第17話 お鍋
日に日に寒くなってきたある日の事。
いや寒い。少し前まで暑いと言っていたはずなのに寒い。気が付いたらダウンコートやらやらの季節が来ていた。っか寒くなっても変わらずというか。俺の隣はにぎやかだ。
「寒い、寒い、寒い、寒い。先輩寒いです」
海夜がそんなことを隣で言っている。
「制服はスカートだから。寒いよな。っか何回寒いというつもりだ?」
「たくさんです。あー。風が冷たいー。先輩。盾になってください」
自分の手で足をすりすり。腕をすりすり。海夜は自力で温まろうと頑張っている。
「やだよ。こっちも寒いし」
「じゃ、スカート交換してください」
「さらにいやだから。っかしないから。それはないから。俺が不審者になるから」
「捕まりますね」
人を犯罪者にしないように。誰も見たくないだろう。そりゃ国が変われば問題ない。普通に履いているところもあるが――ここはね。多分捕まる。いや、職質かな?
「っかそもそも大衆の前でスカート脱ぐつもりか?」
「先輩最低ー。何言い出すんですか」
「どっちが言い出したんだよ」
「――先輩?」
「事実を捻じ曲げるな」
とにかく寒い中元気に?騒がしく移動中の俺たち。ちなみに気がついたらもう12月だ。
そして大学帰りに海夜に待ち伏せされていたので今は一緒に家へと帰っているが。最近風が冷たい。あと風も強い。正面からなかなかの冷たさの風に先ほどから攻撃をされている2人だった。
この大学と高校の建物から駅までの道がとにかく寒い。風を遮るものがなにもないのでほぼ暴風の中を歩いているような感じだ。
駅から家も同じように寒いのだが。それ以上に大学から駅までが寒い。これは1年の時にも経験したので知っていたが。寒いものは寒いである。
とりあえずどこいても寒くなりだしたということだ。にしても今年は寒くなるの早い気がする。去年って、どうだったっけ?年明けたくらいが一番寒くなかったか?年末に寒いってことは、年明けは今以上に寒いということなのだろうか?
「っかさ、海夜」
「はい、なんですか?」
「寒かったらさ。先帰ればよかったのに。夕方になればなるほど寒くなるし。待っているの寒いだろ?」
「――それはいいんですよ」
なぜかちょっともごもご答える海夜。
「また風邪ひくぞ」
「ひきません。多分。でも寒いです。一時期はあんなに暑かったのに」
「夏はエアコンなくて大変だったな」
「ほんとですね。あの時はホント。サウナ地獄でしたよね」
最近の気候極端すぎると思う件について――って特に語る予定はないがな。でもなそうしか思えないんだよ。
「海夜の部屋がな。っか最近の気候を見ているとそのうち夏と冬だけに季節なりそう」
「あっ、それわかります。なんか四季がなくなってますよね。今って春秋があっという間って感じです。そして、なんか夏と冬が極端というか」
ほら海夜も同じこと思っているよ。
「だよな。ホント。っかあとは時間の速さよ。なんもしてない気がするのにもう12月」
「おじいちゃんみたいなこと言いますね先輩」
「どっかの後輩にストーカーされてますから。苦労があるんだよ」
「ちょ、してませんからね?変な噂やめてくださいよ」
「今だって待ち伏せ――」
「してないです!」
「誰だよ。道の途中で立って待っていたの。まあ噂言うが俺がまず誰かに話すという可能性が無いから。広がることはないな。面白くないことに」
「先輩がいじめてきます」
そうそう、先ほどから声は俺の真後ろから聞こえている。すすっと海夜が後ろに下がっていたのでね。っか人の後ろにぴったりとくっつくように歩いているみたいだった。
「っか、人を風除けにするな」
「いいじゃないですか。先輩の前を私が歩いたらサービスになるじゃないですか」
「なんだよ、サービスって」
と俺は言いつつも。まあ海夜スカートだからか。とか思いつつ歩いていると。急にピタっと。何か冷たいものが顔にあたった。
「あれ?雨?」
俺がつぶやくとどうやら俺の壁では効果がなかったらしく。海夜もつぶやいた。
「何か――今。冷たい何かが当たりました。雨?」
「だよな?何か当たったような?」
そういえば気が付いたら空は雲が多くなっていた。風が結構あるので雨でもとばされてきたか。とはじめは思っていたのだが。よく見ると。
「あっ、先輩これ雨じゃなくて。雪ですよ」
「マジか。ってマジだわ。服に付いたのよく見ると――結晶あるわ」
「寒いはずですね」
ほんとだわ。雪が降るということは――それなりに寒いということだからな。
「だな。ホント早く帰ろう」
「あっ。先輩早歩き禁止です。私が付いていけません」
「ピッタリ後ろを歩こうとするからだ」
にしても、今年はこんなに早く雪を見ることになるとは。そりゃ寒いわけだわ。
「ちょっと綺麗ですが寒いです。やっぱり先輩。盾になってください」
「だ、か、ら。っかくっつくな周りから変な目で見られる」
「大丈夫ですよ」
「なにが大丈夫なんだか」
「わたしは安全ですから」
「意味わからん。なんだよ安全って」
「まあ最悪職務質問されそうになったら。私はその直前で叫んだら勝てます」
「おかしい。おかしいから。ちゃんと説明しろよ」
「まあまあなので今は大人しく私の盾に」
「この後輩ほんとやだ」
やらやら言いながら俺たちは駅に到着した。そしてホームでも海夜に盾にされて少し雪で濡れながら帰ってきた。
「つめたかったー」
って、何故か俺は自分の家に帰って来たはずなのに隣からまだ声がする。そして玄関でその声の主に抜かれた。
「なぜ自然とうちに入ってくるか。海夜の家はここじゃないぞ」
「先輩の家はわたしの家みたいな感じになりつつありますから」
「はぁ……まあ濡れただろうからタオル。持ってくるから動かないでそこで待ってろ」
「おー。先輩優しい。って早く早く冷たいです」
「はいはい。ほら」
タオルを海夜に投げる。ちょっと顔を狙って――スパッと。ここ大切親切と思わせて――だ。
「――ぐはっ……ちょなんで顔面に向かって投げたんですか!」
狙ったのだが。予想以上だった。まるでコントでもしていたかのように完璧に海夜の顔にタオルがヒットした。ちょっとだけ心の中で――悪い。と言っておこう。
「コントロールミスだな。ちょっとした」
「この距離ですよ?近いですよ?イジメですか!2メートルも離れてないですよ!?って結構強く投げませんでしたか!?」
「元気だなー。海夜は」
「もう!」
それから部屋に入る。当たり前だが部屋も冷えきっている。1日誰もいなかったからな。それは仕方ない。
荷物を片付けていると。海夜も当たり前のように自分の荷物を置く。最近は定位置に鞄とか置いている。当たり前すぎてもう何も言わない俺だった。すると荷物を置いた海夜が話し出した。
「先輩。今日はお鍋食べましょうよ」
「いきなりなんだよ」
「鍋にしましょう。寒いです」
「まあ鍋はいいが。さすがにすぐは暖房効かないな。こういう時は炬燵が欲しいな」
「はい!」
「うわっ」
めっちゃ元気な声が聞こえてきてちょっと驚いた。もちろん声の主は海夜だ。
「買いましょう」
「――はい?」
俺はふと思いついたことをつぶやいただけだったのだが。なんか海夜が隣で目をキラキラさせて寄って来たんだが。なんだこれ?
「買いましょう。ったってな」
「炬燵の購入特典としてわたしがこの部屋に住み着きます」
「やだよ」
「なんでですかー」
「俺が疲れる」
「少しは――癒し効果ありますよ?」
そりゃあるだろうが――かわいいし。って、じゃなくて。
「自分でいうか。まあとりあえずこんなことしてても暖かくならないし。暖房もそうは効いてこないから。まず鍋。火使えばちょっとは暖かくなるだろ。うん。鍋作るぞ鍋」
「話変えられたー。って、あれ?癒し効果は否定されてない?先輩?ちょ先輩ってば」
後ろでなんか言ってるが。気にせず鍋の準備に入る俺。
◆
鍋の素はあったから――。
肉や、野菜ととりあえず冷蔵庫にあるものを出して適当に切っていく。そして鍋に水入れて火つけて、あーちょっと暖かい。火の回りは暖かくなった。
それから具材を入れて、ちょっと少ないので再度冷凍庫をあさるとキノコとかが凍っていたのでそれはそのまま鍋にほりこむ。ちょっと固まっていたから叩いてからな。あとは待つだけだ。
鍋の後は――うどんが冷凍庫にあったからそれでいいだろう。
やっぱ鍋って楽だわ。
あと微妙に残ったりしている物使えるから便利。小さい野菜やらも全部入れれるし。ざっと作ったがまあまあだろう。
「――先輩。できましたか?」
「いつの間にかくつろいでるし」
「暖房効いてきたので」
「こいつ…」
この後輩。ちょっと甘やかしすぎたか。部屋での態度がでかくなってきた気がするが。まあ別にいいか。馴染んでいるのはいいことか。
「ほら。ぐーたら。できたぞ」
「わーい。部屋もやっと暖かくなってきましたし。食べましょう」
いつも通りの感じで部屋での時間は過ぎていく。そして2人で何やかんや言いながら鍋食べましたよ。最後にはうどんも食べたし。食べ終わるころには部屋もポカポカ。人2人もポカポカとなった。こんな生活が普通になりつつある怖さよ。
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