第4話 いつもの事

 今までもいつも1人だった俺。小学校、中学校、高校と仲間はずれはよくあった。


 大学では1人でいても授業は普通に受けられるし。とくにいつも1人で居ても周りは何も言ってこないので少し忘れていた感覚というのか。小学校は高学年あたりしか記憶がないから曖昧だが。中学、高校なんか1人で居れば嫌がらせなんか毎日当たり前のようにあった。


 それを久しぶりに思い出した。物を隠されて無くなり。高校では確か財布も消えた。酷いと椅子や机は廊下。まあ近くにあればマシ。授業でグループ決めろ。なんか地獄。いつも1人。相談できる場所。人もいなかった。

 けど俺はたまたまか。無関心とでも言うのか。辛い辛いだったのが。途中からというか『またか、ほんと飽きないことで――』という感じに思えるようになり。気が付いたら何かされる。されているは当たり前になり。何か行動するとかはなくされるがまま。みたいにしていたら。高校生活は終わっていた。


 俺は幸いか不登校にはなっていなかったのと普通レベル以上の勉強は出来たから。推薦で大学には来れた。

 そして知り合いの全くいない大学を選んだ。というか、ただ勉強してみたいこととか。将来どうするかとかが全く浮かんでいなかったのでとりあえず遠いところにある大学にしただけだが。


 大学に来てからは今までの嫌がらせなどは綺麗さっぱり無くなったが。1人が当たり前は変わらない。1人が当たり前というのが染み付き。誰かと関わるは極力なくすという過ごし方をしていたのでね。

 先程も言ったが少し忘れていた感覚。それが一気に解放されたみたいに今頭の中で思い出していた。

 そして先程の女の子の雰囲気が全て諦めてただ学校行く。そして何となく授業受けて帰る。の生活をしていた昔の自分と重なった気がした。


 ★


 それから俺は先ほどお茶を買った自販機に戻っていた。

 またぐるっと商品を見たが――こういう場合なに買えばいいんだよ。最近の高校生何が好きなんだ?とまあ俺がわかるはずはずもなく。無難にお茶をまた買ってホームへと戻る。

 お節介だろうと思ったが。なぜか俺はこんな行動をした。


「——ほら、お茶でいいか?」


 俺がお茶を差し出すとかなり驚いたような表情を女の子はしていた。『本当に買って来たんですか?』と、いう感じだった。


「あっ――えっ?ほ、ほんとにくれるんですか?その――さっきの話。私の作り話かもですよ?」


 そんなことを言われたが。なんとなく、嘘はないと俺は思っていた。

 まあホント俺の勘だが。ただ昔の俺が通った道を少しだが見た気がしたから。

ただそれだけのことだ。


「まあ1本くらいやるよ。なんか話させたみたいだから」

「ありがとうございます。ちなみに――私はココアがよかったです」

「おい」

「……あっ、すみません」


 なんかココアが飲みたかったとか言われたが。女の子はちゃんと俺が渡したペットボトルの飲み物を抱いていた。少しの間手を温めたあとに開けて一口飲んだ。

 横顔をチラッとだが。なんか――幸せそうな雰囲気になった気がした。まあ俺の気のせいだろうが。

 ってあまり見ているとなんか言われそうなので俺は前を見る。

 その時だった。また駅のスピーカーから運転見合わせのアナウンスが流れ始めた。と思ったら。先ほどまで流れていたものとちょっと違った。


 今流れているのは――運転再開のアナウンス。

 もうすぐ電車が来る。というアナウンスが流れていた。

 そういえばいつの間にか雨は弱くなっていた。雨が降ってはいるが強くは降らなくなっていた。そして風も弱くなっていたので、どうやら雨のピークは過ぎたらしい。


 するとお隣から。


「あの……その――ありがとうございました。暖かくなりました」

「いや、まあならよかった」


 なんか久しぶりに他人からありがとうとか言われた俺だった。

 それから少しして電車の音が遠くから聞こえてきた。


 そして駅に電車が来ると女の子は小さく頭を下げてから先に電車に乗り込んだ。


 まあ俺もこの電車を待っていたので追うようになるが俺も電車に乗る。

 車内は数人だけだった。先程の女の子とは同じ車両だが。一緒に居るということは当たり前だがなく。離れた位置に座る。


 それからは順調に電車は走り。途中で再度運転見合わせとかもなく。いつものように電車に揺られて俺は帰る。


 そして今の家の最寄り駅に着いたら、そのあとは今の俺の拠点。アパートへと帰るだけ。という流れでその日は終わるはずだった。

 

 ★


 終わるはず。だったのだが。


 ちょっとした物語なら、ちょっと駅で電車の運転再開までに知り合った女の子と話してお茶を奢っただけの話。で終わるのだが。この物語は終わらなかった。むしろ始まりだった。


 最寄り駅に無事着いて自宅へと俺は歩く。

 車内で折り畳み傘を再度使う準備もしていたが雨はいつの間にか止んでいた。と、いうか。雨のことは今はいい。

 それより駅を出た時は何人か人がいたから気がつかなかったがしばらく歩いてからの事。俺の後ろをついてくる人がいた。というか足音が聞こえてきた。一定のリズムで離れることも近づいてくることもない。まさかの…。ストーカー?いや、ひったくり?とかに狙われてる?とかいろいろ頭の中に浮かんだが。足音が近くなってからでは対処ができないので。


 一息ついてから急停止。そしてふり振り返ると――。


「あっ…」


 俺が止まり後ろを向くと同時くらいに後ろから声がしてまた女の子と目があった。


 そう先程駅で少し話したりお茶をあげたりしたあの女の子が数メートル後ろを歩いていた。これはどう反応したらいいのだろうか。どちらもが止まっている。というか固まっている。個人的にはとりあえずなにかされるということはないだろうとちょっと安心したのもあるが。

 このあとどうすればいいのか。と頭の中で言葉がいろいろまわっている。


「——えっと……ストーカー?」


 とりあえず、頭の中をくるくるまわして出てきた言葉だったが。まあ後ろをついてきたからストーカーで間違いはないはずなんだが。


「ち、違いますから!わ、私も家がこっちでして――その――仕方なく」

「そ、そうか――まあ、だよな大学も高校も同じところにあるんだから。通学を考えたら。このあたりもあるか。俺もそうだし」

「そ、そうです。だからストーカーとかじゃありませんから」

「悪かった悪かった。まあ、じゃ気を付けて帰れよ」

「——はい」


 とりあえず追いかけてくる足音は解決したので俺は前を向き直しまた歩き出す。のだが。足音はまだ付いてきている気がした。

 先ほどと同じ離れもしないし近くもならないそんな感じが続く。


 後ろに気配を感じつつ歩いていると。俺が現在拠点にしているアパートに着いた。すると今度は後ろから声が聞こえてきた。


「へっ――うそ――ですよね?」


 そんな声が聞こえたので俺が振り返ると。先程から居る。というのか。音がしていたから、居るのはわかっていたが。数メートル後ろを付いてきていたであろう女の子は、ぽかーん。と立っていた。


 なんだこいつ。と、「俺が思っていると。


「あの……もしかして――ここですか?家」

「いや、まあ、ここだが。なんでだ?」

「その――わたしも。ここなんですけど……」


 俺の後を付いてきていた奴は、言いながら俺の住んでるアパートを指さす。マジかよ。


「——なんだと?」


 これは偶然?なのか……?と思いつつ。


「ちなみにうち3階だけど――」

「私は2階です」

「——まさかのご近所さんだった。とは。全然知らなかった」

「私も知りませんでした」

「いや、まあ。高校と大学だし。通学の時間も違うだろうし。合わないかそれに気にもしないだろうからな。接点ないから」

「同じ階のお隣さんくらいしか知りませんから。それも顔を知っている程度ですが」

「だな。俺もお隣さんなら顔くらいは知っている。


 少しアパートの前で立ち話。なんで高校生と俺は話しているんだっけ?すると。


「あっ、すみません。申し遅れました。私、海山道みやまど海夜みやと言います。高校2年生です。先程はお茶ありがとうございました。そしていろいろ言いました。すみません」


 いきなり自己紹介始まったので、俺も簡単に返した。


「いや、まあ、あれは別にいいが。あ、俺は、二階堂にかいどう仁悠にちか

「……にちか?さん」

「ああ、言いにくいのは知っているが俺に文句は言うなよ?自分で名前を付けてないからな?親だからな?」


 にちか。という名前が多いのかは知らない。でも今のところ俺は同じ名前の人にあったことはない。あと。初対面の人は漢字を書くとほとんどの人が読めない。稀に読めた奴……いたっけ?友達少ない俺そんな記憶ないな。って無駄な事話したな。


「そんなことは言いませんが。仁悠という名前は初めて聞いたと思うので」


 ほら、やっぱりなかなかいないんじゃないか。


「まあ、海山道——だったか。ご近所さんということでとりあえずよろしく」

「海山道……はなんか先生に呼ばれてるみたいなので。名前で呼んでください」

「先生って。っか、いきなり名前呼びね。っかそんなに呼ぶようなことはないと思うが」

 

 いきなり名前で呼べと言われるとは――と、俺が思いつつ返事をしていると。


「——ならまあ苗字でもいいのですが……」


  海山道が急に暗い表情になった気がした。なのでもしかしたら苗字で呼ばれるのは、苦手な先生などから普段呼ばれていて。学校外でも呼ばれている感覚になったりするので嫌なのだろうか?と、勝手に俺は思い。

 たまに会ったとして、苗字で呼びかけて相手に嫌な思いをさせるのは――だったので。

 っか先ほどなんかいじめ?みたいな話も聞いていたしな。


「いや――うん。まあ確かに嫌なら――その海夜……でいいか?そんなに言うこともないと思うが」

「はい。よろしくお願いします」


 俺が名前で呼ぶと少し海山道――海夜の頬が緩んだ気がした。


「ああ。あっ。ちなみに俺は大学2年な」

「ってことは同じ2年ですね」

「なんか違うが――まあいいや。海夜。風邪ひかないようにな」

「あっ、はい。それでわ失礼します」


 少し話しながら歩き2階に着いたところで海夜とは別れた。

 そして俺も自分の部屋のある3階へ向かう。

 にしても、まさか同じアパートにあのような女の子がいるとはホントに全く知らなかった。一応1年以上いるし。海夜も2年と言っていたから、1年以上はここに居るはず。それならごみ捨てとかで会いそうなものだが。単に俺が気が付かなかっただけだろうか?あっ、もしかしたらごみ捨てとかそういうのは親がしている?

 まあ俺がほぼ他人と話すことがなかったから、周りを見ていなかったということもあるか。とか考えつつ自分の家に部屋に入ったのだった。

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