第28話 何度も重なると面白い
ご飯を食べ終わり談笑していると、響ちゃんがスマホを確認して「あ……」と声を漏らした。
それから表情を曇らせると、申し訳なさそうな顔をして、俺たちを見る。
「……用事があること忘れてました」
「え、用事? えっと、そんなのあった??」
奏は自分の手帳をめくり、首を傾げる。
って、妹のを管理してるのかよ……。
まぁ確かに仕方ないことなのかな?
響ちゃんの危なっかしさは随一だし、前に勝手にふらふらーっとどこか行ってしまうことがあったからね……。
その時を思い出し、俺は苦笑した。
「……なんですか。兄さんのその目は?」
「ちょっと昔を思い出してな。それで、響ちゃんの用事ってどういうの?
「……球技祭に向けた衣装の下見をしないといけないんです」
「うん? 響って球技祭は興味ないって言ってなかったぁ?」
「……興味なくても責務は果たしますよ」
「じゃあ私もついて行こうかな。響をひとりにすると不安だし……」
「……問題ありません。ひとりで出来ます」
自信たっぷりに言い切る響ちゃんだが、俺も奏も正直不安だ。
迷子になるとか、この独特な性格で人様に迷惑かけるとかがありそうで……。
俺と奏は、目を見合わせる。
どうしようかと悩む意思が伝わったのだろう。
奏は首を横に振り『説得して!』と目で訴えてきた。
俺が口を開いて説得を試みようとすると、響ちゃんが先に話を始めた。
「……非モテだけど優しくてイジられ役の塾長さん、少し付き合ってください」
「それって……もしかして僕のことだよね?」
美人姉妹のやりとりを見るだけでニヤついていた敦に、突然白羽の矢が刺さり、頰を引きつらせる。
大きなため息をついた。
「僕に衣装を見るセンスはないからね。戦力外だと思うよ?」
「……大丈夫です。心配性の姉さんを安心させるための保護者役ですから。それに衣装選び以外に出番があります」
「『金を出せ』って言われても一万までしか出さないからね!」
いやいや、結構出す気でいるじゃないか……。
って、すでに財布から金を出してるし。
「……お金はいりません。ただ、お一人様ひとつ限定の商品を買いに付き合ってもらいます。勿論、荷物持ちも……」
「やっぱりそういう系かよ!? どうして僕ばかり、縁がなくて不遇なんだよぉ〜っ!!!」
「……そういえば、私の親友に年上好きが……あ、なんでもありません」
頭を抱えて、ため息しか出ないぐらい落胆していた敦が、響ちゃんの言葉を聞いて、急に姿勢を整えた。
それから、女子高生に対して90度に腰を折り頭を下げる。
「その話、詳しくお願いしますっ!!」
「……では、任務を全うしてください。何もしない者に褒美なんてないですよ?」
「イエス、マム!!」
「お、おい敦?」
「……では、兄さん。星降る夜にまた会いましょう」
厨二病的な台詞を言って、妹は去ってしまった。
流れるような2人のやりとり……。
最後の方は、ほとんど口を挟めず勝手に決まったな。
なんだろう。
同期の見てはいけない態度を見て、なんとも言えない気分だよ。
「「はぁぁ……」」
俺と奏は同じタイミングでため息をつく。
それがおかしくてお互いが「ぷっ」と笑ってしまった。
「行っちゃったなぁ」
「あはは……そだね。塾長さんも、なんか犬みたいに走っていっちゃったねぇ」
「情けないよなぁ。欲望に塗れて、俺にはいつかアイツが犯罪を犯しそうで心配だよ」
「だね〜」
「「…………」」
お互い無言になり、飲み物を口に流す。
いきなり取り残され、2人っきりにされたからだろう。
降って湧いたような状況に、気まずさと言いようのない気恥ずかしさがあった。
何か言うべきか?
この後どうするべきか?
俺はつくづくイレギュラーなことに弱い。
でもここは年長者として、何かを——よし。
「か、奏?」「有賀っちー?」
「「…………ぷっ」」
言うタイミングが重なり、さっきのとデジャヴが妙におかしくて、互いに腹を抱えて笑う。
ここまで被るか?
普通さ。
そう思うと余計におかしくて、奏も同じ気持ちなのか俺の手をペチペチと何度も叩いてきた。
このなんとも言えないやりとりのお陰で、気まずい雰囲気は一瞬のうちに霧散した。
「なぁ奏。この後、暇?」
「うーん。め〜っちゃ暇!!
「そっか。だったら、仕事までの間……ちょっとぷらぷらするか」
「いいよいいよ〜。その後、そのまま教室まで一緒に行くねっ!」
仕事が始まるまで、1時間ちょっと。
俺と奏は、ミニデートを楽しんだのだった。
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