第83話大原行きのワンボックスカー車内

京都店のワンボックスカーの最後列に、翼は座った。

本当は窓側希望だったけれど、美代子の学友、梨乃と沙耶に捕獲されてしまった。


「あの、真ん中は気を遣うけど?」

梨乃

「袖すり合うも何とやらで」

沙耶

「今後もお付き合いをと」


前の方の座席では、美代子が頭を抱えた。

「この時とばかりに、それが目的?」


叔父晃弘は、ぷっと吹く。

「翼君なら、仕方ない」

「モテモテやな」

叔母由紀美は、何度も後ろを振り返る。

「まあ、仕方ない、いい感じやもの」


ワンボックスカーは順調に走り、八瀬付近に。

「新緑の瑠璃光院にも来たいなあと」

梨乃

「はい!ご案内します!」

沙耶

「今度はうちの店が車を出します」

翼は困った。

「受験勉強は?」


しかし、なかなか女子高生は元気。

梨乃

「約束してくれたら、メチャ勉強します」

沙耶

「やはり、励みとか、楽しみがないと」


翼が「それはそうかなあ」と、お茶を濁していると、山深い大原地域に。


叔父晃弘

「寂光院にも行こうか?」

翼は、すぐに反応。

「そうですね、三千院の前に」

「あの、細い道が、いい空気で」

「ゆかりの建礼門院様にも手を合わせようかな」


翼を梨乃と沙耶に取られてむくれていた美代子がポツリ。

「翼兄ちゃん、そういう知性をひけらかす」

梨乃

「かっこいいやん、さすがや」

沙耶

「さすが文学部やなあ」


翼は、厳しめ。

「基本知識では?」

「京都の接客業なので、それも料理の味になる」


叔母由紀美が、後ろを向いて、翼に頭を下げる。

「ほんま、教育係をお願いしたい」

「京の子供が京を知らん場合が多くて」

「親同士、業界の集まりでと、いつも嘆いとります」


翼は、少し表情をやわらげる。

「いや、よそから来た人は、住んでいないから、興味を持つ場合もあるかな」

「地域の人は、歴史ばかりでなくて、生活がある」

「いつでも行けると思うと、なかなか」

「富士山のふもとに住んでいても、富士登山をする人は少ないとかね」


梨乃

「厳しいのも、いい感じや」

沙耶

「キリッとして、でも、やさしさもある」


美代子は、二人の、ますますの密着に、気を揉んでいる。

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