第54話郷土料理研究会のお姉さんたちと、(1)

翼は結局、無難なタキシードになった。

翼と並んで記念撮影をするお姉さんたちは、アキバ系メイド服、セーラー服、チャイナドレス、ゴスロリ風、ヨーロッパお姫様風ドレス。

お姉さんたちは大騒ぎになっているけれど、翼は疲れているので、反応は芳しいものではない。


「ほら、翼君!もっと笑って」

「熱い抱擁はないの?」

「でも、顔はカメラに向けて!」

「翼君、呆れない!役得でしょ?」


そんな大騒ぎが、一時間ほど続いて「記念撮影」は、ようやく終わった。


翼は、ヘトヘト。

「今日はこれが目的?」

「あの、帰ってもいいですか?」


しかし、やはり、お姉さんの集団は、そんなに甘くない。

「これからが本番」

「いろいろお話したい」

「美味しいものも食べたい」

「もっと目の保養をしたい、帰っちゃだめ」

「追いかけて泣く」


「はぁ・・・」と翼がソファに座ると、お姉さんたちは、ドッと笑う。


それでも、お茶とクッキーが運ばれると、部長の松山美幸が司会。

「つい、翼君が可愛くて遊んじゃったけれどさ」

「翔子の話によると、翼君は一日、体験入部してくれるってことだよね」


翼がコクリと頷くと、松山美幸が続けた。

「どこに行きたい?みんな」


お姉さんたちは、いろいろ、考えて来たらしく、意見を出す。

「山梨の、ほうとうは?」

「千葉の醤油工場を見学して、その近辺の美味しい店を探す」

「もっと近くて、深川飯は?」

「三崎のマグロも捨てがたい」


そんな話が続いて、なかなか話がまとまらない。


部長の美幸が、翼に話を振る。

「翼君だったら、どう考える?」


翼は、少し考えて、自分の意見を言う。

「先輩方のお話でも、充分と思います」

「そのどれか、どこかでも・・・ただ・・・」


翼の次の言葉に注目が集まる。


「ただ、関東だけになります」

お姉さんたちが全員頷き、翼は続けた。

「例えば東銀座の歌舞伎座前に岩手県物産館」

「そこ以外にも、銀座界隈には、あちこちの県の物産館があります」

「そう言う場所の取材をして、情報を仕入れる」

「日本中になるかも、探していけば」

「それぞれの地元の人も来ているはずなので、貴重な話も聞くことができるかもしれません」


部長の美幸の顔が輝いた。

「灯台下暗しだった・・・これは面白い」

「すごく研究テーマが広がるよ」


お姉さんたちも、笑顔。

「そうか・・・その手があった」

「手っ取り早いよね、発展性もある」

「さっそくネットで調べて・・・」

「まずは東銀座?岩手かな」

「平たいおせんべいは知っている」

「うん、素朴な味で好き」


お姉さんたちの話が尽きないので、翼は、ますます帰れそうにない。

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