White Poinsettia(ホワイト ポインセチア)
玉瀬 羽依
第1話
世界中のあらゆる国で、たくさんの明るい笑顔に包まれていた。各々の家の周辺では、キラキラとカラフルに点滅するライトで木々や壁、フェンスなどが彩られている。道行く先々の家の玄関には、大きなリースが飾られていた。
永遠の愛や命を示す、緑。キリストの愛や寛大さを示す、赤。純粋な心や純潔を示す、白。富や希望を示す、金銀。これらの色で出来ているリース――――そう、クリスマスリース。
今日は、一年に一度しか来ない十二月二十五日、『クリスマス』だ。みんなの心が浮き立つ日。
ここ、シクラーム伯爵邸でも、例に漏れず――——とはいかなかった。
何やら、朝から屋敷内が慌ただしい。
「……一体どうして、こんなことに」
少し癖のある赤茶色の髪で、薄ピンク色のドレスを身に纏った小柄な一人の女性が、部屋の入り口で立ち尽くしている。彼女の目の前には、小さな男の子が二人いた。一人は、綺麗な銀髪に美しい顔立ちの五歳ぐらいの子。もう一人は、黒髪で少し大人びた顔立ちの子だ。
「おはよう、僕の愛しのプリンセス」
「おはようございます、セチアさん」
見かけに似合わず、大人びた物言いをする二人を前にして、セチアと呼ばれた女性は戸惑いの表情を浮かべている。
「お、おはよう。アルトラ、ローザ」
「今日も可愛いね、セチア」
「そ、そんなことを言ってる場合?アルトラ、一体何があったの?」
セチアが彼らの元へ歩み寄ると、アルトラと呼ばれた銀髪の子が肩を竦めた。
アルトラは、セチアの婚約者である。つい最近、二人は婚約したばかりで、婚約して初めてのクリスマスを一緒に過ごす……はずだった。
だが、まさかこんなことになろうとは、誰も思わなかっただろう。最愛の人が五歳児になってしまうとは―———。
「僕たちも何がどうしてこうなったのか、さっぱりで。ね、ローザ」
「はい。丁度、ライヒ達に尋ねてみようかと思っていたところでした」
ローザと呼ばれた黒髪の子が頭上を指差す。釣られるようにセチアは顔を上げると、そこには背中に羽が生えた小さな女の子と男の子が宙を舞っていた。
〈〈おはよー、セチア〉〉
二人は楽しそうに、くるくるとセチアの周りを飛びながら、挨拶をする。
「おはよう、コニー、ライヒ。これは一体どうなってるの?」
〈コニー、知らない。ホーリーがやったー〉
〈きっと妖精の仕業!〉
女の子と男の子が交互に声を発する。ホーリーというのは、この伯爵家の庭師である青年だ。彼は背が高くて、体が大きいのに性格は気が小さく、心優しい人である。だが、この部屋に彼の姿はない。コニーと言った女の子は、アルトラに頬を擦り寄せる。
〈ホーリーがアルに飲ませたー〉
「飲ませた?」
「ああ。ホーリーが良い薬草をもらったと言ってね、紅茶に煎じて飲ませてくれたんだ」
「その薬草が入った紅茶を飲んだら、子供になったってこと?」
「そのようなのです」
ローザが額を抑えている横で、アルトラがコニーの頭をそっと撫でている。
その時、この屋敷を管理している執事のシャルが部屋に姿を現した。すると、すぐにコニーとライヒが姿を消した。
「旦那様、ホーリーを連れて来ました」
「ああ、シャル。ありがとう」
シャルは青年ホーリーを部屋に入れ、静かに出て行った。扉が閉まると、再びコニーとライヒが姿を現す。
そう実は、このシクラーム伯爵家は普通の伯爵家ではない。彼らと深く関わりのある一族なのだ。彼らは人ではなく、妖精だ。妖精の中でも善良な花の妖精で、シクラーム伯爵家はシクラメンとヒイラギの精の加護を受けている。そして、シクラメンの精がコニー、ヒイラギの精が、ライヒだ。
シクラーム伯爵家は、代々妖精の姿が視える。コニーは、この伯爵家当主アルトラを主人として懐いている。そして、ライヒは彼の弟ローザを主人として認めているのだ。さらには植物と会話ができ、昔から妖精の姿も視えるが伯爵家の血ではないセチアだけが彼らと会話ができる。普通の人にも妖精の姿が稀に視える人もいるため、彼らは伯爵家の者以外の前では姿を現さない。
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