第106話翼は佐々木香織と次のデートの約束 アパートに戻ると

佐々木香織は、自分の父が田中支配人と知り合いどころか、懇意であることを知り、感激の様子。

「うれしいです、ホッとしました」

「すごく場違いな部屋にいるなあと、緊張していました」


田中支配人は、笑顔。

「お父様は何度もこの部屋にお越しになられて、いろんな相談を」

「聖歌隊の相談もしましたよ、いろいろ親切でありがたくて」


佐々木香織は、顔を赤らめて翼の顔を見る。

「実は、翼君は名歌手で、すごく声がきれいで」


田中支配人は、本当にうれしそうな顔。

「お兄様からもお聞きしています」

「私も、前からお聞きしたいなあと」


しかし、翼は思いっきり首を横に振る。

「いや、素人です」

「プロではないので、それは遠慮します」


佐々木香織は、クスクス笑う。

「よほど、やむを得ない状態にならないと、歌いません」

「これで、案外恥ずかしがり屋さんで」


翼は「案外とは何?」と思うけれど、反論しない。


そんな、なごやかな話を終え、支配人室を出た。


「お互いに、明日は記念すべき入学式」

「楽しい状態のまま、家に帰ろう」


佐々木香織は、素直に納得。

それでも、品川駅改札口で条件をつける。

「今度、横浜に来てくれる?」

「翼君と行きたい店があるの」


翼は、「わかった」と返事、握手をして、別の電車に乗り込んだ。

そして、いろいろ思う。

「楽しかった、気がねがなくて」

「京都では神経を使いっぱなしだった」

「でも、それをこなさないと、接客業はつとまらないし」


山手線から井の頭に乗り換えた時点で、佐々木香織からメッセージ。

「ありがとう!本当に楽しかった!」

「翼君、大好き!」

「ずっと仲よくしようね!」

その後は、キスとハートのスタンプが大量に並ぶ。


翼は、困った。

「こんなスタンプ持っていない」

「どう返せばいい?」

それでも、やっと見つけた「相合傘のスタンプ」を返す。


そうこうしているうちに、高井戸駅に到着。

そのまま。駅近くのスーパーに入った。

「いつまでも外食ではよくない」そんな気持ちだった。


しかし、何を食べたいのか、自分でもよくわからない。

「義姉さんはお米を送ってくれるっていっていたなあ」

「お米があれば、リゾットにするのに」


面倒になった翼は、パスタにすることに決めた。

「ペペロンチーノにする」

「キャベツ、ガーリック、パスタだけあればいい」

「オリーブオイルも塩も醤油も胡椒もアパートにある」

「とにかくシンプルな味付けにする、それが美味しい」


翼がアパートに戻って20分後、義姉から近江米が届いた。

義姉にお礼の電話をしようとした時だった。

アパートの玄関からチャイム音が聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る