第9話 コロンブスの卵とファーストペンギン

 白人として最初にアメリカへ到達したコロンブスは、「だれでも航海すればいずれ到達できる」と言われたことにたいして、卵を用意させ、「この卵を何も使わず素手で立てることができるか?」と問題を出し、その場にいただれも立てることができなかったのを見て、卵の先端をテーブルに叩きつけて割り、卵を立てた。


 答えを見ればだれでもできることだが、それを最初にやることの大切さを説いた逸話だ。


 これと同じような話がファーストペンギンで、最初に海に飛び込むペンギンは、シャチやセイウチに食べられるリスクがある。そのリスクをしょってでも飛び込むペンギンのことだ。


 実際は、いつ飛び込んでも食べられるリスクは同じなのに、最初に飛び込むのには勇気がいる。


 公園のベンチに座っていると一羽のハトがやってくる。傷ついたフリをしながら人間に近づき、人間が危害を加えないとわかると、近くにいたハトたちが次々にやってくる。これもファーストペンギンと同じだ。


 世の中は不公平だ。


 学校を卒業して、社会のスタートラインに立った時、すでに社会に出た人たちは、もう走っている。


 どんなに優秀な成績で名門大学を卒業しても、高卒にさえ追いつけない。先に走っている者が、自分の都合のいいようにルールを変えることができるからだ。


 ところが、技術革新が起こる。だれも知らない新しい技術が生まれると、すべての人が同じスタートラインに立つことになる。これこそが、後から走る人の最大のチャンスになる。


 コンピュータが誕生した時、だれもそれがどれだけ役に立つのかわからない。戦争の弾道計算ぐらいしか使われず、生活を劇的に変化させるとは思っていなかった。


 これに飛びついたのが大学生で、ゲームを作って遊んだりしだした。そのうち、プログラムを組むのが面倒なことが分かり、簡単にプログラムを組めるように工夫し始めた。


 こうしたことをするのは、ファーストペンギンというより、スタートライナーと言える。


 スタートライナーは、自分のやっていることが、本当に役に立つのか分かっていないから、それを発展させることができない。


 そのスタートライナーが作ったスタートラインからスタートするのがファーストペンギンであり、これで巨万の富を得たのが、マイクロソフトの創業者の一人、ビル・ゲイツだ。


 ビル・ゲイツは、ベーシック言語を初め、DOS・OSを作り、Windowsを作って、パソコンをだれもが使えるものにした。


 スタートライナーからは、自分たちのアイデアを盗んだと妬まれているが、結果的に成功したのであって、失敗するリスクのほうがはるかに大きかった。


 日本人は他人が成功した後を追う、二番煎じでおこぼれを頂戴している企業が多い。そんな企業に学生たちは就職したいと思っている。


 それでは、社会で通用するわけがない。だから貧困になるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る