第4話「地味子」
「とりあえず脱ぐことだよな」
「なんでですか!」
いつもの高架下で私は雪さんに相談したことをさっそく後悔し始めていた。
「なんでってそっちのほうがかわいいから」
「裸になってかわいいとか、わけわかんないですよ! ただの変態じゃないですか! ただでさえ私学校では微妙な立場なのに、いじめられちゃいますよ!」
「誰が服を脱げといったよ?」
「……違うんですか?」
「私は眼鏡を脱げといったんだ」
なにをいっているんだろう、この人は。
「……眼鏡を脱ぐってどういうことですか? 意味わからないんですけど」
「眼鏡って顔につけてる下着みたいなもんじゃね?」
「違います! 視力矯正具です! もしくはただのファッションじゃないですか! 私の目がどんなわいせつ物だっていうんですか! そんなこというのは変態の雪さんだけです!」
なんで通過する電車の音に負けない声で私はつっこんでいるんだろうか……。
相談する人を間違っている気がしてならないよ。
両手をお尻の上の草むらにつけて、大きな胸をそりながら雪さんはこたえる。
私にあの片方の重さだけでもこの胸にあればな……。
「なんだよ? 人を変態よばわりしたくせに、人の胸を見て?」
「親父な雪さんには必要ないものじゃないかと思っただけです」
雪さんは「いうねー」といって笑う。
「でもあれだぜ、イメチェンはいけると思うけどな」
「イメチェン……ですか」
私は眼鏡を触る。
確かに湊くんも昔いってくれたことだ。
でもそれって、意識してるって向こうにアピールしているみたいで恥ずかしいし、ってあれ? いいのかな? 好きなわけだから、それは。
「それとな、これもやめたらいいと思うぜ」
雪さんが私のおさげに指をいれる。
「ちょっと眼鏡ちゃんは地味子を地でいきすぎちゃってるからな」
地味子……。
人が気にしていることをこの人は。
「……はっきりいいますね」
「そういう性格だからな。けど、そうやって変わった眼鏡ちゃんを見たら、心惹かれると思うぜ、男なら」
「どうでしょう。私、元々がかわいくないから……」
「それはないね。ないない。だって眼鏡ちゃんかわいいし、素材いいから」
「そんな、私、雪さんみたいにきれいじゃないし、私なんて……」
「いったな!」
突然、雪さんは私に指をつきつけてくる。
「“私なんて”、っていったな? いいやがったな。いうなっていったのに、眼鏡ちゃんはまったく。口でいっても分からないようだから、自分の魅力を分かっていない奴には罰をあたえないといけねーな?」
雪さんは両手を大きく広げ、細い指をグーパーしている。
雪さんが何をしようとしているのかよく分からないけど、私の中の何かが、危険信号を発信している。
ここから逃げろ、と。
「雪さん?」
「どれだけ私の心をつかんでやまないかわいらしさを眼鏡ちゃんが持っているか、今から体で分からしてやるから、覚悟しな」
「えっ? なに? ちょっ? 雪さん冗談ですよね? なにをする気ですか? えっ、だめ、いや! やめてぇーーー!」
私の悲鳴は高架を通り過ぎる電車の音にかき消された。
十分後。
「ごちそうさまでした」
雪さんの満足そうな顔の横で、私は泣いていた。
「小さいけど、なかなかいいおっぱいでした」
「小さくて悪かったですね! このド変態!」
湊くん、私よごされちゃったよ。ごめんね。
「まぁ、冗談はさておき」
「冗談になっていません!」
本当にタチが悪すぎるよ、この人。
「眼鏡ちゃんは自分のことを知らなさすぎるんだよな。もっと自分のことをよく自覚したほうがいいぜ」
「……そうでしょうか」
自信がない私を見て、雪さんは頭をかき、ため息をもらす。
「なぁ、眼鏡ちゃん。なにはともあれ、後悔しないようにしないといけねーよ。やって後悔するより、やらずに後悔するほうが重いんだよ、想いって奴は」
「そう……なんですか?」
そういうものなんだろうか? 今まで行動をとってこなかったら、私はこんなにうじうじしちゃうのかな……。今は雪さんのセクハラのせいもあるけど。
「そうだぜ、イメチェンして気分も変えて告っちゃえよ」
「告白は一足とびすぎます! もうちょっと仲良くなったらとかですね」
「想いは告げなきゃ何も伝わらねーよ。それに相手意識させるには有りな手なんだぜ?」
告白……。
自分が告白するシーンを想像……できない!
「なに顔赤くしてるのかしんねーけど、湊の様子はどんな感じだよ?」
「どうって……全然意識されてないですよ。私、教室で限りなくエアー扱いですからね。それとは別に湊くんの体調は気になりますけど。この前、授業も途中で休んだり、体育も休んでましたし……」
「ふーん。そういう弱ってる時って、チャンスなんだよな。眼鏡ちゃんがまごまごしている間に、鳶に油あげかっさらわれるんじゃね?」
「そんなこと!」
「ありえるよな?」
雪さんのにやにや顔が腹立だしい。
「まぁ、がんばれよ、応援してやるから」
背中を叩かれても出るのはため息しかなかった
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