第82話京都にて(2)

昼食は、翼と京都店の叔父叔母夫妻、従妹の美代子と学友梨乃と沙耶の二人。

いつもの京都風懐石弁当だった。


翼は食が進む。

「懐かしい、ホッとする味」

叔母由紀美

「翼ちゃんは、東京で何を食べとる?」

「興味あるよ」

叔父晃弘が少し笑う。

「せっかく学生で自由や、何食べても構わんさ」

従妹美代子は、翼をじっと見る。

「厳しい味覚の翼兄ちゃんや、店を選ぶのも大変や」


美代子の学友、梨乃と沙耶も見ているので、翼は苦笑、覚えているままを言う。

「学生らしいものを食べて・・・」

「吉祥寺でオムライスとか」

「江ノ島で地魚料理、あれは美味しかった」

「横浜中華街で海鮮中華」

「鎌倉円覚寺前の武さんがいる店で、精進料理」

「あとは高井戸に源さんの弟子がいて、そこでは洋食」

「昨日は駒場でイタリアン、トリッパかな」


叔父晃弘が、うらやましそうな顔。

「どれもうまそうやな」

叔母由紀美

「行きたいわあ・・・ほんま」

「どれも、しっかりとした職人が作っていたかな」


美代子

「一番美味しかったのは?」


翼はここでも素直。

「江ノ島の魚かな、とにかく新鮮で、すごいなあと」

「あの新鮮さは、海が近くないと、難しい」

「近所のおじさんばかりでね、面白かった」

そして「叔父さんと叔母さんも、鎌倉に来たら一緒に行こう」と笑う。


美代子と梨乃、沙耶は、「え?」と翼を見る。

美代子

「うちも誘って」

梨乃

「是非、京都育ちで、魚料理も勉強したい」

沙耶

「なら、うちも、連れて・・・」


しかし、翼は、叔父と叔母に目配せ、首を横に振る。

「みんな受験生だよね」

「遊ぶ前に、一点でも試験の成績が良くなるように」


叔父晃弘は、翼の「諭し」がうれしい。

「助かる、翼君、我がままで困っとった」

叔母由紀美は、口を押えて笑う。

「翼ちゃん、さすがや、お嬢様方、反論できん」


反論できない女子高生三人に翼。

「江ノ島で入った店は、地元の人が入る店で」

「若い女の子は、どうかなあ」

「湘南風お洒落な店でないよ」

「量も多いし、ガツガツ食べないと叱られるよ」

「ダイエットには無縁の店」


さて、そんな話の中、昼食が終わった。

叔父晃弘

「少ししたら大原に」

叔母由紀美

「うちが連絡します」


ただ、女子高生三人は、大原行きは引き下がらなかった。

美代子が、梨乃と沙耶に目配せ、そして一言。

「意地悪な翼兄ちゃんを、ギャフンと言わせよう」

梨乃と沙耶は、即座に頷いている。

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