第69話翼と心春の駒場デート(5)

時計を見ると、午前11時を過ぎている。


「この後、駒場公園に入って、近代文学館に行くけれど、お腹は?」

心春は、まだ顔が赤い。

「あ・・・減ったかな」と小声。

しっかり腕を組んで離さない。


「何か食べたいものは?」

心春

「よくわからなくて、お任せです」

翼には、心春の変化が意味不明。

しかし、食事場所を探さなければならない。

それでも運よくイタリア料理の店を発見、迷わず、その店に入る。


「入ってしまってからで何だけれど、イタリアンは大丈夫?」

心春

「はい、好きです、金沢にもありましたから」

「女子高生の時は、よく入りました」

翼はメニューを見る。

「トリッパをトリッパのブイヨンで柔らかく煮上げたレモン風味の卵とじ・・・面白そう」

心春も翼の目線を負う。

「牛の胃袋・・・です?」

翼は心春の反応を気にする。

「食べられない?やめようか?」

心春は、思いっきり首を横に振る。

「食べます!美味しそう!」

「和食では、まず使わない味付けかなと思ってね」

心春

「ほんと、翼さんといると、世界が広がります」


翼は、恥ずかしいので、メニューを探索、次の品を言う。

「ウンブリア風のパスタを赤ワインで煮込んだ活ウナギのソースで」

「玉ネギで豚肉を煮込んだカンパーニャ風の茶色いジェノヴェーゼ」


心春は、面白そうに翼の視線を追う。

「はい、それにも挑戦します」

「もう、ウキウキしていて」


翼はデザートを見る。

「デザートはラム酒漬けのケーキで、いいかな?」

「お酒は大丈夫?」

心春は、さらに笑顔。

「はぁ・・・とても田舎では食べられません」

「お酒は、少しくらいなら」


料理を頼んで、出て来るまでの間が、雑談になる。


「歩き疲れたかな?」

心春

「全然大丈夫です、ウキウキして」

顔を少し赤くする。

「テンションが高くなってしまって・・・恥ずかしい」


翼は、クスッと笑う。

「その赤い顔が可愛い、同じ年なのに」

心春は、ますます顔が赤い。

「緊張しちゃいます、そんなこと言われると」


翼は話題を変えた。

「イタリアンも、奥が深いよ」

「シチリアから始まって、あちこちの街で料理が違う」

「ナポリとローマ、フィレンツェ、ミラノも違う」

「もちろんベネツィアも違う」

「香辛料の使い方が、気候とか、イスラム料理との接触度合いで異なる」


心春は目を丸くする。

「和食・・・しか・・・知らなくて」


しかし、その話は、中断となった。

湯気を立てたトリッパの煮込みが、運ばれて来た。

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