第27話 ホットココア

海夜を高校まで迎えに来た俺。

現在は海夜と合流して帰るために駅まで来たところなのだが……。


「……おい。聞いてないぞ」

「私も聞いてません」

「あー。そうか。だからみんな足早に駅向かっていたのか」


俺と海夜が少し濡れつつも駅に到着すると……。

そこには大雨のため運転見合わせの文字があった。

なんか昔にこんなことあったような……とか俺は思いつつ。まわりを見る。うん。駅の改札前は誰も居なかった。

もしかしたら少し前までは電車が動いていたのかもしれない。

っかここ。雨とか警報に弱いのを少し忘れていた俺だった。

いや大雪の時も止まっていたらしいが。あの時は休みだったから関係なかったからな。そして今日は傘、傘どこだよ。とまあ別の事を考えていたからか。電車の事をちょっと忘れていた俺だった。


「……海夜が呼び出し食らうから」

「私は悪くありません。でも……とりあえず。待つしかないですよね」

「だろうな。とりあえず……改札の中は入れるみたいだからホームに行くか」

「はい」


2人で駅の中。ホームへと入る。


もちろんだが……ホームは誰も居なかった。

あっ訂正。ホームの先端付近で駅員さんがなにかしているくらいだった。

そしてこの駅に1つしかないベンチが今日は空いていた。


「先輩。座ってましょう。ベンチ空いてますし。あそこならギリ濡れません」

「だな。せっかくレアなベンチが空いてるんだからな」


そんなことを言いながら俺たちはベンチへと移動して座った。

俺が座ると海夜は間を空けずに俺の横に座る。


「今日冷えますね」

「ほんと。もうすぐ春ってか今春じゃないのか?3月なのに」

「そういえば先輩」

「なんだ」

「今日は何の日ですか」

「ホワイトデー。お返しはすでに家にある。だから今騒いでも何も出ない。以上だ」

「……さらっと言われたのでなんか面白くありませんね」

「面白さを期待するな。あれだけ最近お返しお返し騒いでいた後輩よ」

「まあ。楽しみにしておきま――くちゅん」


となりでかわいいくしゃみが聞こえた。


「……寒いか?」

「ちょっと」

「なら。なんか飲み物買ってくるか」

「あっ。いいですね。暖かい物買いに行きましょう」


座ったばかりだが俺達2人は立ち上がり自販機のところへと移動した。

今日もいつもと変わらずたくさんの種類の飲み物が売られていた。


「……ここは……安定のお茶かな」


俺はそんなことをつぶやきつつお茶を購入。

すぐに開けて一口飲む。うん。暖かい。あたりだなと思いながら飲んでいると。


「……」


なんか隣から視線があった。


「……」

「……」

「……なんだよ、海夜」

「なんで先輩だけ飲んでいるんですか?」

「そりゃ買ったから?」

「奢ってくださいよ。今日はホワイトデーですよ?」


そう言いながらお金出しなさい。という感じに海夜がこちらに手を伸ばしてきた


「いや理由が意味わからんのだが」

「買ってくださいよー」


なんか隣で言ってくる後輩。

まあここで言い合っていても……だし飲み物1本くらいいいかと。俺は財布を再度出す。


「で、何の見たいんだ?」


俺が聞くと……なんか海夜はなんかいいこと思いついた。みたいな顔をして――。


「じゃ先輩。今私が飲みたい飲み物当ててください」

「—―はい?」

「ほらほらー。先輩なら私が飲みたいものわかりますよね?」

「わかるかよ。エスパーとかないから」

「私が先輩が選んだ後に飲みたかったものを変えないように今から先輩のスマホにこの自販機にある飲み物のどれかの名前を送ります。これならずるくないですよね?先輩がどれだけ私を見ていたかのチェックですよ」

「なんか……もしだがこれを俺が当てると海夜を凝視してたみたいにならないか?」

「大丈夫ですよ。多分。それに絶対先輩はわかりませんから。はい先輩送りますよ」


と言いながら海夜はスマホを出して……すぐに俺のスマホが鳴った。まあもちろん送り主は隣に居て……飲み物を書くまでは見なくていいらしい。


「……で、買えと」

「はい!そして先輩が外したらなんでも言う事1つ聞いてもらいますからね。私は後ろ向いてますから」

「無理ゲー。ってもし奇跡的に当たったら?」

「それは無いと思いますけど……これだけ種類のある中からですから」

「……相手の勝ちが決まったゲームかよ」


海夜は自信満々というか完全に勝った。という顔をしている。そして海夜が後ろを向いたので……。

そんな海夜から俺は視線を自販機に移して……。


「……まあ暖かい物だろうが……ここはお茶か……いや――」


とか思いつつも……自販機には紅茶とかおしるこ。コーヒーもある。もしかしたら最近の海夜は苦いものにハマっているかもしれないとか思ったが……。

これ……変なものを選ぶとなんかそれはそれで大変なことが起こりそうなので……。


――ガコン。


自販機の取り出し口に飲み物が落ちる。すると海夜は楽しそうにこちらを振り返った。


俺は今かった飲み物を海夜の手へと……。


「ほら。これでどうだ?寒いからホットは確定と思ったんだが……どうだ?」

「どれどれ。先輩は何を買ったのかなー」


と海夜は俺から受け取った飲み物を見た。そして海夜が俺の買った商品を確認すると……。


「—―うそ」


と小さな声が聞こえてきた。ちらっと見てみると……海夜は驚いた表情をしつつ俺を見ていた。


「うん?不満か?ってなんて送ったんだ?」


と俺はここで自分のスマホを出して確認すると……。


勝った。と心の中で思ったのだった。


「……本当に好きだったか。じゃ俺の勝ちか」


海夜からのメールには……。


「ホットココア」


と書かれていた。

そして俺が今買って海夜に渡したのも……ホットココア。


どうやらこれは……面白いことになりそうだ。


「えっ?先輩……なんでわかったんですか?」

「—―何が?」

「私がココアが好き。だって……言いましたっけ?確か……先輩の前では機会がなかったのもありますが……飲んだことないと思うんですけど……実は不正しました?」

「してない。っか海夜」

「はい?」

「記憶力悪いな。お前」

「なっ。そ、そんなことないです……って。えっ?私先輩に言いましたか?」

「—―言ったな」

「えっ?いつですか?絶対……言ってないですよ。だって……いつか先輩に勝負を挑んで私の好きなもの考えさせて。でも先輩は絶対わからなくて。敗北する。そして私が先輩に命令できる。っていう未来予想で。そのチャンスが今来たのに……」

「お前……なかなかだな。っか命令したかったのかよ……まあ気になるなら過去に戻ってこい」

「むー。無理なこと言って……ってこれじゃ……先輩に命令できないじゃないですかー」

「命令ってなんだよ。っか飲まないならくれ。見てたらココア飲みたくなった」


俺が言うと海夜はさっと缶の蓋を開けて一口飲んだ。


「はー。この味落ち着きます。私のご褒美の時の味―」

「こいつ急に飲みだしやがった。っかたまには俺もココアにすればよかったな」

「—―飲みますか?」


海夜がココアの缶を差し出してきたので……。


「あっ。いいのか?じゃ……」


と俺が受け取ろうとすると引っ込ませた。


「って。いやですよ。そこは先輩が「お前の飲みかけだろ?飲めるか」とか言いますよね?」

「……あー。そうか」

「気が付いてなかったんですか!?」


とか、駅の中でなんかやっている俺たちだった。

まあ周りに人が居なくてよかったな。


「っか俺が海夜の好きなもの当てたからなんか1つ命令していいのか?」

「なっ……い、嫌です。そ、そんな約束してないです。はい。してないもん」


と言いながら海夜1歩俺から離れた気がする。


「俺確認したような気がするが……?」

「……いやです。先輩絶対変な事命令してきますから」


と海夜から鋭い視線……ってまあそんな変なことは言わないんですがね――。


「まあ、とりあえずベンチ戻るか。電車はまだ来ないだろうし立ってるの疲れるわ」

「……先輩おじいちゃんですね」

「うるさいな」


それから電車の運転が再開するまで俺たちはベンチに座りのんびりとしていた。

ちなみにさっき自販機の前では1歩下がって離れた海夜だったが。現在俺の隣にはなぜかぴったりとくっついている海夜が居る。寒いのかね?ホットの飲み物与えたんだが……ちびちび飲んでるから温まらないんだよ。とか俺は隣で思っていた。

って早々に飲み終えた俺は……もう冷えてきました……うん。自販機の前で飲んで……ゴミ箱にとっとと缶を捨てたんだが……ゆっくり飲むべきだったらしい。


結局電車が止まってから……2時間弱して運転は再開となった。

俺達が家に帰った頃にはなんかもうめっちゃ疲れた。遠出はしてないのに……早くくつろぎたい。という感じだったのだが……。


あれ?なにか……俺忘れているような……とか思っていたら。海夜に肩をたたかれた。


「先輩。忘れてませんか?」

「なにを?」

「ホワイトデー。まだココアしかもらっていません」


海夜に言われて思い出した。


「……あー。忘れてた。ほらお菓子と……本」


俺は部屋の隅に置いてあった海夜へのお返しを渡した。


「……本?そんなお返しは予想してなかったです……お菓子は予想してましたが……」

「あー。まあそれは……」


不思議そうな顔をして袋から本を出す海夜。


「お出かけ……観光ガイド……えっと……先輩これは……?」


さらに不思議そうな顔をしている海夜。

まあそうなるか。ホワイトデーのお返しに本とか聞いたことないしな。


「いや……海夜がずっとお出かけとか言ってたが……俺普段どこも行かないし。なんもわからんから……まあ一緒に考えればいいか。見たいな」

「で……旅行のガイド本と」

「まあ、そういう事。本だけだと刺されるから。ちゃんとお菓子もあるだろう?」

「これは……まあ後でゆっくりいただきます」

「—―うん」

「……お出かけは……ゆっくり考えます。ありがとうございます。そして覚悟していてください」


笑顔になった海夜が俺に言ってきたのだが――――なんで覚悟?である。


「……なんでお出かけで覚悟しないといけないんだ?」


俺が聞くと何故か本を抱きしめている海夜。

そんなにガイドの本好きだったのか?こいつ……と俺が思っていると……。


「先輩。今日泊ってきます」

「—―はっ?」


海夜がそんなことを言いだした。


「先輩。お出かけの予算は何万円ですか?」

「……万……だと?」

「はい!だってこのガイドですと。宿泊して観光。ですからね」


本をこちらに見せてくる海夜。


……。

……。

……。


――えっ?


俺の頭の中で理解が追い付いていなかった。おかしいな……宿泊の文字が出てくるはずはないんだが……何故だろう。海夜が持っているほんの表紙には……。


「はっ?まてまて宿泊?聞いてない聞いてない。俺は日帰りのやつを買ってきたはずだ」

「知りませんよー。先輩がこれから選べと渡してくれたんですよ?私がしっかり計画します」


海夜はそう言いながら楽しそうに本を抱きかかえる。


「まてまてまて。タイムタイム!」


再度確認のため海夜に渡した本を掴むと……。


「ちょ、先輩。何するんですか。渡しませんよ」


と海夜は話してくれなかったが。俺が何とか……海夜の手の隙間から表紙を確認してみると……。


「……ミスった。これ隣に売っていたやつだ。後ろの本がビニールに入っていたから後ろから取った時に間違えたか……海夜。これは訂正」

「受け付けません」

「ちょ」


それから2人でバタバタ。まあ最後は海夜に負けましたとさ。

無理だろ。服の中に本入れてガードするとか。どうやって取れ。なんだよ。無理じゃん。取ろうとしたら俺捕まるじゃん。だった。


ってヤバイ。金がそのうち消えそうだ……。

まあなんか海夜は楽しそうだったから……とりあえずは良かったのか。

いやでも俺が良くないような……。


外の空気のように俺の財布が寒くなる未来予想がこのときしましたとさ。

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