第31話翼と心春は神保町散歩②

店員に案内された席に座り、心春は店内を見る。

「普通の中華料理店ですよね、超高級って雰囲気はなく」

「店員も親切ですね、落ち着いていて」

翼は、「うん」と頷く。

「超高級な内装を食べるわけではなく、料理を食べて美味しいかどうか」

「毎日食べても食べ飽きないのが、本当に美味しい料理」

心春も、それには納得。

「見せかけ自慢、材料自慢、腕自慢でお客を小馬鹿にする店とかは嫌いです」

「そんなものに胡坐をかく料理人も嫌いです」


心春が頼んだのは、池波正太郎が好んだ「上海式肉焼きそば」。

翼が頼んだのは、「醤油味のうま煮そば」。

心春の視線も感じたので、翼は、取り皿で小分けする。


心春は、まず上海式焼きそばを食べて、目の色が変わった。

「油濃くなくて・・・するする入って、シンプルで旨味もあって、後を引きますねえ・・・」

「この味は知りませんでした」

翼も、焼きそばを食べる。

「この店独特かなあ、でも中華だからといって、何でも油濃いわけではなくてね」

「いい味が出ている、好きな味」


心春は、醤油味のうま煮そばにも、満足。

「正統的な・・・本物の伝統的な中華、これも飽きが来ません」

翼は、ほっとした様子。

「心春さん、金沢の料理業界の人って聞いたから、食べていただいて安心しました」

心春は、首を横に振る。

「いやいや・・・ありがとうございます、いいお店を紹介してくれて」


翼は話題を変えた。

「ところで、ここのお店が、日本の冷やし中華の元祖で」

「当時の料理人が、神田の蕎麦屋に通っていて、考え出したとか」


心春が興味深そうな顔になるので、翼は続けた。


「特に日本の夏は暑い」

「だから、熱い食事はしたくないから、ざる蕎麦を食べる」

「しかし、中華は火を使うから熱い、普通の日本人は食べに来ない」

「どうしたら食べるのか、食べに来るのかを考えて、ざる蕎麦みたいな冷たい蕎麦にヒントを得て、考案したとか」


話し終えて、翼は恥ずかしそうな顔。

「ごめんなさい、えらそうに、長々と」

心春は、ニコニコとうれしそうな顔。

「いや、わかりやすくて・・・もっと聞きたいなと」

「それと、夏に来ましょう、元祖冷やし中華を食べに」


満足できるお昼を食べ、二人は再び神保町すずらん通りに出た。


「本屋さんは多いよ、新刊中心、古書中心、それも専門店もある」

「出版社も多いかな、大小それぞれ」

「美術の画材屋さんもある」

心春

「東京堂さんとか、三省堂書店のここが本店?」

「どうしましょう、別世界で楽しくて・・・」

「文房具店も多い、学生街で本屋街だから当たり前だけど」

「料理店に戻るけれど」

「餃子専門店とかロシア料理、東南アジア料理店も」

「天ぷらの老舗もそこにあって」

「それから、昔ながらの関東風醤油味ラーメン」

「蕎麦の超老舗もあるよ」


心春は、翼の腕を、また強引に組む。

「はぁ・・・肥るかなあ・・・」

「全部食べたくなりました」

翼は、これには苦笑。

「心春さん、食いしん坊さんなんですか?」


心春は、真っ赤。

「あの・・・コロコロした女は嫌いです?」

翼は、答えに困った。

「いや、体型で判断はしません」

「気持ちが合うか合わないか、心が通じるか通じないかで」

そして話題を変えた。

「靖国通りを渡って、珈琲の名店があります、そこに」


心春の顔は、ますます輝いている。

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