第15話 仕事仲間と飲み会with元教え子 後編
——飲み会が始まり1時間ほど経過した頃。
お酒が進み、口が軽くなってくる時間だ。
二人から離婚について聞かれ、俺はありのまま事実を語った。
すると、余計にお酒が進み——
「決めたよぉ慎太郎!! 僕が慎太郎を泣かせた敵をぶっ飛ばしてやろうぅ〜っ」
「珍しく気が合いますねぇ〜。私、掃除は得意なんですぅ。ふふっ、社会のゴミなんていらないですよねぇ? ねー、しんちゃん……?」
「しんちゃんって佐原さん? 口調が崩れてるし、二人とも気持ちだけでいいからね?」
「何を言ってるんだよ慎太郎!! 男の敵は成敗しなきゃならんのですよっ! 尻軽女はぶっころだぁぁ〜っ」
「フフフ……」
と、こんな感じに佐原さんと敦はなってしまった。
普段のストレスも併さり拍車がかかったように、過激な言葉が次々と出てくる。
疲れが溜まっていたのもあるだろうが、敦は数杯、佐原さんに限っては一杯を飲みきることなくこの調子である。
俺の話を聞いて怒ってくれるのは嬉しいけど、呂律が回らなくなってきてるので、ちょっと心配な状況だ。
奏を見ると、同じことを思っているのか目の前の惨状を見て苦笑いをしていた。
「あらら〜、見事にできあがっちゃったねー……」
「だなぁ。でもまさか二人ともここまで弱いなんて」
「ははは……私もびっくりだよ。でも、色々と見れてよかったね」
「よかったって……。こんなに酔っ払ったら後で黒歴史として後悔するんじゃないか?」
「まぁそれはお酒の席の反省ってことで! 人って失敗しないと気が付かないこともあるしねっ。あ、でも有賀っちと私はセーブしないと、飲み過ぎてみんなダウンは笑えないし」
「ははっ、奏はほんと気遣いができるよな」
「もっと褒めていいよ〜?」
「はーい、よしよし」
頭を撫でろと差し出してきたので、応えるように撫でる。
彼女は「えへへ」と嬉しそうに笑い、それから俺の横にぴたりと張り付いてきた。
多少の酔いもあるのだろうが、非常に距離が近い。
横からなんとなく視線を感じ見ると、奏がにこにこと俺の顔を見つめていた。
「ねぇ有賀っち、知ってる?」
「何を?」
「酔ってると人って饒舌になって、本当に思ってることを口にするらしいよ。だから、普段言えないことや抱えてることが出やすいんだって」
「そうなのか……。じゃあ、なんだか照れ臭いな。本気で怒ってくれてて……」
「ふふっ。よかったね、こんないい友達がいて〜っ」
「友達……友達か。そうなのかもな……」
「……?」
——友達がいるか?
そう聞かれたら、即答できない自分がいる。
仲の良い同僚や後輩がいてもカテゴリー的に、友達と言えるかは微妙なところだ。
社会人になると、“友人という感覚より仲間”という意識の方が強いかもしれない。
後は、共通の趣味を持った人。
だから、“友達”というのは、学生だからこそ生まれる言葉だったと、俺は思っている。
俺だって、昔は友達と言える人たちはいた。
高校の時に仲が良かった友人に、大学時代に最初だけ話すようになっていた人達……。
でも、今ではすっかり疎遠になっている。
俺のせいで疎遠になってしまったと言っていいだろう。
あの時の俺はどうかしていたから……。
『恋人と友達、どっちが大事なの!?』
『それは……』
急に投げられた質問に良い返しが思い付かず、俺は黙ってしまった。
そして、言われた彼女からの言葉……。
『即答できないんだ……もういいっ!! 私なんて生きる価値なんてないんだよねっ!!! もう消えてやるからっ!』
そう言って、彼女は癇癪を起こして泣き始めてしまった。
当時の俺は、これを見てどうしていいかわからず右往左往していた。
何を言っても彼女は聞いてくれず、泣く一方である。
そして、今にも『言葉通りの行動をするのではないか?』という雰囲気……それに見事にのまれてしまったのだ。
それから負の連続、増長した彼女の言うことを聞くしかなくなっていった。
いや、聞かされていたと言ってもいいかもしれない。
あくまで今、思えばだが……。
……こんなタイミングで思い出すなんて。
こんなことがあって、友人の連絡先は元嫁に消され残ってもいない。
SNSなどは勿論、使わせてくれなかった。
……はぁ、本当にひどい。
ため息しか出ないでいると、俺の腕を掴み「これからだから頑張ろっ!」と元気いい姿を見せてくれた。
暗い気持ちを吹き飛ばすような、そんな表情に顔が自然と綻んだ気がした。
不意に肩へ腕を回され、敦が絡んでくる。
それに便乗するように、正面に座っている佐原さんはグラスをダンッと机に置いた。
「しんたろー? いいかぁ〜よく聞けよぉ」
「はいはい。ほら、敦。水を飲んで」
「ははっ、優しい〜。男なのにその気遣いは惚れ惚れするぜっ!!」
「がはは」と壮大に笑い俺の背中を叩く。
酔っているから力の加減が出来ておらず、無駄に痛い……。
「そういう女は自分が中心って思ってる節があるから気をつけろよー」
「そうですよ、しんちゃん! しれっと戻ってくるかもしれません。『ここは私の家だ〜』とか言ってぇ」
「だよなぁ! 話を聞く限りだと相当頭がメルヘンだと思うから突飛なことあるよ、絶対!」
「それ凄いわかりましゅ……あ、考えてたらまた腹が立ってきました……」
「まぁ二人とも色々とありがとう。けど、俺にも落ち度はあるからさ。反省しないとは思って——」
「落ち度ってはないだろ〜」「全くありません!!」
「お、おう……」
勢いよく食い気味に言われ、俺はたじろいだ。
……このからみ酒、二人を止めて欲しい。
そんな願いは通じるわけもなく、奏はニコニコとこの状況を見て楽しんでいるようで、俺は嘆息した。
「しんちゃんを捨てるなんてぇぇぇええ。それなら私が欲しいですよ〜」
「ぼ、僕も嫁に欲しいぞ〜! 料理を作れ〜…………」
「……負けませんよ! しんちゃんに料理を作ってもらうのは私で…………す」
「「くぅ…………」」
テンションを上げ切って、突っ走った……その結果は爆睡。
あどけない顔で寝息をたてている。
そんな光景が微笑ましく感じた。
ほんと、にぎやかな二人だなぁ~。
「ある意味、息ぴったり……」
「アハハッ! そうかもねッ! っていうか、有賀っちモテモテじゃ〜ん」
「言ってることが家政婦を欲している感じになってるけどね」
「確かに! んーそれでどうする? 有賀っちも疲れて寝たいなら、ちょっと寝ていいよ? 出なきゃいけなくなったら起こしてあげるし」
「いや、俺は大丈夫。なんかもう少し余韻に浸りたいし、この雰囲気を楽しみたい気分なんだ」
「そっかぁ。
「えっと……これが青春なのか?」
「ふふ、どうでしょー?」
意味あり気に笑う彼女。
その笑いが何を意味しているがわからない。
けど、悪くないな。
こういう日も。
楽しく、なんのしがらみもなく、気にすることなく過ごすのが……。
そう思って、俺は再びグラスを口へと傾けた。
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