第126話松田菜々美(1)

翼が見る限り、松田菜々美は年齢が25歳前後。

目がクリクリっとした童顔で美人、ショートカット、身長は翼と同じくらい。

淡い色彩の花柄のワンピースを着ている。


翼が「山本翼です」と、自己紹介をすると、松田菜々美はにっこり。

「とにかく、私の車に乗ってください」


翼が駐車場を見ると、見慣れないBMWが停まっている。

翼がBMWの助手席に乗り込むと、松田菜々美はようやく、行先を告げる。

「私のマンションに行きます」


翼は、「はぁ・・・」と頷くだけ。

何を、どう答えていいのか、全くわからない。


高井戸と久我山の距離なので、BMWは約10分で松田菜々美のマンションに到着した。


松田菜々美は、笑顔のまま。

「7階になります」

「部屋に入ってから、しっかりとしたお話を」


翼は、ここでも「あ・・・はい・・・」と、引き気味。

年上美人の、松田菜々美に、自分自身押されていることを自覚する。


エレベーターは7階に到着、少し歩いて松田菜々美は702号室の扉を開ける。

「702号室です、これからも来てもらうと思うので」の言葉も添えられたので、翼はまたしても意味不明で、腰が引ける。


中に入って松田菜々美。

「キッチンスペースを大きめに特注してあります」

「もちろん生活しているので、それなりに」


翼は、全体を見回して、豪華、と思う。

キッチンにしても、冷蔵庫にしても、相当立派。


松田菜々美。

「そこのソファに」

「お茶をいれます」


翼が、松田菜々美の言葉通りに、ソファに座った。

ワイン色の立派な革製の、どっしりとしたソファ。

座った瞬間、身体が包み込まれるような、安心感がある。


少しして、オレンジの香りがする紅茶がテーブルの前に置かれた。

松田菜々美はやさしい笑顔。

「オランジュリーになります」


翼は、一口飲んで、「美味しいです」と、返すのみ。

今は、紅茶の味よりも、年上美人の部屋に二人きりでいることが、ドキドキして不安。

「何とか、合わせなければ」と思うけれど、なかなか落ち着かない。


松田菜々美の顔も、少し赤い。

それでも、話を始めた。

「そもそも、私の父も、翼君のご実家の店で働いていて、翼君のおじい様の斡旋で、都内のホテルの料理長に」

「私も、父のホテルで今は仕事していてね」

「もうすぐ、新作のケーキを作ろうかなと」

「それでね、翼君、前々から、翼君のお父様にお願いしてあったの」

「できれば、翼君に協力してもらえないかと」

「たまたま、近くに住んでいたから、急に話をしたとしても、翼君と予定が合えば何とかなるかな、と思って」


翼は、ここまで聞いて、ようやく納得した。

「年上美人の部屋に二人きり」のドキドキ、不安は、あっさりと消え去った。

いつもの冷静な、翼が戻って来た。

「そういうことも、ご縁かと思います、わかりました」

「私は、試食をすればいいのでしょうか?」

「自分なりの意見しか言えませんが」


ところが、松田菜々美の顔が、さっきより赤い。

翼の顔をじっと見ている。

「ねえ、翼君、朝から気になっているんだけど」

翼は「え?」と意味不明で首を傾げる。


すると、松田菜々美は、いきなり翼の隣に座った。

またしても腰を引き気味になる翼ではあるけれど、松田菜々美はそれを許さない。

両手で、翼の両頬を包んでしまった。

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