ちゃんばら 1


 夕暮れの丘、無数に突き立つ刀剣。

 喋る魔剣がルール説明をする間にも急速に夕焼けは沈み夜の帳を下ろし始める。

 聞いていた話と違う。音々の時は至極平穏な学力比べだったはず。それが今回はまったく毛色の異なる勝負。

 殺し合い。

 各競技の振れ幅が大きすぎると迅兎は思った。


「…」

「……」


 共に無言。もとより親交を深め合うような間柄ではない上に、どうやら双方共に会話というものに対して消極的であるらしい。


「……名乗った方が良いですか?」


 可憐で儚げな容姿。新雪を思わせる純潔の雰囲気に混じる異質の気配。おそらくまともな人間ではない。


「…どちらでも」


 迅兎の言葉にも力なく首を傾げるのみ。心底からどうでもいいという心情が伝わってくる。


「では。風魔迅兎と申します。この一戦、どちらかの命が絶えるまで続く死戦とのこと。殺す覚悟、死ぬ覚悟はおありか」

「…?」


 名乗り口上を受けて、少女の首はさらに深い角度に傾ぐ。何を言っているのか、本当に理解出来ていないように。

 やがて引き結ばれていた口元がゆっくりと解かれ、


「私は…白魔真冬。死ぬ覚悟…?なんて、いらない」

「……」

「私が来たからには…お前の命は、ない、から」


 静かに話し終えた頃、橙色の光は世界から最後の一線を引いて潰えた。

 代わりに現れる薄明。巨大な満月が夜の丘を淡く照らし出す。

 もとより間を繋ぐだけの会話。これ以上言葉を重ねるつもりは無い。

 瞬間、夜闇に消える二つの影。

 片や忍者、風の魔。

 片や兵器、白の魔。

 共に異なる世界の異なる立場なれど。その身に積みし遍歴と性能に幾許の差があろうか。


 開戦の刻限を迎え、命の奪い合いが始まる。

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