第4話 旅に出費はつきものです
「リア!おはよう!」
目が覚めると、そこにはソールの笑顔があった。昨日の外行きの格好とは異なり、部屋着の姿のソールに、俺は思わずどきっとしてしまった。
――こんなに、可愛かったんだ……
「どうしたの?そんなに見つめて…… なにか、変だった……?」
ついついソールの姿に見とれてしまった俺を、ソールは不思議な表情でじーっと見つめていた。その姿に俺はさらにドキドキが止まらなかった。
ある意味では、こんな距離感でソールと話せるのもこの姿になったからだとも言える。ソールも、俺が見た目普通の女の子とあれば、警戒なく話してくれるのであろう。まさにビバ!女の子ライフ!と言ったところである。
元々戦いに明け暮れていた俺は、こんな風に、女の子と優雅な朝を迎えるといった経験など無かった。誰かと共に迎えた朝と言えば、男4人キャンプで共に朝を過ごしたりといった、むさ苦しい経験しか無い。そう、俺は生まれ変わったのだ。
「準備が出来たら、早速出発するよ!リア! いつまでも寝ぼけてないで、ほら起きて起きて!」
そうか…… 昨日リアの言っていたダークドラゴン。その血を手に入れば、俺に降りかかった呪いも解ける。
――呪いが解けたとしたら、俺は前のリアの姿に戻れるのかもしれない。でも、その時、果たしてこんな風にソールは接してくれるのだろうか?
いずれにしても、あのパーティに戻るつもりはもう無かった。仕方無かったとはいえ、俺だってあんな別れをしたのは悔しい。姿や魔法が戻ったからと言って、またよろしくね!なんて、そんなのいやだ。俺にだってプライドがある。
そしてもう一つの問題、確かに俺はダークドラゴンの存在は知っていた。だけど、それもギルドを介した討伐依頼があったからに過ぎない。文献上では高山など、人里離れた場所にいると聞いたことはあるが、ギルドの仲介無き今、一体どうやって探すというのだろう。
「ソール、あのさ…… ダークドラゴンの所に行くって言ってもさ…… わ、わたしダークドラゴンの居場所は知らないよ……」
「大丈夫だよリア! 私が何も考えずにそんな提案をすると思う? ちょっと離れた所になるけど、ルサカの村、そこの近くで、最近ダークドラゴンの目撃情報があるらしいよ!」
「ルサカの村?」
今まで、沢山の任務をこなしてきたが、そんな村の名前など聞いたことがなかった。それにしても、一体ソールはどこからそんな情報を仕入れてきているのか、俺はそれが不思議でたまらなかった。
「知らなくても当然だよ!ルサカの村はアーデント地方にある村だからね!」
アーデント地方、今やギルドが広く一般的になったこの世界において、ギルドに属していない自治区の一つである。ギルドに属していないと言うことは、依頼が来ないというのも当然のことである。俺だって、今まで足を踏み入れたことはない、いわば未知の領域である。
「でも、なんでソールはそんな情報を知っているの?アーデント地方って……わたし、名前は聞いたことあるけど……」
「元々、私もアーデントの出身なのよ。ほら!長話もそろそろにして!早く準備準備!あなたの呪いを解くための旅なんだから!」
そう言うと、ソールはぱたぱたと慌ただしく、俺の元を立ち去っていた。
そうだな、俺も準備しないと。せっかく、こんな美少女と一緒に旅に出られるんだ。それに元はと言えば、俺のための旅でもある。
どうして、ソールがそんなに俺のために協力してくれるのかはわからなかったが、この際何でも良い。俺も早く少しでも力を取り戻さなくては……!ソールには大きな恩があるし、少しでもソールの役に立てるよう、俺も呪いを解きたいというのは紛れもない本心である。
………………………………………
「さあ!アーデント地方に向けて!しゅっぱーつ!」
準備も整って、俺達のアーデント地方に向けての旅が始まった。意気揚々と歩みを進めていくソールを、俺は呼び止める。
「ねえ、ソール…… まさかとは思うけど…… 歩いて行く気じゃないよね……」
「えっ…… でも、ワイバーンを買うお金は…… 私持ってないよ……」
ソールは、ちょっと気まずそうな表情を浮かべながら、俺に向かってそういった。
仕方無い。力も名声もないが、昔稼いで蓄えていたお金なら少しはある。まあ、結構贅沢に使ってしまっていたから…… そんなに多くは持っていないけど……
「わかった!ソール!今度は私に任せて!」
俺達ギルドは遠方に赴くことも多かった。だからこそ、俺達の移動手段にはワイバーンの存在は欠かせないものとなっていた。
ワイバーンは、獰猛なドラゴン種にしては、比較的人に懐きやすい小型のドラゴン種である。小型とは言っても、大人4~5人であれば、ものともせずに飛行も可能である。
王都にあるワイバーンショップに入ると、俺達の姿を見つけたおじさんがニコニコと笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「お!お嬢ちゃん達!ワイバーンをお探しかい? 一匹300ゴールドだよ!」
300ゴールド…… ま、まあ…… 払えないこともない…… でも、これを買ってしまったら、俺の手持ちはほとんどすっからかんになってしまう。どうする……?
「リ、リア…… そんな無理しなくてもいいんだよ!私歩いて行っても平気だから……!そんなワイバーンなんて…… 乗ったことないし……」
ギルドにいた頃は、移動代もギルド持ちだったし、あんまり気にしたことなかったけど、こうしてお金を払ってワイバーンに乗るとなるとなかなかに痛い出費ではある…… 今後のことを考えると、お金は少しでも残しておきたかったが…… せっかく一緒に行ってくれるというソールを歩かせるというのも忍びない話だ。
「わーこの子可愛い!」
すっかりワイバーンに夢中になっていたソールは、一匹のワイバーンを気に入ったようで、優しくなで回していた。今までに見たことないような笑顔を浮かべていたソールに、俺は決心する。
「おじさん!この子が良いです!この子にします!」
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