第71話翼と心春の駒場デート(7)心春の不安と嫉妬

心春は、ますます微妙な顔。

「翼さんの部屋に、時々、若い女性が・・・」

「それも気になっていて」


翼は、少し考えた。

「もしかすると、翔子さんかな」

「実家の近くの田中医院の娘」

「幼馴染で・・・幼稚園・・・それ以前からかな」

「一つ上」


心春は、微妙な顔を少しやわらげる。

「あ・・・そうだったんです?」

「何となく、覚えているかなあ」

「私も小さな頃、風邪で行ったかも」


翼は、疑問は解いておくべきと思った。

「翔子さんも、僕たちと同じ大学で郷土料理研究会ってサークルに入っていて」

「そもそも、強引な性格で誘って来た」

「入らないと、泣くとか」

「子供の頃、僕も病気がちでお世話になって、断りづらくてね」


心春

「で・・・その郷土料理研究会、入ったんですか?」


翼は、首を横に振る。

「いや、まさか、入る気はないよ」

「みんな年上でさ、気が引ける」

「でも、長年の義理があるから、一日付き合った」

「部長さんの家で写真館をやっていて、そこに行って話をしただけ」

「もう、行く予定はないよ」


心春は、翼をじっと見る。

「もしかして、その年上って・・・全部、女の人です?」

翼は「やれやれ」と言った顔。

「うん、そうだった」

「実に面倒だった」

「気苦労の連続」


今度は心春がため息。

「翼さんは、そう思っても、お姉さんたちは期待しています」

「少し心配です」


翼は、また返事に困る。

「心春の恋人でもなく、お姉さんたちの誰とも恋人でもなく」

「ただ、言われてお願いされて、一緒に歩いたり、話をしているだけ」

それが事実であり、翼にはそれ以上でも以下でもない。


翼は、逆に聞いてみた。

「その心配する理由とは?」


今度は、心春が言葉に詰まった。

今日のデートも、その前の大学見学と称したデートも、心春が申し込んだもの。

翼は「道案内に付き合ってくれた」、それだけかもしれない、と思う。

そうなると「善意だけの人に、酷い質問をして、困らせているかもしれない」と思い、足が震えて来た。


翼は、顔をやわらげた。

「結論から言えば、心春さんは、何も心配はいらない」

「誰とつき合っている・・・恋人としてとか」

「それは、全くない」


心春の肩が震えた。

「ごめんなさい、変な聞き方をして」

「もし、きれいな人がいて・・・翼さんが・・・って思うと」

「でも、誰を好きになるのも、翼さんが決めることで」


翼は、少し難しい顔。

「心春さん、好きとか嫌いとか・・・嫌いはないかな」

「私たちの業界は・・・あまり・・・」


心春は、「はっ」と驚いたような顔になっている。

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