですかね――ちなみに感動していたのか。ちょっと二階堂さんの声を聞いただけであの人涙浮かべてましたよ。あっ、その写真もこのあたりにアップしますね――。って、どんどん行きましょう!
――カチ。
海夜母の一人で説明をする動画は――まだまだ続いた。
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