第5話 帰り道

 その次の日から頻繁に海夜に会うことは、なかった。いや、あったらあったで、びっくりだよ。今まで全く会ってなくて知らなかったのに、知り合ったら毎日会う。とかはもちろんなかった。

 っか、同じところに住んでいることすら知らなかったんだからな。


 ちなみに会わなかった理由は多分大学と高校じゃ登校時間。生活サイクルが微妙に違うからだろう。

 大学、高校の最寄り駅が同じ駅だから混雑しないようにか大学と高校は朝も開始時間がずれていると思われる。大学の始まる時間は学生が多く利用するのでそれより早い時間で行こうとすると今度は高校生の集団に巻き込まれるのでね。まあ大差はないのだが。


 まあなので、そりゃ今までも会わないというか。見かけないだろう。

 気にしてれば姿はどこかで見かけるかもだが。俺何度も言うがご近所とか気にもしてなかったからな。少し前も触れたがお隣さんでも顔を知っているレベルで、多分ちゃんと話したことはない。挨拶するくらいだと思う。それもさっと短時間でな。


 でも海夜と全く会わないとかではないので少し時間が経つと、なんとなくだが海夜という女の子のことは自然とわかってきた。


 そうそう先に言っておくが俺はストーカーではないので。


 たまに登下校やアパートのところで海夜を見かけるが基本1人。そしてなんか――いつもつまらなさそうに歩いている気がする。

 あの時の駅と同じ感じの表情だった気がする。


 でも俺が挨拶やらすると海夜の表情はコロッと変わって普通に返事してくれるんだがな。そんなに会話が続かないので、しばらくは挨拶程度という感じだった。


 っか、気になる事を1つ言えば。海夜は高校生だが一人暮らし?なのだろうか。いや数日経っても海夜の親らしき人を全く見なかったのでね。

 たまたまかもしれないし。そのことに関しては、海夜本人に聞くまではわからないか。


 それからしばらくしたある日の夕方。

 俺は最寄り駅から出てすぐのところにあるスーパーで買い物していると後ろから声をかけられた。


「——あっ、先輩?」


 先輩と呼ばれただけだと。少し前の俺では全く反応しなかったが。聞こえてきた声も聞いたことあるし。最近俺のことを先輩と呼ぶ後輩が1人出来たので、無視することなく。振り返れた。


「——うん?あー。海夜か。ちょっとぶりだな」

「はい。こんにちは先輩も買い物ですか?」

「まあ、そうだな。スーパーに居るんだから」


 会計後に荷物詰めをしていると後ろから声をかけられて、そのまま声の人物は隣にカゴを置いたので今は隣同士になった。

 声の人物というか。すでに名前言ってるな。隣に来たのは制服姿の海夜だった。

 海夜も学校帰りに――おつかい?だろうか。とか思いつつ。先輩と呼ばれたことが今までなかったので、なんか――まだむず痒い感じだった。

 すでに何回か海夜に言われてるんだがな。なんか変な感じがする。むずむずするな。


「海夜は制服着てるから――学校帰りか?」

「いえ。1回帰ってから来ました」

「そうか、制服だから学校帰りかと思ったわ」

「学校にあまり無駄なものは持ってかないので面倒と言えば面倒なんですけどね」

「——前に言ってたな」


 しまった余計な方に話を振ってしまったようだ。海夜の表情が曇った。


「あ、大丈夫ですよ?気にしないでください」


 だがすぐに海夜の表情は戻った。

 そして、俺が荷物を詰め終えると海夜も同じく終わったらしいが。海夜の荷物を見て重そうだなと感じた。


「——海夜。少し荷物持とうか?」

「えっ?」


 海夜はすでに別の袋も片方の手に持っていたので、さらに追加で今の食品などの袋を持つのは大変そう。と思い俺は声をかけた。

 ってか、なぜか気がついたら自然と話しかけていただな。普段ならそんな気を遣うというか。気にすることなかった気がするが――あれか。ちょっと海夜の表情を曇らせてしまったから、自然とお詫び的な――?わからんがいいか。


「いや、帰るところ同じところだし。なんか荷物大変そうだからさ」


 とりあえず俺は適当に理由を言っておく。


「いつもだから大丈夫——ですが。その、ありがとうございます。なら……」


 そう言いながら海夜は手に持っている荷物を比べ。


「ほら。どっちでもいいぞ」

「えっと。では――こっちを」


 軽そうな方の袋を渡してきた。両方持ってやっても良かったんだが。まあいいか。手ぶらは手ぶらで気にするだろうからな。全部持たせた。みたいな感じになるし。


 俺が荷物を受け取り、そして2人でスーパーを出た。


「……」

「……」


 って、外に出てからは会話がないのでなんか変な空気が流れていた。

 なので気になっていた事を聞いてみた。いやずっと気になっている。ではなんか気持ち悪かったのでね。


「——なあ海夜」

「は、はい?」

「海夜は一人暮らしなのか?」

「えっ?あ――。はい。そうですけど?」

「高校生でか。大変じゃないか?」

「いえ、まあ大変ですが。それなりに親からの支援がありますから。はじめのころから見たらかなり慣れましたよ」

「1人暮らしってことは――実家が遠いのか?」

「いえ。そこまでは、ただ親が『高校生なら一人暮らしするべき』という感じで。高校入ると同時に一人暮らしをしてます」

「——なかなかだな。なんか凄いわ」


 そんな親居るのか。と、思いつつ話を聞く俺。ちなみに俺の親は――言わなくていいか。


「いえ、まあ親も忙しいので、一応定期間ごとに連絡と長期休みには顔を見せる約束にもなってますし」

「そうか。でもほんとすごいな。高校生で一人暮らしかー。今は俺も出来ているが。高校生の時だとどうなっていただろうな」


 俺だともしかしたら毎日遅刻とかありそう。いや引きこもっていたかも。とか思っていると。


「全部1人でするので大変なのは大変ですが。でも慣れたら楽です。家には1人ですから。自由ですし」

「まあなんとなくわかる。1人楽だよな家のはホント自由だし」

「はい。誰のことも気にしなくていいですからね」


 そんなことを海と話していたら自宅に到着した。


「あっ、荷物ありがとうございます。助かりました」

「いや、ほら袋」

「ありがとうございます」


 俺は海夜に袋を渡す。

 そして袋を受け取った海夜は自分の部屋へと入っていった。俺は海夜を見送ってから自分の部屋へと向かって行ったのだった。

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