第58話映像作成で盛り上がるけれど

「映像」について盛り上がり、話し合いが進むけれど、翼は帰りたくて仕方がない。

これ以上、深入りすると、郷土料理研究会に入るハメになってしまうリスクが高まるし、それだけは避けたい。

「自分にももっと選ぶ権利がある、選択肢があるはず」と思うので、何とかして松山美幸の写真館を出る口実を考える。

しかし、難しかった。

「人間関係を壊すのは、接客業として愚策」と思うと、雰囲気を壊さない程度に、お姉さんたちと話を合わさなければならない。

結局、じっと耐えることになった。


松山美幸

「映像を何か作る?」

「親父も面白がるよ、そういうの」

真奈

「それはありがたい、テーマを決めよう」

美紀

「桜の時期だからなあ・・・」

翔子

「桜映像と音楽、詩?和歌?」


まず、「桜映像」が提案されたので、翼は少し考えた。

そして、口に出したのは和歌。


「いま桜 咲きぬとみえて 薄ぐもり 春にかすめる 世のけしきかな」

「式子内親王の御歌です、新古今の春の歌になります」

「それに、琴と笛かな」


美紀が、いち早く反応、現代語訳。

「いま 待ち焦がれた桜が 咲いたようです」

「花曇りした空に、花色の霞が、一面に広がりました」

「世の中全てが 春の景色に 包まれています」


「こんな感じかな」


翼がにっこりとすると、美紀はうれしそうな顔。

他のお姉さんたちは、うっとり。


「うわ・・・なんか・・・いいなあ・・・」

「花曇りした空に、花色の霞が一面に」

「まさに、春そのもの・・・いい雰囲気」

「そこに笛と、お琴?」

「雅な・・・まさに雅な・・・」

「桜の花の香りも、一面に」

「春一色って感じ」


そして、翼を見る。

「どうして、こんな発想が出るの?」

「可愛くていい雰囲気だけでなくて、センスも超セレブ」

「少し引っ込み思案かな、と思ったけれど、引き出しが多いなあ」


翔子は、ほめられてポカンとなっている翼の袖を引く。

「好感度マックスだよ、さすが」


翼は、真顔に戻る。

「いえいえ、あの・・・思いつきで」

「桜の時期なので、典型的な歌かなと」


その後は、美幸の両親も協力し、桜映像に和歌と雅楽風音楽を加えた映像作り。

相当に満足ができるものが作成され、全員が笑顔。


「販売できるよ、これ」

「販売して研究会の出張費用になるかも」

「絶対に飲み会なんかには使わない」

「もう、翼君なしでは、やっていけないなあ」

「企画主任でどう?いいでしょ?」


翼は、また困惑。

「少しは、自分たちで考えれば?」と思うけれど、とても怖くて言えない。


そして、この軟禁状態からなのか、恒例の胃痛が始まっている。


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