第131話超老舗蕎麦店にて満足   翔子からの電話

翼は、中央線を御茶ノ水駅で降り、聖橋口から坂を下る。

目指すは、創業明治13年の超老舗の蕎麦店。

約5分で着いた。


「食事しているのは、サラリーマンとか、一見して大学の先生とか、学者さんかな」

「学生街にも近いし、神保町にも近い」

「でも、やはり下町、変な気取りがない」

「そこに行くと、京都の老舗は、客を値踏みするような、嫌らしさがある」

「あくまでも京都が一番偉いのであって、それ以外は地下と考えている」

「でも、ここは江戸の下町、そんなくだらないことは、考えないようにしよう」


席に着いて、翼が頼んだのは、定番の「せいろそば」と、「かまぼこ」という、あっさりとしたもの。


「やはり、ここでは、せいろそば」

「かまぼこは、つけたし」


独特の注文を告げる長い節回しの掛け声も、面白い。

「小さな頃に、じいさんと来たな」

「あれも、この店のウリだと」

「懐かしいな、じいさんも、うれしそうに美味しそうに、せいろそばと、かまぼこを食べていた」


その、せいろそばと、かまぼこが、すぐに運ばれて来た。

「そば粉の香りがしっかりと強くて」

「そば粉が10で小麦粉が1の割合か」

「だから、二八蕎麦より、香りが立つ」

「つゆも、いい感じ、少し強めで辛い、コクもある」

「キリッとしていいな、江戸らしい」


かまぼこも食べる。

「小田原かな、しっかりとした。かまぼこ」

「実に、これも美味しい」


店の中を見回す。

「多少混んでいるけれど、明るくて、清々した感じもある」

「何より、活気がある、それも上品な活気」


翼は、あっさりと食べ終え、店を出た。

「江戸の下町のそば」

「モタモタして食べたら、恥ずかしい」

「それにしても、実に美味しかった」

「江戸蕎麦のお手本の店かな」


翼は、この老舗そば店が、暖簾分けした店にも、実は入ったことがある。

「浅草は、つゆが、もう少し辛くて」

「上野は、それほどでもない、上品な感じ」

「客層も違うのかな」

「上野と浅草では、歩いても行ける距離」

「いや、この神田からも近い」

「現代人は電車を使うけれど、江戸時代の人は、その程度の距離なら歩いた、それが普通だった」


そんなことを思いながら、翼は再び坂をゆっくりと下り、いつの間にか靖国通りに。

そこで考えた。

「隅田川を見るかな、佃島で佃煮を買おうかな」

「でも、神保町で本を探すのも、面白い」

「珈琲も、飲みたくなった」


翼が、そんなことを思い歩いていると、スマホに翔子から着信。

「翼君!どこにいるの?」と、きつい言い方。


翼は、面倒。

「どこにいようが、勝手だと思うけれど?」

翔子は、また怒る。

「胃を痛くして倒れそうになって、その次の日に、どうしてフラフラ出かけるの?」


翼は、その怒り声のほうが、胃に響く。

「翔子さん、用件は?」と冷たい感じで返す。

「デートなら、お断り」も、強めに、付け加える。


しかし、そんなことで引き下がる翔子ではない。

「夜には帰って来るよね、いや、帰って来て、用事がある」

翼は、深いため息をついている。

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