第55話郷土料理研究会のお姉さんたちと、(2)

翼は、お姉さんたちの話に口を挟む勇気がない。

そんなことをしたら、ますます面倒が発生して帰れなくなるリスクがある。


そんな状態で黙って座っていると、この写真館の主人らしき人と、部長の美幸によく似た妙齢の女性が顔を見せ、自己紹介。

「美幸の父で、松山賢一です、これは妻で美幸の母の恭子」


翼は自分だけが初対面と思うので、立ちあがって頭を下げる。

「申し訳ありません、ご挨拶もせず、山本翼と申します」


松山賢一は、ゆったりとした感じ。

笑顔もやさしい。

「ああ、いやいや、このお姉さんたちに無理やりでしょう」

「そんな固くならなくても大丈夫」


美幸の母、恭子は翼の手を握る。

「噂の翼君ね、ようこそ」

「いい感じね、さすがに品がある」

「目にも表情にも力があります」


翼は「はぁ・・・」と、よくわからない。


松山賢一は、じっと翼の顔を見る。

「映画俳優になれそうだよ、そういうオーラを感じる」

松山恭子も同調。

「そうね、あちこち郷土料理研究して旅するなら、そういう映像を撮って見たら?」


その両親の意見に、娘で部長の美幸が反応。

「ああ、それは・・・面白いかなあ」

「絶景をバックに、翼君と彼女とか?」


翼は困惑するけれど、お姉さんたちは大騒ぎ。

「うん、乗った!」

「いろんなシーンが考えられるなあ」

「ラブロマンス風?」

「船の上で、海を眺めながら・・・」


あまりにも大騒ぎなので、翼は翔子の袖を引く。

「一日だけだよね」

翔子は苦しそうな顔。

「難しくなって来た・・・ごめん」

「多勢に無勢」


お姉さんたちは、大騒ぎしているので、話におさまりがつかない。

翼は、ようやく意見を出す。

「あちこち、旅行して映像もいいけれど」

「時間もお金もかかる、記念にはなるけれど」


お姉さんたちは、まじめに翼の話を聞いている。


翼は、本音を言うことにした。

「今日は、翔子さんに誘われて、この写真館、部長さんの家にお邪魔しました」

「もともと、予定があったわけでなもなく、ほぼ成り行きで」

「その意味では、ここの写真館に事前連絡もなく、失礼かなと思っています」

「いかに自由な大学生と言っても、礼を失したと」


松山美幸が困ったような顔。

「無理やり誘ったのは私、謝らないでいいよ」


翼は、首を横に振り、続けた。

「郷土料理研究会は、翔子さんとの話で、一日体験、見学みたいなもの」

「入るとか入らないも決めていません」

「そもそも入学前で、他のサークルも見ていない」

「もう少し考えたいのが、本音です」

「頑固で無粋かもしれないけれど」


この翼の言葉には、お姉さんたちは、肩を落とす。

相当のガッカリ感が、見て取れる。


翼は、仕方なく言葉を足し、質問。

「正式なメンバーでなくて、時間がある時に、参加するのでは困りますか?」


その質問を受けたお姉さんたち全員の顔に、笑顔が戻っている。

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