第30話翼と心春は神保町散歩①

翼と心春は和泉校舎の見学を終え。明大前から京王線に乗る。


心春は不安そうな顔。

「あの・・・新宿で乗り換えるんですか?」

「新宿って、よくわからなくて」


翼は「やれやれ」と思いながら、説明。

「この京王線に乗ったまま、都営新宿線に入って、神保町に停まります」

「乗り換えはいりません」

「それから、入学式の日は、神保町の手前の九段下で降りて、武道館に」


心春は、ホッとした顔。

「何しろ、金沢の田舎者で・・・よくわからなくて」

翼はやさしい。

「慣れます、そういうものと思っていれば」


心春は翼に身体を寄せる。

「慣れるまで面倒見てくれます?」

今度は翼は、素っ気ない。

「ある程度失敗しないと、わからないかも」

心春は、翼の袖をつかむ。

「意地悪なんですか?実は」

「でも認めませんから」


そんな問答をしていると、神保町駅に到着。

そのまま、階段をのぼる。


翼は、ここでも説明。

「目の前に岩波ホール」

「珍しい映画。いわゆるハリウッド的ではない芸術的な映画を上映しています」

「それから、この細い通りがすずらん通り」

「車がたくさん走っている広い通りが靖国通り、その名前の通りで靖国神社に通じています」

「それと、すずらん通りにもあるけれど、主に靖国通りに面して、古書店街がつながっています」


心春の顔が、また輝いている。

「ほんと・・・まさに東京って感じ」

「ダイナミズムを感じます、ワクワクします」

「金沢とかと、大違いで・・・はぁ・・・すごい解放感」

「靖国神社、いつかは参拝したいなあ」


翼は、心春のハイテンションに、苦笑。

「まさに東京って言われても、下町でね」

「ここは学生と学者とサラリーマンの街」

「実際、住んでいる人は少ないかもしれないな」


心春は翼の顔を見て、不思議そうな顔。

「そうなんです?便利そうなのに」

「昼間の人口は多いけれど、夜は極端に減ります」

「スーパーも少ないし」


心春は、頷いて、すずらん通りを見る。

「すごく行列しているお店がありますね」

翼は、また説明。

「あれは、有名な洋食屋さん」

「カツカレーとかエビフライとか、大盛りで」

「学生街らしい値段です」


心春は興味深そうな顔になったけれど、首を横に振る。

「20人・・・もっと並んでいますね」

翼は、心春の顔を見た。

「おなかが減ったとか?」

心春は、顔を赤くした。

「はい・・・恥ずかしいけれど」


翼は、そのまま歩き出す。

「池波正太郎さんって知っています?」

心春は、キョトンとなった。

「はい、時代劇で、鬼平犯科帳とか剣客商売とか・・・それと食通で」

翼は少し歩いて中華料理店の前で足を止めた。

「ここのお店の中華焼きそばが、池波正太郎先生のお気に入りで」


心春の動きが早い。

グイッと翼の腕を組み、そのまま中華料理店に入ってしまう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る