第70話翼と心春の駒場デート(6)
トリッパの煮込みは、しっかりとしたコクを保ちながら、レモン風味の卵とじなので、軽みもあって、実に食べやすく食欲をそそる。
翼
「これは、すごいなあ・・・滋養強壮かな」
心春
「本当です、身体にすんなり溶け込む、美味しい」
「全く見知らぬ調理法ですけれど・・・世界は広いと思います」
翼
「家庭料理風かな、気取りが無い」
心春
「イタリアの家庭料理でしょうね、なんかいい感じ」
翼
「いつか、世界の家庭料理ツアーでもしたいなあ」
心春
「はい!参加します」
そんな和気あいあいの中、「ウンブリア風のパスタを赤ワインで煮込んだ活ウナギのソースがけ」、「玉ネギで豚肉を煮込んだカンパーニャ風の茶色いジェノヴェーゼ」は、分け合って食べる。
翼
「これも、日本人の知らない美味」
「でも、初めて食べる日本人でも食べやすい」
心春
「実家の板さんとか、このお店に、連れて来たいと思います」
「とにかく、昔ながらで、何も変えようとしない」
翼は、心春をなだめる。
「変えないことも大事」
「変わっていないことを期待して来るお客様もいるから」
「あるいは、料理人の金沢料理を崩したくないとの、懸命な想いとか、プライドもある」
「それはそれで、価値が高いと思う」
「守ってもらいたいな、将来のために」
心春は、落ち着いた。
「確かにそうですね、言い過ぎたかな」
翼は、続けた。
「ただ、違う味、違う国の味を知って、日本を再発見することがある」
「外国に出て、日本の良さとか、違いを知る」
「ひいき目でなくて、実感として」
心春は、顔をあげて翼を見る。
「ずっと、お話を聞いていたなと」
「憧れの翼さんですから」
パスタを食べ終わり、ラム酒漬けのケーキに。
心春は目が輝く。
「これも・・・美味しい・・・」
翼も、味わって食べる。
「クリームも美味しい、新鮮で」
「ラム酒が、いい香り」
ラム酒漬けのケーキを食べ終え、エスプレッソを飲み始めると、心春が翼に聞いて来た。
「翼さん、高井戸にも洋食店ありますよね」
「母に聞いたら、源さんのお弟子さんとか」
翼は、ためらったけれど、素直に答えることにした。
「一度、食べに行った」
「その時に、源さんの話が出たかな」
「家族経営のお店で」
心春は、翼の顔をじっと見る。
「その娘さんが、同じ大学の先輩らしくて」
翼はシンプルに「うん、その通り」と答えた。
心春は微妙な顔。
「きれいな人とか?」
翼はプッと吹く。
「質問の意味と意図がわからなくて・・・」
しかし、心春は引かない。
「気になります、いろいろ」
翼は、どう言えばいいのか、なかなか考えがまとまらない。
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