手の温もり

 いつも通りの通学路。毎日見慣れている道を二人で歩く。壱とは、登下校はなるべく毎日一緒にしている。壱と離れている時間すら惜しい。本当はもっと密着したい。学校でも昼食の食べさせ合いなどもしたい。でも、『一般的』には良しとされないため、ぐっと我慢する。


「零ちゃん、今日も、手、つなご?」


 『最愛』の妹が『いつも通り』を要求してくる。もちろん、断る理由はない。僕の右側にいる壱に右手を差し出す。壱の左手が伸びてきて、お互いの指と指を交互に絡めて手を繋ぐ。所謂いわゆる、恋人つなぎである。わずかな隙間も許さないほど、強めに握り込む。


「えへへ~」


 壱が嬉しそうに頬を緩める。思わず頭を撫でたくなってしまうが、通学路ということもあり、すぐ近くにはいないが、同じ高校の生徒が多少見受けられる。つまり、『普通の双子の兄妹』を演じる必要がある。


「壱。顔、顔」

「あ……ごめんごめん」


 壱がまともな顔になる。それでも頬は緩んだままである。そんなところも、心の底から好きだ。


 それにしても、壱の手は温かい。毎日繋いでいるが、繋ぐだけで心臓が強く脈動する。壱と手を繋ぐだけで血流が改善されている気がする。それに、とても柔らかい。にぎにぎしてストレスを発散するスクイズのようで飽きない。これがあるだけでストレスなく生きていけていると言っても過言ではない。


「零ちゃん、顔、顔」

「え? あー、うん」


 どうやら僕も壱のことは言えないような顔になってしまっていたようだ。壱の手は中毒性が高いから仕方ないと思う。


「んー、零ちゃんの手、好きー」

「……そろそろ離さなきゃいけないぞ」

「え? ……あー、うん、そっか……零ちゃん、ちょっとこっち来て」

「お、おう」


 壱に手を引っ張られて路地裏に連れ込まれる。


「我慢できなくなっちゃった……キスしよ……」

「……しょうがないな」


 本日三回目のキス。おはようのキス、行ってきますのキスを経て、このキス。腕を背中に回して、抱き合いながらキスをする。


「はあ、零ちゃん、すきぃ」

「壱、好きだ」

「んふふ、すきぃ」


 しばらくキスに夢中になった。そのせいで、学校に行くのが遅れて、遅刻寸前で生活指導の先生に怒鳴られた。なお、これは三日に一回はやってしまう。まあ、改善する気はないけど。

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双子座の苦悩 嬾隗 @genm9610

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